本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ

文字の大きさ
24 / 47

第二十四話 姉妹の対話 (前)

しおりを挟む
 エリスが入れられているという独房は奥まったところに作られていた。

「本当によろしいのですか」

 あの後エリスと面会できるように取り計らってほしい、と告げるとリードは難しい表情になったが、分かりましたと応じてくれた。

 それから二日後、こうしてカーラはエリスが収監されているという独房を訪れていた。

 先導するのは護衛として付けられた衛兵が二人とリードがいた。そしてカーラの後ろから恐る恐るという様子で付いて来るリズがいた。

 この収容所に入ってからなので、恐らく通路が暗く狭いことからリズは怖がっているのだろう、とカーラは当たりを付けた。

 まあ普通はそうでしょうね。

 カーラは男爵家にいた頃、何度か粗相をしたとして夜中に外へ出されたり、明かりのない部屋へ閉じ込められたりしたことがあったため、こういったことには耐性があると自負している。

 ここに収容されるのはまだ判決が確定していない者が多いが、エリスの場合は女性だということと監視のため、独房に入れられたという。

 現在五つある独房はエリスもの以外は空室のようだった。

 空の独房が立ち並ぶ一角を暫く歩き、一つ角を曲がると鉄格子が見えた。

 そこにいたのは、以前とは比べ物にならないほどやつれたエリスだった。

 艶があり波打っていた金髪は色つやがなくぼさぼさになっており、肌は水分が抜けて萎びた印象を受けた。

 これがエリスなの!?

「お姉様、お会いできて嬉しいです!!」

 言葉は歓迎しているのにその表情は逆を行っている。

「本当にすみませんでした!! これまでのことは反省し、粛々と罪を償いますわ!!」

 だがその目にはしっかりと憎しみが燃え、口元は引くついている。
 
 見慣れた現象にため息をつきたくなった。

「まだ外してないのね」

 ジェラルドに聞いて来ればよかった、と思っているとリードが、

「発言失礼します。確認してきたのですが、そろそろ許容量を越えるので、一番言いたいことを叫べば自然に解除されるそうです」

 その言葉を聞くなりエリスが叫んだ。

「お姉様、大好きです!!」

 魔道具が魔術を展開させているので、つまりはそういうことだろう。

 冷めた目でエリスの方を見ていると、かしゃんと軽い音がする。
 
 その瞬間エリスが叫んだ。

「あー、あー。私はお姉様のことなんて何とも思ってないわ。――喋れる!!」

 やったぁ、と喜色を隠そうともしないエリスの方を見てリードが謝罪した。

「何と言うか、申し訳ありません」

「いいのよ。気にしてないから」

 この娘は何を言ったのか分かっているのかしら?

 現に警護してくれている衛兵たちはエリスの方を睨んでいる。

 私が神託の花嫁、ということを忘れているみたいね。

 半ば呆れつつ見ているとエリスがとんでもない発言をした。

「ねぇ、私さっきまでおかしな魔術に掛けられていたの。だから裁判をやり直して!!」

 ――は?

「だから私が裁判で言ったことは全部違うの!! あの顔はいいけど腹の中真っ黒な男に騙されてこんな変なものを付けさせられたんだから!!」

 悪いのはその男で自分ではない、と喚くエリスに向かう視線は冷たかった。

「あなた本気で言っているの?」

 自然こちらの声も固いものになる。

「当たり前じゃない!! 私は何もしてないわ!!」

 胸を張って言う様子には罪悪感のかけらすら見つけられなかった。

 私は何を期待していたのかしら。

 もし少しでも反省していたら、などという考えは甘かったみたいだわ。

「エリス。裁判のやり直しなんてないわよ。すべて終わったことなの」

 そう言うとエリスの顔に驚愕と絶望が浮かんだようだった。

「そんなことないわ!! 今からでも――」

「ないわね」

「お姉様じゃ話にならないわ!! もっと偉い人を呼んできてよ!!」

 何を言っているのかしらこの子は。

 以前思ったことがある。
 
 もし自分がエリスより優位な立場に立って、これまでのエリスの言動を糾弾できたら、と。

 そうしてエリスが悔しがるさまを眺められたら、と。

 今目の前にその光景が広がろうとしているのに何故かあまり嬉しくない。

「偉い人、ね。神託の花嫁は王族と同等の扱いを受けるのだけど」

 それ以上の存在なんてこの国にいらっしゃるかしら?

 そう続けると、う、とエリスは言葉に詰まったようだったが、

「お姉様が『神託の花嫁』だなんて何かの間違いよ!! ほら、私の方がずっとふわさしいと思わない!?」

 見せつけるように胸を張るが誰も口を開かなかった。

 沈黙に耐えかねたようにエリスが叫んだ。

「何よ何よ!! 見ればすぐに分かるじゃないの!!」

 以前ほとんど同じ台詞を男爵家にいた頃に聞いたけれど、エリスは気付いていないのだろうか。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

婚約破棄されたので公爵令嬢やめます〜私を見下した殿下と元婚約者が膝をつく頃、愛を囁くのは冷酷公爵でした〜

nacat
恋愛
婚約者に裏切られ、蔑まれ、全てを失った公爵令嬢リリアナ。 「あなたのような女、誰が愛すると?」そう言い放った王太子と元友人に嘲られても、彼女は涙を見せなかった。 だが、冷たく美しい隣国の公爵セドリックと出会った瞬間、運命は静かに動き出す。 冷酷と噂された男の腕のなかで、彼女は再び自分を取り戻していく。 そして――彼女を捨てた者たちは、彼女の眩い幸福の前に膝をつく。 「これは、ざまぁを通り越して愛された令嬢の物語。」

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。

処理中です...