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(うわ、こいつもアルファだった)


威嚇フェロモンをうっすら流され、あたしがムッとした時、いきなりドアが開いた。


「すみません。待ちきれなくて来てしまいました」


「困りますよ。小野寺さん」


だが、そう答えた政府職員の声に怒気はなく、これが仕組まれたものだと分かる。


「番は要りません。さっさと終わらせましょう」


うんざりしてそう言うと、入って来た男性がこちらを向いた。


「すみません。どうしてもお会いしたくて。僕は小野寺圭といいます。歳は二十七です」


(年下やんっ!!)

この国の人間にしては妙に明るい髪色は脱色しているのか、それとも他の国の血でも混じっているのだろうか。

その明るい髪と同じ色味を持つ瞳が目に入る。


それだけなのに。


(体が、熱い)


突然、身体全体が熱を持ち、目の前の小野寺もまた、


「これが、やはり貴女は」

身体を折り曲げるようにして耐えているようだが、ヒートだろう。


あたしもキツいが、オメガのそれはこちらの比ではないはず。

だってそれは抑制剤以外では、いわゆる性行為をしないと収まらないのだがら。


(どこのエロゲーだよ。ほんとに)

オメガのフェロモンが室内に充満して行く。


「ぐっ、」

政府職員はスーツのポケットからアルファ用の抑制剤を取り出し、服用したようだが、それでも辛そうだった。



(く、仕方ない)



あたしは無理やり意識をすり替えた。

今世のアルファから前世の、フェロモンなど微塵も感じないベータへ。


どうにか息を整え、小野寺へ聞く。


「抑制剤は?」


「……スー、ツ、ポケットに」


取り敢えず二錠出して、その悩ましい唇へ押し込んでやる。


(くっ、こんな苦し気な表情も誘ってるようにしか見えない、って待てよ。あたしって、どっち側なのっ!?)



脳内ツッコミのお陰で何とか理性を保ち、事なきを得たのだけど。





「僕と番になって下さいっ!!」


「だが、断るっ!!」



何故か例の件以来、懐かれてしまった。


身上書を見て一目惚れした、と抜かすこの子犬タイプオメガは、


「どうしてですか? 僕ちゃんと就職もしてますし、自分で言うのも何ですが顔も整ってますし、オメガとしては優良物件だと思うんですけど」



「いや無理だから」


「いいんですか? 断っちゃって。どうせまた次が来ますよ」


(う、それを言われると)


どうもこのマッチング機関、何が何としてでもオメガと番にさせたいらしく、返答を渋ると次のオメガが紹介されるらしい。


(何やねん。その金太郎飴状態)


「来たものは全部断るから」

「ブラックリスト、載りそうですね」


(ぐっ、)


とにもかくにも『番』なんて冗談ではない。


(だってあたしがアルファ、って。……攻め側にいる自分姿が想像できない)


口が裂けてもこんなこと言えないので、


「性格の不一致で」



「まだ番にもなってないのに、リコンの定番理由挙げるの、止めて欲しいんですけど」


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