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第二十四話 姉妹の対話 (前)
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エリスが入れられているという独房は奥まったところに作られていた。
「本当によろしいのですか」
あの後エリスと面会できるように取り計らってほしい、と告げるとリードは難しい表情になったが、分かりましたと応じてくれた。
それから二日後、こうしてカーラはエリスが収監されているという独房を訪れていた。
先導するのは護衛として付けられた衛兵が二人とリードがいた。そしてカーラの後ろから恐る恐るという様子で付いて来るリズがいた。
この収容所に入ってからなので、恐らく通路が暗く狭いことからリズは怖がっているのだろう、とカーラは当たりを付けた。
まあ普通はそうでしょうね。
カーラは男爵家にいた頃、何度か粗相をしたとして夜中に外へ出されたり、明かりのない部屋へ閉じ込められたりしたことがあったため、こういったことには耐性があると自負している。
ここに収容されるのはまだ判決が確定していない者が多いが、エリスの場合は女性だということと監視のため、独房に入れられたという。
現在五つある独房はエリスもの以外は空室のようだった。
空の独房が立ち並ぶ一角を暫く歩き、一つ角を曲がると鉄格子が見えた。
そこにいたのは、以前とは比べ物にならないほどやつれたエリスだった。
艶があり波打っていた金髪は色つやがなくぼさぼさになっており、肌は水分が抜けて萎びた印象を受けた。
これがエリスなの!?
「お姉様、お会いできて嬉しいです!!」
言葉は歓迎しているのにその表情は逆を行っている。
「本当にすみませんでした!! これまでのことは反省し、粛々と罪を償いますわ!!」
だがその目にはしっかりと憎しみが燃え、口元は引くついている。
見慣れた現象にため息をつきたくなった。
「まだ外してないのね」
ジェラルドに聞いて来ればよかった、と思っているとリードが、
「発言失礼します。確認してきたのですが、そろそろ許容量を越えるので、一番言いたいことを叫べば自然に解除されるそうです」
その言葉を聞くなりエリスが叫んだ。
「お姉様、大好きです!!」
魔道具が魔術を展開させているので、つまりはそういうことだろう。
冷めた目でエリスの方を見ていると、かしゃんと軽い音がする。
その瞬間エリスが叫んだ。
「あー、あー。私はお姉様のことなんて何とも思ってないわ。――喋れる!!」
やったぁ、と喜色を隠そうともしないエリスの方を見てリードが謝罪した。
「何と言うか、申し訳ありません」
「いいのよ。気にしてないから」
この娘は何を言ったのか分かっているのかしら?
現に警護してくれている衛兵たちはエリスの方を睨んでいる。
私が神託の花嫁、ということを忘れているみたいね。
半ば呆れつつ見ているとエリスがとんでもない発言をした。
「ねぇ、私さっきまでおかしな魔術に掛けられていたの。だから裁判をやり直して!!」
――は?
「だから私が裁判で言ったことは全部違うの!! あの顔はいいけど腹の中真っ黒な男に騙されてこんな変なものを付けさせられたんだから!!」
悪いのはその男で自分ではない、と喚くエリスに向かう視線は冷たかった。
「あなた本気で言っているの?」
自然こちらの声も固いものになる。
「当たり前じゃない!! 私は何もしてないわ!!」
胸を張って言う様子には罪悪感のかけらすら見つけられなかった。
私は何を期待していたのかしら。
もし少しでも反省していたら、などという考えは甘かったみたいだわ。
「エリス。裁判のやり直しなんてないわよ。すべて終わったことなの」
そう言うとエリスの顔に驚愕と絶望が浮かんだようだった。
「そんなことないわ!! 今からでも――」
「ないわね」
「お姉様じゃ話にならないわ!! もっと偉い人を呼んできてよ!!」
何を言っているのかしらこの子は。
以前思ったことがある。
もし自分がエリスより優位な立場に立って、これまでのエリスの言動を糾弾できたら、と。
そうしてエリスが悔しがるさまを眺められたら、と。
今目の前にその光景が広がろうとしているのに何故かあまり嬉しくない。
「偉い人、ね。神託の花嫁は王族と同等の扱いを受けるのだけど」
それ以上の存在なんてこの国にいらっしゃるかしら?
