ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

文字の大きさ
12 / 63

12.

しおりを挟む
 翌日は朝から丸一日二人で過ごした。朝食をご馳走になった後おばちゃんにお礼を言ってマンションを出て、二人で繁華街へ行き、映画を観たりゲーセンに行ったりした。昼には二人でハンバーガーを食べながらたくさん話した。俺は颯太といられる貴重なこの時間を一瞬たりとも無駄にしたくはなかった。

 だけど、楽しい時間ほど無情なほどにいつでもあっという間に過ぎていく。夕方、互いに違うバスに乗って帰る前に最後の別れの挨拶をする。

「…、…じゃあ、またな颯太。元気にしとけよ」
「ん。樹もね。元気で。また手紙書くから」
「おぉ。絶対に書けよ。あとおばちゃんに早くスマホ買ってもらえ」
「ふふ。うん」
「…そしたら毎日イタ電してやるから」
「ふふ。なんでだよ。ヤだよ」

 寂しい。離れがたい。辛い。

 まだ何か話そうと思ったのに、ちょうど颯太が乗るバスが来てしまった。

「…じゃあ、俺行くね」
「…おぉ。楽しかったな。またな」
「うん」
「おばちゃんによろしくな。行儀のいい樹がめっちゃお礼言ってたってちゃんと言っといてくれよ」
「あはは。分かった」

 颯太のその笑顔を胸に焼き付ける。次に会えるのはいつになるのか。もっとずっと一緒にいたい。帰らないで、颯太。

 颯太がバスに乗り込んで席に座り、窓から俺に手を振る。俺も軽く手をあげて見送る。気を抜けば涙が出そうだった。
 バスが動き出す。泣いたら終わりだ。一度泣いてしまったら、耐えきれないほどの寂しさが襲ってくる。なんとなくそんな気がして、俺は必死で平気なふりを装う。大丈夫大丈夫。どうってことない。どうせまたすぐ会える。次はいつかなぁ。春休みかな。それまではサッカーに打ち込むんだ。あとは学校のダチと遊んだり…。

 大通りの大きな横断歩道を渡って自分のバスが来るバス停に移動して並び、俺は頭の中で独り言を言いながら一生懸命気をそらす。視界が潤んで揺れ、上を向いてごまかす。もう隣に颯太がいない。あぁ、ダメだ、考えるな。大丈夫大丈夫。

 結局、堪えきれない涙が右の目から一粒零れ、俺は慌ててマフラーをずり上げて顔を隠す。ぎゅっと食いしばった唇がぶるぶると震えた。

(あーあ。俺マジで颯太のこと好きすぎだろ)

 俺は泣きながら少し笑った。



 春になり、俺たちは進級し中学2年になった。ようやく3年生たちがいなくなって俺は心底ホッとした。さよなら、あばずれ先輩、僻みまくりのブサイクな先輩たち。
 颯太とは相変わらずだった。2年生になってようやくスマホを買ってもらったらしい。

『塾に通うことになったから、やっと持たせてくれたんだ』
「よかったなー。毎日何回もワン切りしてやるよ」
『ホントやめて』
「ひひ」

 あまり頻繁に電話するのもおかしいから毎日かけるわけにはいかないが、どうしても話したいと思った時にはいつでも電話できるというのはやっぱり気持ち的にすごく嬉しい。俺は1年のときよりもはるかに毎日が楽しくなった。

 クラス替えがあり、仲が良かった友達のうちの何人かがクラスが別れたり、また新しい友達もできたり。5月にはクラスで一番可愛い女に告られて彼女が出来た。頭の中が猿の俺は来る者拒まず状態だった。部活や友達との遊びの合間に彼女と会う時間を作ってはセックスに明け暮れた。

「ねぇ、いっくん、…私のこと、好き?」
「そりゃもちろん。大好きだよ」

 親が不在の間にこそこそとお邪魔し行為に及んだ後。彼女の部屋のベッドの中で、俺は考えるよりも先に条件反射で答える。射精の後でボーッとしていたが、そこは対応を間違えない。女への対応を間違えればどれほど面倒くさいことになるかはよく分かっている。

「ホント?」
「うん」
「どのくらい好き?」
「誰よりも好きだよ。蘭のことが世界で一番好きだ」
「…ふふっ」

 俺の返答に満足したらしい彼女が裸のままぴったりくっついてくる。

「私も大好き。…ねぇ、私たちずっと一緒にいられるのかな」
「うん、死ぬまで一緒だよ」
「…それって、結婚するってこと?」
「うん、そうだよ。結婚しよーな、10年後には」
「えぇ~、ホントにぃ?」
「当たり前だろ」
「ふふっ」

 サッカーのことを考えながら俺は半ば無意識に会話を繰り返す。練習してぇなぁ、ヤり終わったし。でも終わったからってそそくさ帰るのはダメなんだよな。めんどくせぇ。

「ねぇ、私のこといつから好きだったの?」
「同じクラスになって初めて見た時からずっと好きだったよ」
「えぇ~、ホントにぃ?」
「うん」
「…じゃあ、私から告った時、どう思った…?」
「めちゃくちゃ嬉しかった。よっしゃーって思った」
「えぇ~」

