ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

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 やっぱり樹のうちに来るのは楽しい。子どもの頃から樹のお母さんの楽しい話し方がすごく好きだった。相変わらずで懐かしくて楽しくて、俺は満たされた気持ちで過ごしていた。

「……また負けた」
「下手くそだなー颯太。ひひ」

 やり慣れないテレビゲームをやってみたけど、全然樹に勝てない。それはそれで楽しいんだけど…、俺はチラリと部屋の壁にかけてある時計を見る。…もう22時半だ。だんだん緊張してきた。

 い、…いつ寝るんだろう。俺は普段は23時までにはベッドに入る。多分樹のことだから、それより早いはずはない。夜中にラインが来ていて朝になってから気付くこともしょっちゅうだ。だから、まだまだだとは、思うんだけど…。
 樹がうちに泊まりに来たときみたいに、この樹の部屋のベッドの横に、俺が寝る布団をおばさんがもう敷いてくれている。その布団の上に座るかんじで二人並んでテレビゲームをしているんだけど…。俺はもうドキドキしてしかたない。大好きな樹が隣にいて、夜、この二人きりの部屋で、…布団の上にいる。しかも、……多分もうすぐおばさんは出かけるんだ。
 この家の中に、二人きりになる。

「…………。」

 だからって、何をするってわけでもないことは分かってるんだけど。俺たちは男同士だし、そもそも樹は俺の気持ちなんて知らない。おばさんが出かけたって、ただこの部屋で並んで寝るだけだ。朝になるまで。
 隣の樹の様子をうかがってみるけど、ゲームに夢中になっているようにしか見えない。…当たり前か。こんなにドキドキしてるのは、俺が樹を意識しているからだし。 

「はー、目が痛ぇ。疲れた」

 そのうちゲームに飽きた樹はそのまま仰向けに倒れて布団にゴロンと転がった。

「……っ、」

 樹のたったそれだけの行動で、俺はドキッとして体が強張る。……いくら何でも、ちょっと意識しすぎだ…。俺って、こんなエッチだったのか……。
 すると、何故か転がったばかりの樹が突然ガバッと起き上がったもんだから、さらにビクッとしてしまう。

「な、何っ?」
「……へっ?な、何が?!」
「……や、な、何で急にそんな勢いよく起き上がるの……?ビックリするじゃん」
「……。あ、あぁ、いや、……べ、別に……。…何でもない。わりぃ」

 心なしか顔が赤い。…何となく、今日の樹は少し変だ。……いや、でも俺の方こそ変に思われてるかもしれない。気を付けないと……。

 その後も部屋でのんびり過ごしながら、明日はどこに行こうか、何をしようかと話し合った。気心の知れた幼なじみ同士で部屋にいるのだから、布団の上でゴロゴロしてもいいような気がするけれど、俺は頑なに横にならなかった。俺の方はやましい気持ちがあるから恥ずかしいだけなんだけど、意外にも樹も絶対に横にはならなかった。自分の部屋でくつろいでるんだから、もっとダラダラゴロゴロ過ごしそうなものなのに。

「まだ起きてるー?母さん行ってくるからねー」

 部屋の外からおばさんが声をかけてくる。

「…おー」
「多分遅くなるからー。ちゃんと寝なさいよー。また明日ねーそうちゃん」
「あ、は、はいっ。お休みなさい…」

 俺も慌てて部屋のドア越しに大きめの声で返事をする。玄関先でしばらくガサゴソと人の動く気配がした後、玄関のドアが開いて閉まり、ガチャ、と音がした。鍵がかかったのだろう。

「…………。」
「…………。」

 何故か無言になる俺たち。……なんか、……変に緊張してしまうんだけど…。

「……あー、もうこんな時間かよ。……ね、寝るか」
「あ、う、うん。そうだね。…寝ようか」
「…………。」
「…………。」

 ……ん?……なんだか、変な空気になってる気が……。何で樹までこんな緊張してるんだろう。

 …え、…まさか、もしかして……。

「……っ、よ、よーし。…んじゃ、……で、」
「……。」
「……電気、…消すか」
「…う、うん」
「……。んじゃ、おやすみ」
「……おやすみ、樹」
「おぉ…」

 ベッドに上がった樹がリモコンで灯りを消した。フッ…と部屋が真っ暗になる。

「…………。」
「…………。」

 ……やっぱり。なんか、おかしい。もしかして、樹……、

 俺の気持ちに、気付いてる……?

「…………っ、」

 そうかもしれないと思い至った途端に変な汗がじわりと出て、胃がぎゅうっと締めつけられるような感覚がした。心臓が激しく脈打ちはじめる。まさかね。気付いてたら、泊まりに来いなんて呼ばれるはずがない。…大丈夫だ、大丈夫。落ち着くんだ。
 …でも、今日の俺は何度も動揺してしまう場面があった。冷静さを保っていなかった。もし、今日の俺の態度を見て、樹が勘付いたのだとしたら……?

 俺の想いを不気味に思った樹に、嫌われてしまうかもしれない……。

 それだけは絶対に嫌だ。ごめん、樹。俺絶対に何もしないから。何も求めないから。嫌わないで。
 俺は慌てて寝たふりをした。俺が起きていたら何かしてこようとするんじゃないかと、樹が不安がるかもしれない。そんな風に思われていたら、たまらなく悲しいけど……。
 とにかく、この関係を壊したくなかった。

 俺は布団の中で目を瞑って、身動きひとつしないようにした。とにかく早く眠るんだ。意識を失ってしまうんだ。そうすれば、万が一樹が勘付いていたとしても、やっぱり気のせいかもしれないと思ってくれる、……はずだ。きっと。
 こんな状況の中で眠るのは至難の業だったけど、それでも俺は絶対に身動きさえしなかった。


 それから、どのぐらい経っただろう。
 全く睡魔が襲ってこなくて困り果てていたけれど、それでも多分、俺はいつの間にかウトウトしていたらしい。
 ふと気が付いた時、時間の感覚が全くなかった。今が何時なのか全然分からない。だけど身動きをせず目を閉じていても辺りが真っ暗なのは分かった。夜特有のシンとした空気がある。

 そんな中でも、俺は何となくの違和感を感じた。……あれ?……すぐ傍に、誰かいる。
 ……樹?

 すぐ傍に樹がいるのを感じる。…どうしたんだろう。ベッドから降りてる…?トイレにでも行くのかな。…今何時だろう。おばさんたちはもう帰ってきてるのかな…。どのくらい眠っていたのかが分からない。あるいはほとんど時間は経っていないのかもしれない。

 ぼんやりとした頭の中でとめどなく考えていると、ふと空気が揺れた。
 俺の傍に座っていると思われる樹の気配が、俺の顔のすぐ近くまで来ている。樹の匂いをかすかに感じた。

 ………………はぁっ……

(─────っ?!)

 寝たふりをした姿勢を保ったまま、俺は密かに体を強張らせた。樹がいる方とは反対側を向いて眠っている俺の頬に、かすかに熱い吐息がかかった。




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