百戦錬磨は好きすぎて押せない

紗々

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 瞬く間に年は明け、俺と美晴は何度も会っては確実に距離を縮めていた。あれ以来怖くてまだ部屋に呼ぶことはできずにいるが、美晴にはもう何のわだかまりもなさそうだった。

 2月の半ば、週末に街でランチをしている時に美晴が何やら可愛らしい包みを俺に差し出した。

「響さん、はい、これどーぞ。少し早いけど」
「……?……っ!お、おま、これ」
「はいっ!バレンタインの、」
「……っ、」
「友チョコです」
「……。」

(友チョコかよ!!)

 内心ガックリしながらも、俺は喜んで受け取った。

「ありがとな。1ヶ月後にはたっぷりお返ししてやるよ。何か欲しいもの考えとけ」
「あははっ。いいですよ別に。響さん甘いものあまり食べないから僕も少ししか作ってないし。ちなみに中はガトーショコラです」
「……お前が作ったの?」
「はいっ。美味しかったらいいな」

(手作りかよ!!嬉しすぎるわ!!)

 山ほどもらってきた手作りチョコでこんなに嬉しいと思ったものはなかった。俺は浮かれて顔がニヤける。…ヤバい、ごまかさねーと。

「マズくても最後までちゃんと食うから安心しろよ」
「マズくないもん」
「ふ。知ってるよ」

 …………なんだ今の、「マズくないもん」の時の顔。そのちょっと唇を尖らせた上目遣い。わざとやってんのか?その異様に可愛い表情は。俺の理性を試してるのか?こいつ。可愛すぎてもう動悸がするし、何か手が震える。些細な表情の一つ一つにいちいち高鳴る自分の鼓動を感じながら思った。

 ……あー、俺本当に美晴のことが好きすぎるわ……。


「お腹いっぱいだ。ご馳走さまでした、響さん」
「よかったじゃねぇか。たっぷり食って大きくなれよ」
「もうなりませんよ。響さんこそあと5ミリ…」
「うるせぇ。それは言うな」
「あはははは」

 並んで街を歩きながら、美晴が心底楽しそうに笑う。その笑顔を見ているだけでどうしようもなく満ち足りた気持ちになる。俺は美晴の顔を見ながら幸せを味わっていた。


 その時だった。


「美晴……?」


(……ん?)

 誰だ?知り合いか?向かいから歩いてきたブルーのニットを着たデカい男が驚いたように美晴を見ている。真冬なのにほどよく日焼けした、若い男だ。若いといっても…俺よりは上かな。何気なく美晴を見ると、

(…………?)

 美晴が見たこともない顔をして、そいつと視線を合わせて固まっている。愕然とした、といった雰囲気だ。
 ……どうしたんだろう。

「……だっ…………大輝、さん……」

 掠れた甘い声で、美晴が男の名を呼んだ。その瞬間、何とも形容し難い嫌な気持ちが俺の中に湧き上がる。
 俺は勘が鋭い方だ。

「……驚いたなぁ。まさかこんなところで偶然会えるなんて。……元気にしてたか?」
「…………はっ、…………はい……」

 男が爽やかに笑いかけてそう言うと、美晴はたちまち耳まで真っ赤になりながら震える声で返事をした。その顔は、今まで俺に見せてきたどの表情とも全く違っていて。

 美晴にとってこの男がいかに特別な存在であるかを嫌でも思い知らされた。

「…………。」

 面白くねぇ。早くどっか行けよ、このデカ男。
 ムカついて睨みつけるが、男は俺のことなど視界に入っていないらしい。

「数日前に帰国したばかりなんだよ。まぁまたすぐに戻るんだけどな。予定が会えば飯でも行かないか?連絡したいと思ってたんだ」
「………………えっ……?」
「……やっぱり、ダメかな。迷惑か?」

 美晴は瞳を揺らしながら困ったような顔をして俯く。男はそんな美晴を優しく見下ろしている。

 ……いやマジでムカつくわ。

「迷惑だと思ってんならとっとと消えろよ。邪魔すんじゃねぇ」
「っ?!」
「?」

 俺の不穏な声色に美晴は弾かれたように顔を上げ、男の方は今初めて俺の存在に気が付いたようにこちらを見る。

「ひっ、響さん……」
「あ、ごめんな。デート中だったか?」
「ち、違います」

(そこだけすぐさま否定してくれるな、傷付くから)

「急に声をかけて足を止めてしまって悪かったな。一ノ瀬大輝いちのせだいきだ。よろしく」

 あくまでも爽やかに右手を差し出してくるデカ男。なんだよそれ。馬鹿か。しねーよ握手なんか。

「……相良響だ。握手はいらねぇ。美晴が嫌がってるからさっさとどっか行ってくれねぇかな」
「っ?!!」

 美晴が何かを訴えるように俺の顔をジッと見る。止めねぇよバカ。こいつの存在がムカつくんだよ。
 お前にとって何か、特別な存在なんだろうがよ。
 俺と美晴の気持ちに全く気が付かないのか、男はあっけらかんと言った。

「あはは。ごめんな、邪魔して。あ、せっかくだから今度3人で食事でもしようか!こうしてここで会ったのも何かの縁だ」
「っ??!!」
「……あ?」

 目ん玉が飛び出そうなほどに目を見開いて無言で男を見上げる美晴に、剣呑な雰囲気を隠さない俺。そしてそんな俺らを全く意に介さないデカ男。カオスだ。

(……いやでも、待てよ)

 どうせ今後、俺はこの男のことがずっと気になって仕方ないんだろう。そして美晴にこいつのことを追求することもできずに悶々とした日々を過ごすことになるのかもしれない。

(……そうだな、ならいっそ……)

「……おお、いいぜ。近々飯行こう」
「───っ??!!」

 隣で絶望的な表情をする美晴に、今だけは気付かないふりをした。



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