 ……うぜぇ。もうそろそろ帰ってもいいかな。久しぶりに颯太に電話したい。でも忙しいかな、あいつ。今日塾かな。

「…私のこと、好みのタイプだった?」
「もちろん。蘭のこと好みじゃない男なんていないだろ」
「えぇ~?なんでぇ?」
「学年で一番可愛いし。蘭より可愛い子いないよ」
「えぇ~?嘘ぉ~!」
「マジだよ。俺のダチも皆そう言ってるし」
「きゃはは!やだぁ。なんか恥ずかしいんだけど」

 俺はだんだんイラついてきた。終わった後のこの中身のない会話が心底面倒くさい。これいつまで付き合えばいいんだ?女は対応を間違うとすぐ泣くし、体目当てだのヤり捨てだの何だの騒ぎ出すから本当に嫌だ。

「他にも可愛い子たくさんいるじゃん」
「……蘭が一番可愛いよ」
「ほんと?」
「うん」
「……ねぇ、いっくん。絶対に絶対に浮気しないでね」
「うん」
「私が他の男子に告られたらどうする?」
「うん」
「…どうする?」
「うん。……、うん?」
「…………。…いっくん、聞いてないでしょ」
「…聞いてるよ。大好きだよ」
「いっくんって、した後いっつも冷たいよね」

 あれ?しまった、マジで聞いてなかった。何でだかさっぱり分からないが、彼女が急に瞳に涙をいっぱい溜めて俺を睨みつける。どこかでこの空虚な会話を失敗したらしい。

「いっくんってさぁ…、ただエッチしたいだけなんじゃないの?」

 ギク。

「…何言ってんだよ。バカだな、お前。好きだからヤりたくなるんだよ」
「…………。」
「俺、蘭とじゃないとヤりたくないよ、マジで」
「……ほんと?」
「当たり前だろ。俺はいつも蘭のことしか考えてないよ。大好きだよ、蘭」
「…………。なら、いいけど……」
「もう一回抱かせて、蘭」
「…………ふふっ。もう……」

 俺は彼女に覆い被さり、抱きしめてキスをする。

 ……はぁぁぁぁ。めんどくせぇ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恵方巻を食べてオメガになるはずが、氷の騎士団長様に胃袋を掴まれ溺愛されています

水凪しおん
BL
「俺はベータだ。けれど、クラウス様の隣に立ちたい」 王城の厨房で働く地味な料理人ルエンは、近衛騎士団長のクラウスに叶わぬ恋をしていた。身分も属性も違う自分には、彼との未来などない。そう諦めかけていたある日、ルエンは「伝説の恵方巻を食べればオメガになれる」という噂を耳にする。 一縷の望みをかけ、ルエンは危険な食材探しの旅へ! しかし、なぜかその旅先にはいつもクラウスの姿があって……? 勘違いから始まる、ベータ料理人×氷の騎士団長の胃袋攻略ラブファンタジー!

孤独なライオンは運命を見つける

朝顔
BL
9/1番外編追加しました。 自分はアルファであると信じて生きてきたのに、発情したことがキッカケで、オメガだったと発覚してしまった。 アルファだと思っていた時も、孤独で苦しかったのに、オメガになったことで俺の人生はより厳しいものになった。 そんな時、俺は運命と呼べる相手と出会うことになる。 ※※※※※ 高校生×高校生で、オメガバースの設定をお借りしています。 設定はよくあるものだと思いますが、おかしなところがあったら、すみません。 オメガバースについて詳しい説明などは省略しています。 シリアスあり、ラブコメもあり、淡くて青い恋愛がメインのお話です。 ※重複投稿 全十話完結済み

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

優等生αは不良Ωに恋をする

雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。 そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。 「うっせーよ。俺に構うな」 冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。 自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。 番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。 それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。 王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開! 優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。

青い炎

瑞原唯子
BL
今日、僕は同時にふたつの失恋をした——。 もともと叶うことのない想いだった。 にもかかわらず、胸の内で静かな激情の炎を燃やし続けてきた。 これからもこの想いを燻らせていくのだろう。 仲睦まじい二人を誰よりも近くで見守りながら。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

恋の仇花

小貝川リン子
BL
 曜介と真尋は幼少期からの幼馴染で、喧嘩も多いが互いに淡い恋心を抱いていた。しかし小学五年生の夏、真尋が担任教師に暴行されたことを切っ掛けに、二人の関係性は決定的に変わってしまう。  互いが互いを思っているのに、二人を隔てる溝は一層深くなり、心の距離さえ遠のいていく。それは高校生になった今でも変わらない。いつかまた、あいつの手を取ることができるのだろうか。  幼少期の回想を挟みつつ、高校時代の青春と葛藤、大人になり結ばれるまでの話が第一部。結ばれて以降の熱々で甘々な日常を第二部で描きます。   曜介(ようすけ):主人公。真尋に冷たい態度を取られているが、ずっと大切に思っている。 真尋(まひろ):ヒロイン。過去のトラウマにより性に関して無節操。様々な相手と肉体関係を持つ。 京太郎(きょうたろう):もう一人の幼馴染。曜介・真尋の親友であり続ける。

処理中です...