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第14話 拉致 ①
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「……オリビアが王弟の娘?」
思わず敬語も何もなしに口に出してしまったアレクシアだったが、こういったことに厳しい王妃も動揺しているのか、何も咎めなかった。
王妃は息子であるユクトルを溺愛しているというのもあるのだろう。
いつもは王族である者はどんな時も平静であれ、と謳う王妃の顔色は先ほどからかなり悪く、コントワーズ王がオリビアのことを話した際にさらに顔色を失ったようだった。
王妃は自分と同じように爵位の低い令嬢であるオリビアを気に入っていたようだったが、そんなオリビアにまさか王弟の血が入っていたとは思わなかったのだろう。
でも王妃様のことだからオリビアをいったん女王にした後、息子であるユクトルをその王配へ、とか考えそうね。この場合、従姉妹になるから婚姻は……できるけれど、あまり聞いたことがないわね。
思わず現実味のないことを考えるアレクシアの前でコントワーズ王も少し動じているようだった。
「うむ。にわかには信じられないかもしれんが事実だ。ユクトルがこのようなことになってしまった以上、王太子にするのは難しいだろう。よってこれから宰相らとも詮議し、オリビア・ランドール男爵令嬢を次の女王候補とすることを認めなければならないな」
普通、王となるには様々な知識、教養が必要であり、幼少の頃から教師を付けて教育される。
その段階を飛ばして下級貴族の令嬢を女王に推す、というのは無謀なことに思えた。
「そこでフォンデル公爵令嬢にはこのようなことを頼むのは心苦しいのだが、次期女王となるオリビア・ランドール男爵令嬢の補佐を頼みたい」
「……は?」
コントワーズ王の話をまとめると、オリビア・ランドール男爵令嬢はその血筋は女王になるには充分だが、環境があまりにも整っておらず、このままでは上級貴族の教養も所作も覚えるのにはかなり時間を要するだろうから、アレクシアがそこを補ってほしいとのことだった。
「王太子妃教育をこなしたフォンデル公爵令嬢ならばランドール男爵令嬢を補佐するのに遜色もない。どうか引き受けて貰えないだろうか」
これは嘆願の形を取った命令である。
それは分かったが受けるにはあまりにも分が悪すぎた。
「国王陛下。非常に光栄なお話にございますが、父にも話さねばならないため、ここでの返答はご寛恕していただきたく存じます」
なんとか無難な答えを返すと、コントワーズ王は鷹揚に頷いた。
「まあそうだろう。こちらとしても急なことでな。この件はまた後日フォンデル公爵へ話を持って行くことにしよう」
話はそれで終わり、アレクシアはユージーンと共に退出した。
廊下へ出るとユージーンが気遣うようにアレクシアに視線を向ける。
「なんだかとんでもないことになってしまったね」
「ええ。父に相談しないといけません」
王宮内では誰が聞いているのか分からないため、曖昧な表現しかできない。
「今宵の舞踏会にはフォンデル公爵も参加されていましたよね」
だが案内の侍従に確認すると、フォンデル公爵は急用ができたとかで帰宅したということだった。
フォンデル公爵は多忙なため、こういったことはよく起こる。
アレクシアは慣れていたので特に気にしなかったが、ユージーンは違ったようだった。
「それでは送って行きますよ」
甘やかな視線にアレクシアは目を逸らす。
「いえ。お気遣いなく」
展開が目まぐるしくて失念していたが、ユージーンはかなりの美形であり、その魅力を遺憾なく発揮された笑みはとんでもない威力であり、しかも紛れもない好意を向けられていると改めて自覚すると直視するのは難しい。
何とか断りを入れ、アレクシアは違う話題を振った。
「第二王子殿下はこちらの庭園は全てご覧になりましたか?」
「こちらへ来て二日目に案内されました」
「それでは聖堂の奥庭に作られた薔薇園はご存じですか?」
そこは希少種の薔薇を育てているがまだ試作の段階のものが多いため、恐らくユージーンは案内されていないだろうと思ったのだ。
試作の段階、とはいってもなかなか見ごたえのある薔薇が多く、またあまり人も来ないため、激務のなかアレクシアがそっと訪れる場所でもあった。
ここを見たユージーンが何と言うか少し関心があったのだ。
「聖堂の奥庭ですか。そこは行ってませんね。何かお勧めのものでもあるんですか?」
薔薇の試作をしていることを告げるとユージーンは機会があったらぜひ見てみたいと答えた。
そんな取り留めもないことを話しながら王宮を抜け、馬車止めまで来るとユージーンはもう一度アレクシアに送りたいと告げるが、アレクシアは丁重に断った。
少し一人になって落ち着いて考えてみたかったのだ。
父フォンデル公爵に報告するにしても一度自分の感情を落ち着けてからにしたかった。
それにしてもこのまま行くと婚約破棄はできても、彼と婚約して帝国へ行くのは難しいかもしれないわね。
オリビアが女王になるにはさまざまな困難が伴うことは想像に難くない。
そうなると公爵令嬢であり、王太子妃教育まで受けたアレクシアの存在は大きい。
ユージーンと別れ、馬車の中へ落ち着いたアレクシアは思案を巡らせる。