そう続けると、う、とエリスは言葉に詰まったようだったが、
「お姉様が『神託の花嫁』だなんて何かの間違いよ!! ほら、私の方がずっとふわさしいと思わない!?」
見せつけるように胸を張るが誰も口を開かなかった。
沈黙に耐えかねたようにエリスが叫んだ。
「何よ何よ!! 見ればすぐに分かるじゃないの!!」
以前ほとんど同じ台詞を男爵家にいた頃に聞いたけれど、エリスは気付いていないのだろうか。
「本当によろしいのですか」
あの後エリスと面会できるように取り計らってほしい、と告げるとリードは難しい表情になったが、分かりましたと応じてくれた。
それから二日後、こうしてカーラはエリスが収監されているという独房を訪れていた。
先導するのは護衛として付けられた衛兵が二人とリードがいた。そしてカーラの後ろから恐る恐るという様子で付いて来るリズがいた。
この収容所に入ってからなので、恐らく通路が暗く狭いことからリズは怖がっているのだろう、とカーラは当たりを付けた。
まあ普通はそうでしょうね。
カーラは男爵家にいた頃、何度か粗相をしたとして夜中に外へ出されたり、明かりのない部屋へ閉じ込められたりしたことがあったため、こういったことには耐性があると自負している。
ここに収容されるのはまだ判決が確定していない者が多いが、エリスの場合は女性だということと監視のため、独房に入れられたという。
現在五つある独房はエリスもの以外は空室のようだった。
空の独房が立ち並ぶ一角を暫く歩き、一つ角を曲がると鉄格子が見えた。
そこにいたのは、以前とは比べ物にならないほどやつれたエリスだった。
艶があり波打っていた金髪は色つやがなくぼさぼさになっており、肌は水分が抜けて萎びた印象を受けた。
これがエリスなの!?
「お姉様、お会いできて嬉しいです!!」
言葉は歓迎しているのにその表情は逆を行っている。
「本当にすみませんでした!! これまでのことは反省し、粛々と罪を償いますわ!!」
だがその目にはしっかりと憎しみが燃え、口元は引くついている。
見慣れた現象にため息をつきたくなった。
「まだ外してないのね」
ジェラルドに聞いて来ればよかった、と思っているとリードが、
「発言失礼します。確認してきたのですが、そろそろ許容量を越えるので、一番言いたいことを叫べば自然に解除されるそうです」
その言葉を聞くなりエリスが叫んだ。
「お姉様、大好きです!!」
魔道具が魔術を展開させているので、つまりはそういうことだろう。
冷めた目でエリスの方を見ていると、かしゃんと軽い音がする。
その瞬間エリスが叫んだ。
「あー、あー。私はお姉様のことなんて何とも思ってないわ。――喋れる!!」
やったぁ、と喜色を隠そうともしないエリスの方を見てリードが謝罪した。
「何と言うか、申し訳ありません」
「いいのよ。気にしてないから」
この娘は何を言ったのか分かっているのかしら?
現に警護してくれている衛兵たちはエリスの方を睨んでいる。
私が神託の花嫁、ということを忘れているみたいね。
半ば呆れつつ見ているとエリスがとんでもない発言をした。
「ねぇ、私さっきまでおかしな魔術に掛けられていたの。だから裁判をやり直して!!」
――は?
「だから私が裁判で言ったことは全部違うの!! あの顔はいいけど腹の中真っ黒な男に騙されてこんな変なものを付けさせられたんだから!!」
悪いのはその男で自分ではない、と喚くエリスに向かう視線は冷たかった。
「あなた本気で言っているの?」
自然こちらの声も固いものになる。
「当たり前じゃない!! 私は何もしてないわ!!」
胸を張って言う様子には罪悪感のかけらすら見つけられなかった。
私は何を期待していたのかしら。
もし少しでも反省していたら、などという考えは甘かったみたいだわ。
「エリス。裁判のやり直しなんてないわよ。すべて終わったことなの」
そう言うとエリスの顔に驚愕と絶望が浮かんだようだった。
「そんなことないわ!! 今からでも――」
「ないわね」
「お姉様じゃ話にならないわ!! もっと偉い人を呼んできてよ!!」
何を言っているのかしらこの子は。
以前思ったことがある。
もし自分がエリスより優位な立場に立って、これまでのエリスの言動を糾弾できたら、と。
そうしてエリスが悔しがるさまを眺められたら、と。
今目の前にその光景が広がろうとしているのに何故かあまり嬉しくない。
「偉い人、ね。神託の花嫁は王族と同等の扱いを受けるのだけど」
それ以上の存在なんてこの国にいらっしゃるかしら?
そう続けると、う、とエリスは言葉に詰まったようだったが、
「お姉様が『神託の花嫁』だなんて何かの間違いよ!! ほら、私の方がずっとふわさしいと思わない!?」
見せつけるように胸を張るが誰も口を開かなかった。
沈黙に耐えかねたようにエリスが叫んだ。
「何よ何よ!! 見ればすぐに分かるじゃないの!!」
以前ほとんど同じ台詞を男爵家にいた頃に聞いたけれど、エリスは気付いていないのだろうか。
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