かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

文字の大きさ
34 / 65

第34話 ローズ・ファラント ②

しおりを挟む
 そこからは試行錯誤の繰り返しだった。

 別れた自分ローズは次の世界でも時間遡行を繰り返し、ベリルが亡くならない未来を構築しようとした。

 国内の派閥を掌握するのは勿論、国外の脅威も排除したが、それでも――。

『どうして……』

 ベリルが消える未来はなかなか変わらなかった。

 そして自分ローズは少し違う方法を試すことにする。

 懐から取り出したのは銀の髪飾り。

 ベリルがローズのために作らせたものだった。

『銀の髪に銀だなんて』

 嬉しかったのに文句しか返せなかったその時の自分が恨めしい。

 その髪飾りに魔術を定着させる。

 ある一定の条件を達成することでこれまでの自分ローズの記憶が蘇るようにしておくのだ。

 毎回、自分に説明するのも手間暇だということもあるが、これはひとつの世界に同じ人物が『二人』存在してはならない、ということに気付いたこともある。

 世界に強制排除される前に手っ取り早く状況を理解してもらうにはこの方が都合が良かった。

 そして自分の年齢と魔力の残り具合から次の世界が最後、と決めていた。

 その世界では少しだけ違う接触を試みた。

 わざと自分ローズが生まれるよりずっと以前の世界へ行き、自分ローズの父親と会った。

 相手は貴族なので潜入に手間取ったが何とか言葉を交わし、将来の家族に感情を向けられるように持って行く。

 かなり回りくどい方法だが、恐らくこれで生まれる新しい自分ローズの性格に良い影響が生まれるかもしれない。

 少なくともどのような出会いでも最初から拒絶するようなことはないだろう。

 そして今回は自分ローズがある程度成長するまでベリルと出会わないようにした。

 人族のローズがベリルの『運命の番』だと分かったのか。それには理由があった。

 シュガルト国とカントローサ国との国境線での小競り合いの中、敗残兵が持っていた所有物からローズの存在が知れたのだ。

 ローズが始めて刺繍を施したハンカチだった。

 それは本来ならば父親へ送ろうとしたのだが、どうしても渡すことが出来ず、思わず捨てようとした時、見かねたのか出入りの人のさげな商人が受け取ってくれた。

 だがその商人は運悪く盗賊に襲われ、盗賊と結託していたカントローサ国の兵士に強奪に遭い亡くなってしまう。

 そんな経緯など知らないシュガルト国側はローズの生家がカントローサ国へ与していると考え、ローズを嫁せば見逃してやろうと話を持ち出したのだ。

 そんな流れで運命の番だと言われても納得できるはずもなく。 

『これはお前のものだろう』

 見せられたハンカチは微かに血痕がついていて。

『……ベンヌ叔父様に何をしたの?』

『そんな者は知らないが。――まだ何か裏があったのか』

 事情は後から知れたがその頃には関係の修復は不可能なほどになっていた。

『ベンヌ叔父様が死んだ? 貴方達が殺したの!?』

『違う!! これはカントローサの――』

『もう、いい。叔父様までいないなんて……』

 元々家族の愛情が希薄だったローズの心の拠り所の一つでもあった商人の死を知らされ、ローズの心は更に閉ざされた。

 俯瞰して見ていたローズはそこでも違和感を感じた。

(変ね? ベンヌなどという商人は知らないのだけれど――)

 その疑問はすぐに晴れることになる。

 時間遡行した自分ローズが策を講じたのだ。

 最初の頃は直接ベンヌの商隊を助けていたが、それでも後に何度も襲われ、似たような流れが出来上がってしまう。

 なので今度は違う方法を取ることにした。

 要は父親がローズの刺繍したハンカチを受け取ればいいのだ。

 自分ローズの忠告を受けたせいか、父親は以前ほど厳しい態度を見せず、ローズの拙い刺繍入りハンカチを受け取った。

(――え?)

『これをお前が仕上げたのか?』

『はい。お父様』

 緊張しながら答えたローズにファラント公爵は優しい笑み浮かべた。

『そうか。良くやったな』

『有難うございます』
 
 どうして忘れていたのか。

 そしてこの後兄ダニエルにも強請られてもう一枚ハンカチに刺繍するはめになったことも。

(どうして思い出せなかったのかしら?)

 ローズは――少なくとも現在は――家族の愛情が希薄な子供ではなかった。

 そして以前はなかったはずのエドモンドとの婚約。

 これでどうやってベリルと出会うというのだろう。

 エドモンドが『運命の番』と出会い、婚約が解消されるのも知っている。

 修道院へ行く段になって漸くローズは気が付いた。

 あの蹲っていた老婆は自分ローズなのだ、と。

 そして礼にと渡された銀の髪飾り。

 それは確かにベリルが選んだという髪飾りだった。

(だけど――)

 これは後にベリルから贈られるものである。

 後から矛盾にならないだろうか。

 それに受け取りはしたが、髪飾りから記憶を受け取った感覚は――


『ちょうど頃合いだね』


 聞いたことのある声がし、ローズの意識は引き戻される。

(待って――)

 まだ情報が足りない。

 抗うローズの意識に幾つかの場面の断片のようなものが掠めた。



『……どうして貴女が、』

『もっと力が欲しい』

『俺に番なんて居ません』



(あ、れは――)



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

間違えられた番様は、消えました。

夕立悠理
恋愛
※小説家になろう様でも投稿を始めました!お好きなサイトでお読みください※ 竜王の治める国ソフームには、運命の番という存在がある。 運命の番――前世で深く愛しあい、来世も恋人になろうと誓い合った相手のことをさす。特に竜王にとっての「運命の番」は特別で、国に繁栄を与える存在でもある。 「ロイゼ、君は私の運命の番じゃない。だから、選べない」 ずっと慕っていた竜王にそう告げられた、ロイゼ・イーデン。しかし、ロイゼは、知っていた。 ロイゼこそが、竜王の『運命の番』だと。 「エルマ、私の愛しい番」 けれどそれを知らない竜王は、今日もロイゼの親友に愛を囁く。 いつの間にか、ロイゼの呼び名は、ロイゼから番の親友、そして最後は嘘つきに変わっていた。 名前を失くしたロイゼは、消えることにした。

【完結】気味が悪いと見放された令嬢ですので ~殿下、無理に愛さなくていいのでお構いなく~

Rohdea
恋愛
───私に嘘は通じない。 だから私は知っている。あなたは私のことなんて本当は愛していないのだと── 公爵家の令嬢という身分と魔力の強さによって、 幼い頃に自国の王子、イライアスの婚約者に選ばれていた公爵令嬢リリーベル。 二人は幼馴染としても仲良く過ごしていた。 しかし、リリーベル十歳の誕生日。 嘘を見抜ける力 “真実の瞳”という能力に目覚めたことで、 リリーベルを取り巻く環境は一変する。 リリーベルの目覚めた真実の瞳の能力は、巷で言われている能力と違っていて少々特殊だった。 そのことから更に気味が悪いと親に見放されたリリーベル。 唯一、味方となってくれたのは八歳年上の兄、トラヴィスだけだった。 そして、婚約者のイライアスとも段々と距離が出来てしまう…… そんな“真実の瞳”で視てしまった彼の心の中は─── ※『可愛い妹に全てを奪われましたので ~あなた達への未練は捨てたのでお構いなく~』 こちらの作品のヒーローの妹が主人公となる話です。 めちゃくちゃチートを発揮しています……

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

処理中です...