だから気付かなかった。
アレクシアを迎えた御者がずっと俯いていたことを。
そしてアレクシアを乗せた馬車がいつもとは違う道筋を辿っていることを。
思わず敬語も何もなしに口に出してしまったアレクシアだったが、こういったことに厳しい王妃も動揺しているのか、何も咎めなかった。
王妃は息子であるユクトルを溺愛しているというのもあるのだろう。
いつもは王族である者はどんな時も平静であれ、と謳う王妃の顔色は先ほどからかなり悪く、コントワーズ王がオリビアのことを話した際にさらに顔色を失ったようだった。
王妃は自分と同じように爵位の低い令嬢であるオリビアを気に入っていたようだったが、そんなオリビアにまさか王弟の血が入っていたとは思わなかったのだろう。
でも王妃様のことだからオリビアをいったん女王にした後、息子であるユクトルをその王配へ、とか考えそうね。この場合、従姉妹になるから婚姻は……できるけれど、あまり聞いたことがないわね。
思わず現実味のないことを考えるアレクシアの前でコントワーズ王も少し動じているようだった。
「うむ。にわかには信じられないかもしれんが事実だ。ユクトルがこのようなことになってしまった以上、王太子にするのは難しいだろう。よってこれから宰相らとも詮議し、オリビア・ランドール男爵令嬢を次の女王候補とすることを認めなければならないな」
普通、王となるには様々な知識、教養が必要であり、幼少の頃から教師を付けて教育される。
その段階を飛ばして下級貴族の令嬢を女王に推す、というのは無謀なことに思えた。
「そこでフォンデル公爵令嬢にはこのようなことを頼むのは心苦しいのだが、次期女王となるオリビア・ランドール男爵令嬢の補佐を頼みたい」
「……は?」
コントワーズ王の話をまとめると、オリビア・ランドール男爵令嬢はその血筋は女王になるには充分だが、環境があまりにも整っておらず、このままでは上級貴族の教養も所作も覚えるのにはかなり時間を要するだろうから、アレクシアがそこを補ってほしいとのことだった。
「王太子妃教育をこなしたフォンデル公爵令嬢ならばランドール男爵令嬢を補佐するのに遜色もない。どうか引き受けて貰えないだろうか」
これは嘆願の形を取った命令である。
それは分かったが受けるにはあまりにも分が悪すぎた。
「国王陛下。非常に光栄なお話にございますが、父にも話さねばならないため、ここでの返答はご寛恕していただきたく存じます」
なんとか無難な答えを返すと、コントワーズ王は鷹揚に頷いた。
「まあそうだろう。こちらとしても急なことでな。この件はまた後日フォンデル公爵へ話を持って行くことにしよう」
話はそれで終わり、アレクシアはユージーンと共に退出した。
廊下へ出るとユージーンが気遣うようにアレクシアに視線を向ける。
「なんだかとんでもないことになってしまったね」
「ええ。父に相談しないといけません」
王宮内では誰が聞いているのか分からないため、曖昧な表現しかできない。
「今宵の舞踏会にはフォンデル公爵も参加されていましたよね」
だが案内の侍従に確認すると、フォンデル公爵は急用ができたとかで帰宅したということだった。
フォンデル公爵は多忙なため、こういったことはよく起こる。
アレクシアは慣れていたので特に気にしなかったが、ユージーンは違ったようだった。
「それでは送って行きますよ」
甘やかな視線にアレクシアは目を逸らす。
「いえ。お気遣いなく」
展開が目まぐるしくて失念していたが、ユージーンはかなりの美形であり、その魅力を遺憾なく発揮された笑みはとんでもない威力であり、しかも紛れもない好意を向けられていると改めて自覚すると直視するのは難しい。
何とか断りを入れ、アレクシアは違う話題を振った。
「第二王子殿下はこちらの庭園は全てご覧になりましたか?」
「こちらへ来て二日目に案内されました」
「それでは聖堂の奥庭に作られた薔薇園はご存じですか?」
そこは希少種の薔薇を育てているがまだ試作の段階のものが多いため、恐らくユージーンは案内されていないだろうと思ったのだ。
試作の段階、とはいってもなかなか見ごたえのある薔薇が多く、またあまり人も来ないため、激務のなかアレクシアがそっと訪れる場所でもあった。
ここを見たユージーンが何と言うか少し関心があったのだ。
「聖堂の奥庭ですか。そこは行ってませんね。何かお勧めのものでもあるんですか?」
薔薇の試作をしていることを告げるとユージーンは機会があったらぜひ見てみたいと答えた。
そんな取り留めもないことを話しながら王宮を抜け、馬車止めまで来るとユージーンはもう一度アレクシアに送りたいと告げるが、アレクシアは丁重に断った。
少し一人になって落ち着いて考えてみたかったのだ。
父フォンデル公爵に報告するにしても一度自分の感情を落ち着けてからにしたかった。
それにしてもこのまま行くと婚約破棄はできても、彼と婚約して帝国へ行くのは難しいかもしれないわね。
オリビアが女王になるにはさまざまな困難が伴うことは想像に難くない。
そうなると公爵令嬢であり、王太子妃教育まで受けたアレクシアの存在は大きい。
ユージーンと別れ、馬車の中へ落ち着いたアレクシアは思案を巡らせる。
だから気付かなかった。
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