かつて番に婚約者を奪われた公爵令嬢は『運命の番』なんてお断りです。なのに獣人国の王が『お前が運命の番だ』と求婚して来ます

神崎 ルナ

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第57話 転移陣

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「その前に貴国側の魔法陣も確認しないとですね。――サイモン」

「かしこまりまして。それではお手数にございますがシュガルト国に魔法陣の描かれた部屋がないかどうかのご確認をお願い致しく存じます」

 ――それなら心配ない。恐らくこれだろうというのを見付けてあるよ。
 
 アーロン王が騎士に持たせてきていた魔道具の鏡から、シュガルト国の筆頭魔術師が返答をした。

「それは重畳。では皆様こちらへ。シュガルト国王妃様方もお手数ですがご移動のほど、よろしくお願いいたします。それから手順はこの魔道具と同じにございます。シュガルト国王妃様を始めとした皆さまは魔法陣の稼働後、待機をお願いいたします」

 そう告げて魔術サイモンが案内したのは先ほどの地下室の更に奥にある部屋だった。

 床に描かれた魔法陣らしき模様の前で魔術師サイモンが振り返る。

「これはこのカントローサ国とシュガルト国を結んでいる、とのことです」

 現在の転移術ではここまで長距離を結ぶものは有り得なかった。

「起動方法は先ほどの魔道具と同じでして、人族の者、獣人の者、そして片方の親が獣人である者の血を使います」

 聞いていたベリルが疑問の声を上げた。

「だが血はすぐに凝固するが。そんなにすぐに用意できるのか?」

「カントローサの魔術師には片方の親が獣人の者がございますれば」

 魔術師サイモンの言葉に場の空気がざわり、と揺れた。

「それは本当なのか?」

 カントローサ側も知らなかったようで、その問い掛けをしたのはアーロン王だった。

「御意。前王の施政では命が危ぶまれたため、人前には決して出さず、人族として扱ってきました。現在別室に控えている魔術師の中におりますが、どれがその者か詮索はなされませんようお願いいたします」

 魔術師サイモンの言葉に否を唱える者はいなかった。

 小瓶から血が注がれると魔法陣が淡い光を放つ。

「あとはシュガルト国側の魔法陣が稼働するまで……早いですね」

 魔術師サイモンの言葉が終わるより先にシュガルト側の魔法陣も起動したらしい。

 そこまではよかったのだが、誰が行くかで揉め事が起きた。

「ですからここで陛下が赴かれるのは――」

 反対するリヨンに対しベリルが不満そうに反論する。

「だがこの場合俺が行かないと解決しないのではないか?」

「それでもだめです」
 
 きっぱりと告げるリヨンにアーロン王が声をかける。

「それはどうでしょうかね。――レイン」

 アーロン王の呼びかけに側近らしき青年が応じた。

「確かに通常の例であればこのような場で責ある立場の方が交渉の途中で帰国されるというのは聞いたことがございませんが、今回の場合、我々人族には理解の及ばない『番』という事情もあるようですから、そこを鑑みれば特例として認めてもよろしいのではないでしょうか」

「だそうだ」

 リヨンに対してどこか得意げなベリルにリヨンが反論した。

「だからといってご厚意に甘えてどうするんですか!! 交渉事の初手をお忘れですか!?」

 こういった事柄では極力相手側に借りを作らないことが基本である。
 
 だが今回は例の仮面舞踏会の一件と前国王夫妻の件があり、シュガルト国側が大いに有利な展開だった。

 それらを暗に指摘した発言にアーロン王が自嘲めいた笑みを浮かべる。

「側近殿、その危惧は不要ですよ。我がカントローサ国はあまりにも罪を犯し過ぎた」

「国王陛下!!」

 レインが窘めるように声を上げるがアーロン王は頓着していないようだった。

「そうだろう? あれほどのことをしてしまったのだ。これくらいのことで目くじらを立てる者などいないだろう」

 まさに宣戦布告しようとしてたシュガルト国側としてはなんとも言い難い発言だった。

「仕方ありませんね。それではそちらはこれまでうちにかけていた関税すべての撤廃と前王の首級――でなければ前王が確かにこの世から去ったと確信できるものの提示をお願いいたします。細かいところは後で詰めるとしてこれが最低ラインでしょうね」

 どこか遠い目をしたリヨンがそう告げるとベリルが魔法陣へ足を踏み出した。

「話は付いたか? 早速だが移動を頼む」

 顔色が悪いが大丈夫か、と続けて聞かれたリヨンが嚙みつくような勢いで返す。

「何をおっしゃってるんですか。そもそもの元凶の方が!!」

 どこか同情めいた眼差しがリヨンに集まったのは言うまでもなかった。

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