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つがいになって下さいっ!!」


「無理ーっ!!」



あたし、広崎香月はアルファである。



そう、何でも出来てルックスもいい。


そんな恵まれた種――。


(正直、どうでもいい)


何故こんなふうに思ってしまうのかというと、理由がある。


あたしには前世、平々凡々の代名詞、ベータだった記憶がある。


(うん。どう見ても怪しい人だよね)


前世の世界ではベータが人口の九割を占めていて(ちなみに今の世界ではベータは六割くらい)、何かと言えば『ベータは遅いからな』『こんなこともできないのか』等々、うっかり仕事でアルファとかち合うと、さんざん文句を言われたものだった。


(こっちだって真面目にやってるのにっ!!)


ベータだった頃、何度そう思ったか分からない。


だけどその憤りは、アルファになった現在、ほとんど消えていた。


何故なら――。



(あー。これね、これはああしてこうして)


(ん? これ間違ってるじゃない)


アルファは頭の回転が早いというのは本当らしく、問題や事案の一部を読み取るだけで、すらすらと次の手順や回答が浮かび上がるのだ。




(これは誤解するわ)



アルファが全ての面において優秀なのは当たり前。


ベータは何事においても平凡。


(うん。何か本当に違う生き物みたい)


成長し、自分の種について認識が深まるにつれ、あたしは周りと距離を取った。


(だって『ベータ』だった頃の感覚も残ってるんだもの)


そのアルファも、何かというとマウントを取ろうとしてくるので、一緒にいると疲れる。


そしてベータは――。


『ええっ、広崎さんってアルファだったのっ!? ごめんなさいっ!!』


普段からおとなしめのメイク、落ち着いた色味の服を選んでいるせいか、ベータだと思われることが多い。


(まあ、中身がこれだしなあ)


アルファだと分かった後は、お互い気まずい雰囲気になり、友人なんてできるはずもなく。


無難な大学を卒業したあたしは、手作りの小物をサイトにアップして販売したり、軽く株(アルファだと株も怖くないです。って何なのこのアルファの情報処理能力)もやり、それらで収入を得てマンションでひとり暮らしをしている。


生活する上で困ったことはないが、アルファとしては中の下、といったところだろう。



(何か、寂しい生活してるなあ)




ザッピングしてると、テレビ画面に見慣れた顔が写った。


『……とこのように運命の番が現れると、アルファもオメガもそれまでの伴侶のことなど忘れてお互いのことしか』



中学の同級生がキャスターをしていたので、何となくそのまま見ていると、耳がとんでもない言葉を拾った。


『この事態を重く見た政府は、全てのアルファ、オメガのフェロモンを精査し、少しでも運命の番に近い伴侶を探すべく、新しい公的機関を立ち上げることに……』



(待て待て待てっ!!)


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