こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ

文字の大きさ
5 / 7

逆転?

しおりを挟む
「――ということでこの問題はこの公式だね。分かったね?」

「え、ちょっと待ってっ!! 早いってっ!!」

「……うん。そうそのまま続けて。で、答えは?」

「え、とこれでいい?」

 ノートを寄せるついでにこちらへ来た光に内心どきりとしながら頷く。

「うん。いいよ」

 これで大体大丈夫だろう。

 後は帰るだけ、と教科書をしまおうとした僕の手が止められた。

(え?)

「聞きたかったんだけどさ。何か最近海斗変じゃない?」

「何のこと?」

 平静に見えるように答えるが内心はばくばくしている。

 光が顔を覗き込んで来る。

「何かさ。ここのところ一緒に帰るのって少なくない? それにもしかして俺のこと避けてる?」

「違う」

「そう? じゃあ俺のこと嫌い?」

「は?」

 いきなりの問いに僕は答えられなかった。

 だってやっと光への想いを捨てられるかもしれない、と思ったのに。

 ここに来てそれはないだろう。

 何も答えられない僕の前で光がスマホを取り出した。

「ねえ、これ書いたの海斗でしょ?」

 スマホの画面には例の小説サイトがあった。

 そして開かれているのはついさっき投稿したばかりの『バウムクーヘンエンド』。

(どうしてっ!?)

 僕が驚いているのが分かったのだろう。

 光が説明してくれた。

「何かさっきから海斗、スマホの画面見過ぎ。ちょっと気になったからさっき海斗がお手洗い入った時に見ちゃったんだ。使用履歴」

 てへ、と笑う光に怒りたいが出来ない。

 何故ならこれは僕も以前やらかしたことがあったから。

 中学の時、僕が原因で光が苛められてないか心配で時々光のスマホをチェックしてしまったことがあった。

 何回かは本人の許可を得たけれど、光が隠していないか心配になってこっそり見てしまったことがあって。

 その時は理由を告げて謝罪し、光も許してくれた過去がある。

(何やってんだろ、僕)

「……ちょっとそういう気分だったから」
 
 何とか言い訳めいたことを言うが、光の声が普段より低い。

「うん。そうだね。でもさあ。何このタグ――『心の整理に置いただけ』って」

 ――俺とのことはすっぱり忘れて誰かほかの奴と付き合おうってつもり?

 ハイライトの消えた目をした光がぐいぐい迫って……え? 何で僕が押し倒されてるんだっ!?

「はあ。ほんとに。誤解されるようなことあったのは認めるけど。ねえ、本当に諦めるの? 俺のこと」

(近い近い近いっ!!)

 その距離の近さもだが、どこか目が死んでる光のことが気になって押し返すことが出来ない。
 
「知ってた? こうして家に上げるのって海斗だけなんだよ。ひょっとして何にも伝わってなかったの?」

「え、じゃあ三石さんは、」

「彼女が好きな人が俺と同じ部活なの。で、その時の様子とか好きなタイプとか教えてただけ」

「は?」

(何だそれ。マジに何なんだよそれは)

 それじゃあ光はまだ誰とも――

「全く。母さんはともかく父さんにも認めて貰うにはまだかかりそうなんだけど」

 何だか聞き捨てならない台詞が聞こえたような。

「海斗が不安になるならしょうがない――って何逃げようとしてるの?」

 床に転がったままずりずりと後退ろうとした腰を捕らえられて思わず目を逸らした。

「いやあの、僕もうそろそろ帰――「帰るなんて言わないよね?」

 これは誰だ?

 いつもぽやぽやした雰囲気の光の姿などどこにもなくまるで肉食獣のような――

「好きだよ。海斗。白詰草の時はちょっと失敗しちゃったから、今度はきちんと出来るまで待とうと思っていたんだけど。おかしな誤解される位なら言うよ。俺は海斗が好きだよ」

 ちょっとぽんやりした幼なじみ。
 
 誰がそんなことを言ったんだろうか。

 確かに光は僕より少し小柄で背が低い。

 けどそれは決して光が一人の男性だということを損なっていない。

(……え、ちょっとヤバい)
 
 ここでほんの少しだけカッコいいと思ってしまった僕はおかしいのかもしれない。

「海斗?」
 
 少し不安そうな顔になった光が口を開く前に、僕も言葉を絞り出す。

 ただどうしても顔は見れなかったけれど。

「……好きだよ。ずっと前から」

 よそ見をしたままの僕の首筋に光のふわふわのくせっ毛が擦りつけられた。

「くすぐったいよ」

「ちゃんと顔見せてくれたら離すよ」

「……」

 こちらの顔が真っ赤なのを知っていて言うのは少し意地が悪いと思う。

 そのまま動けずにいる僕の耳朶に光の息がかかる。そして軽く添えられていただけの腕が意思を持って動き始めた。

「滅茶苦茶待ったんだけど――いいかな?」

「は、えっ、ちょっと待っ」

(いやいやいやっ、無理だっ、ハードルが高すぎるっ!! というかまさか僕が下なのかっ!!)

 じたばたと暴れる僕に何を思ったのかふいに光の身体が離れた。

(……え?)

「もういいよ。無理矢理にする気はないし。でも」

 ――これ位いいよね。

 囁くように言われて近付いてきた光に逆らう意思は流石になかった。


 

 後日、孤高の委員長の首筋に薄紅の印があったとかなかったとかで学校内に旋風が巻き起こったとか。




                               (  完  )




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

片思いの練習台にされていると思っていたら、自分が本命でした

みゅー
BL
オニキスは幼馴染みに思いを寄せていたが、相手には好きな人がいると知り、更に告白の練習台をお願いされ……と言うお話。 今後ハリーsideを書く予定 気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいましたのスピンオフです。 サイデュームの宝石シリーズ番外編なので、今後そのキャラクターが少し関与してきます。 ハリーsideの最後の賭けの部分が変だったので少し改稿しました。

息の合うゲーム友達とリア凸した結果プロポーズされました。

ふわりんしず。
BL
“じゃあ会ってみる?今度の日曜日” ゲーム内で1番気の合う相棒に突然誘われた。リアルで会ったことはなく、 ただゲーム中にボイスを付けて遊ぶ仲だった 一瞬の葛藤とほんの少しのワクワク。 結局俺が選んだのは、 “いいね!あそぼーよ”   もし人生の分岐点があるのなら、きっとこと時だったのかもしれないと 後から思うのだった。

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

絶対に追放されたいオレと絶対に追放したくない男の攻防

藤掛ヒメノ@Pro-ZELO
BL
世は、追放ブームである。 追放の波がついに我がパーティーにもやって来た。 きっと追放されるのはオレだろう。 ついにパーティーのリーダーであるゼルドに呼び出された。 仲が良かったわけじゃないが、悪くないパーティーだった。残念だ……。 って、アレ? なんか雲行きが怪しいんですけど……? 短編BLラブコメ。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

処理中です...