本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ

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第二十三話 不信感

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「これは魔術を取り込み、その後更に魔術を組み込むことで吸い取った魔術を展開させることができる、という魔道具です」

 ぱっと見には赤い石――宝石だと言われても疑わないくらい綺麗なものに見えた。

 性能に反して小さな魔道具に思わず見入っているとリードがそれを卓上に、ことり、と置いた。

「この石は自動的に魔術を取り込むこともできるので、王族の間では護符代わりに身に付けていることがよくあります。……先日カーラ様と遭遇された時のように」

 ――は?

 思わせぶりな台詞に目線で先を促すと、

「ジェラルド様がカーラ様と会ったとき、カーラ様が展開されてジェラルド様の方へ向いていた魔術をこの魔道具へ取り込んでいた、と言えば分かりますか?」

 ――ん?

 馬車が襲撃された時、カーラは『思ったこととは反対のことを言う魔術』を盗賊たちにかけた。森の中だったため、木々の間にまだ盗賊が潜んでいる可能性を考えてだいぶ広い範囲にした。

 だからあの時ジェラルドがリュートを手にしながら『自分は吟遊詩人』だ、と見た目に合った発言ができたのか。

 まあ、実際には違っていたけれど。

「ではそこに私の魔術が入っているのでしょうか?」

「いえ。この魔道具はその時のものではありません。カーラ様の魔術が取り込まれた魔道具は他の者が使用しています」

 ――自分がそれを身に付けている、とは知らずに。

 言いにくそうに告げるリードの様子から、かなりの気まずさが伝わって来る。
 
 リードがそれほど気まずげになるだなんて、一体誰が付けているのだろう。

 そこまで考えたカーラは、はたと気付いた。

 リードとはここ最近知り合ったばかりである。

 そのリードが気まずげにしていることに加え、リードとの共通の人物など片手で数えるくらいしかいないではないか。

 ――急に素直に罪を認めたエリス。

 ――自分が参加できなかった裁判。

 ――本人は魔道具を身に付けていることに気付いていない。

 魔道具の持ち主はジェラルドで、リードの様子からジェラルドはエリスに魔道具の性能について何も告げずに渡したようだった。

 裁判をすんなり結審させ、エリスを有罪にするために。

 確かにエリスはこうでもしなければ罪を認めることはなかったと思える。

 だけど、何か釈然としない。

「殿下はカーラ様大事のため、時折り周りが見えなくなることがございます。ご不快かもしれませんが――「私に我慢しろと?」

 思わずリードの言葉を遮ってしまった。

 これまでずっと両親に私の意見は取り上げられなかった。

 私にだって意思はあるのに。

 せめて事前に話していてくれればこんなことを思わずに済んだのに。

 無断で事を運んだジェラルドにも、主の代わりに謝罪するリードの姿にも苛立ちが募る。

 それにひとつ気付いたことがある。

「リード」

「はい」

「殿下はこの件で自分が悪いとは少しも思ってないのね」

 リードがこうして謝罪しているのがそのことを確信させた。

 カーラの言葉にリードの瞳が動揺したように揺れた。

「それは――」

「もういいわ」

「誠に申し訳ありません!!」

 カーラは自分の気持ちが冷めていくのを感じた。

 最初に会った時には少し軽薄な印象もあったが、人当たりの良いジェイドにカーラは好感を抱いていた。

 自分が『神託の花嫁』に選ばれたことには戸惑いがあったが、ジェラルド(ジェイド)なら、この未知の場所でも一緒にやっていけるかもしれない、と思い始めていたところだったのに。

 どうしよう。このままではジェラルドに不信感を抱いたまま結婚することになりそうだわ。

 神託の花嫁に選ばれたこと、ジェラルドがいずれ王太子になること、エリスの供述に自分の魔術を利用されたこと、さまざまな事が頭をよぎり、考えがまとまらない。

 ひとりになりたい。

 でもその前に――

「少し聞きたいことがあるのだけど」






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