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――運命の番。


この世界にお互いただ一人の番となる相手。


と聞くとロマンチックだが、これにはとんでもない落とし穴がある。


お互いが独身だったら、まだいい方だ。


もし、一方が既に恋人がいたり、既婚者だった場合、とんでもないことになる。


『運命の番を見付けたから、別れよう』



これまで築いてきたものは一体何だったのか、と問われるくらい以前の恋人や配偶者に関心がなくなるアルファやオメガの姿に、ある者は悲しみ、またある者は怒り、憎しみ、運命の番関連の事件等を数えたらきりがない。



それに、これで一番被害を被るのはオメガである。


番の契約は、アルファがオメガの項を噛むことによって成立する。


そのため番のいないオメガは自分を守るため、ネックガードと呼ばれる首輪をしていることが多い。


オメガを語るに避けて通れない事柄に『ヒート』がある。


これは発情期とも呼ばれており、三か月に一度、フェロモンを発し、番のために子を成そうとする。


ただ、それだけしか考えられなくなるため、この期間(およそ一週間ほど)は抑制剤を服用し、番がいないのであれば人とは会わずにその期間をやりすごす。



簡単に説明したが、これはオメガにとってはかなりキツらしい。



そして番を持つと、ヒートのフェロモンは番にしか届かなくなり、襲われる危険性も減る。


このことから一時はオメガを劣等種と見ていた時期もあったようだが、最近ではオメガが母親だとアルファが誕生する確率が高い、とのことでその風潮は薄れている。



(それでもね)

あたしには無理だ。


更にアルファに優位なことに、この番契約はアルファ側からしか解除できず、番契約を解除されたオメガは精神の均衡を崩し、中には自ら死を選ぶ者もいるらしい。


つまり。


(一旦、番ったら一生面倒みろ、って言われてるのと同じだよね)



前述のとおり、あたしには前世の記憶がある。


アルファとしての自覚が持てないのにどうやって伴侶を守れ、と。



(何か、関わりたくないなあ)


ニュースを見ていると、まずは希望者を募ってそれから、らしいけれど、当然行くつもりはない。


それに、と思う。


(割合は、ベータがおよそ六割。アルファは三割。で、残る一割がオメガだったよね)


比率からして一番少ないオメガからマッチングして行くんだろうし、だったらここまで順番が回ってくることはないだろう。


その時のあたしは楽観的に考えていた。



(何ていっても平凡()なアルファだし)





数年後、その予想が覆されることになるとは微塵にも思っていなかった。








「は?」


マッチングのことなどすっかり忘れて、政府機関に呼び出されたあたしは面食らっていた。


「マッチングシステムにより、あなたと『運命の番』レベルで相性の良いオメガが見付かりました。この後、対面となります」


(何じゃ、そりゃ)


そんなこと、望んでないのに。


未だアルファとしての自覚も何もないのに、いきなり伴侶を持て、だなんて無茶苦茶な。



(あたし、アルファとしては中の下だし)


こんなアルファ、向こうからしても願い下げだろうなあ。


「すみません。あたし、伴侶とか興味ないので」


「まあそういったお考えの方もいますよね。でも、一度だけでも会っておいた方がよろしいのでは?」


――社会不適合者の烙印を押されたくないでしょう?


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