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天上天下唯我独尊でもあなたを許します
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わたしの婚約者は、天上天下唯我独尊である。そうであるのは、彼の生まれのせいもあると思う。
王族、第一王子。つまり次の王。
何をやっても簡単に人並み以上できてしまう彼を優秀と言わずして何というのか。
人好きのする笑みを浮かべて皆と接し、誰からも好かれている――と、思う。
しかし、私は知っている。
彼は心許したものの前では悪態をつくし、面白がって人を罠にはめたりもするのだ。
あのきらきらとする笑顔のままで。
わたしはそれを知っている。正直、結婚するなら自分を大事にしてくれる方の方が幸せになるだろう。
けれど、けれど!
わたしは彼が私をどう扱おうとも、それを許しているのだ。許して、しまうのだ。
というのも。
「おい、さっきから足を踏んでいる」
「申し訳ありません。私がダンスが下手なのはご存知でしょう?」
「知っているが成長がない。何故この程度のステップが踏めない」
知りません。私だって一生懸命、練習はしているのですが!
そう言いたいのを堪えて笑みを浮かべる。
彼も、笑みを浮かべる。
誰もがうっとりするような甘くとろけるような笑み。
わたしが貴族としては低い身分でありながら彼の婚約者になったのは、彼が選んでしまったからだ。
何を思ったのか、わたしが良いと。
わたしはそれゆえ、小さな頃には他の方達から意地悪を多多受けたのだけれども。それは二年くらい続いてぱたっとなくなった。
それは彼が手を回したのだと知っている。
そこそこ、酷いことをされたと思う。わたしはどうにかしてくれた、といっても二年もそのままにされていたのだから彼を恨んで良いと思う。
それは八つ当たりのような怒りではあるとは思うけれど、自分で選んだのにすぐ助けてくれなかったから。
わたしもどうにかしようと頑張りは、したのだ。彼にも言ったのだ。そして最初は取り合ってくれなかった。
ああ、この人。どうにかしてくれるつもりはないのだとそこで察して、釣り合う様に努力をした。
周囲からやっかみや嫌がらせを受けないように色々な茶会、夜会にも出席して根回しも頑張った。
けれど意地悪は、意地悪と呼べるものではなくなっていく。
もう逃げちゃおうかなぁと思った時、それが無くなった。
彼は気付かなくて悪かったなと笑って言っただけで。でもわたしはそれで許してしまったのだ。
気付いていたのも知っている。何を言っているのと怒っていいだろうに、そうできなかった。
だって!
わたし!
この顔が好きなんだもの!
そう、彼はとてつもなく顔が良い。昔は美少年であらせられたのに、最近は男らしさも合わさって美青年と言って差し支えない。
はー! このお顔を一番近くでみられるという特権。
うう、最高ではありません? わたしにとっては最高です。
性格に問題があっても、人前では普通にしてくださるし。
そもそも二人きりの時でも仰っていることを右から左へ流してしまえば問題ないのです。
わたしだって貴族。面の皮は厚いのですから。
あまりに無表情だったので笑わせてみたいと思ったのだ。
だから選んだ。
結局のところ、作り笑いはするが心の底からは笑ってはくれなかったのだが。
では他の表情はどうかと――こいつが嫌がらせを受けているのを知っていたが、助けはしなかった。
いや、助けてはいたのだ。心折れるようなことがないようにと。
もしくは、どうにもできなくて泣きついてきたりはしないかと思ったのだ。
まだだ、もう少し、もう少しとこいつが助けて欲しいと言ったのに取り合わず、ずっと見ていた。
すると、誰にも何も言われぬようにと色々な行動をとるようになった。
そういうことができるのだな、と見ているのがだんだんと楽しくなる。
しかし、仲の良い友人にそんなことをしていたら嫌われるぞと言われ、そこでやっとひやりとしたのだ。
ひやりとする――嫌われる事が、恐ろしいということ。
そこで私は、やっと気付いたのだ。
私はこの女がちゃんと好きなのだと。それから、すぐに手を回して助けた。
気付かなくて悪かったなと、笑って紡げばきょとんとした顔をする。いつもの無表情が崩れたのだ。
それから、別に関係が変わったこともなにもない。
けれどこいつは遠慮なく俺の顔を見るようになった。これは前進なのだろうか、よくわからない。
何にせよ、私はこの女を手放したくない。
早く逃げられないようにしてしまおうと、頭の中では楽しい策略を練るばかりだ。
あわよくば、好いて欲しいとは思うのだが。
世の中、人の心はそううまくいかないことは知っている。
ぱっと思いついた系の。
王族、第一王子。つまり次の王。
何をやっても簡単に人並み以上できてしまう彼を優秀と言わずして何というのか。
人好きのする笑みを浮かべて皆と接し、誰からも好かれている――と、思う。
しかし、私は知っている。
彼は心許したものの前では悪態をつくし、面白がって人を罠にはめたりもするのだ。
あのきらきらとする笑顔のままで。
わたしはそれを知っている。正直、結婚するなら自分を大事にしてくれる方の方が幸せになるだろう。
けれど、けれど!
わたしは彼が私をどう扱おうとも、それを許しているのだ。許して、しまうのだ。
というのも。
「おい、さっきから足を踏んでいる」
「申し訳ありません。私がダンスが下手なのはご存知でしょう?」
「知っているが成長がない。何故この程度のステップが踏めない」
知りません。私だって一生懸命、練習はしているのですが!
そう言いたいのを堪えて笑みを浮かべる。
彼も、笑みを浮かべる。
誰もがうっとりするような甘くとろけるような笑み。
わたしが貴族としては低い身分でありながら彼の婚約者になったのは、彼が選んでしまったからだ。
何を思ったのか、わたしが良いと。
わたしはそれゆえ、小さな頃には他の方達から意地悪を多多受けたのだけれども。それは二年くらい続いてぱたっとなくなった。
それは彼が手を回したのだと知っている。
そこそこ、酷いことをされたと思う。わたしはどうにかしてくれた、といっても二年もそのままにされていたのだから彼を恨んで良いと思う。
それは八つ当たりのような怒りではあるとは思うけれど、自分で選んだのにすぐ助けてくれなかったから。
わたしもどうにかしようと頑張りは、したのだ。彼にも言ったのだ。そして最初は取り合ってくれなかった。
ああ、この人。どうにかしてくれるつもりはないのだとそこで察して、釣り合う様に努力をした。
周囲からやっかみや嫌がらせを受けないように色々な茶会、夜会にも出席して根回しも頑張った。
けれど意地悪は、意地悪と呼べるものではなくなっていく。
もう逃げちゃおうかなぁと思った時、それが無くなった。
彼は気付かなくて悪かったなと笑って言っただけで。でもわたしはそれで許してしまったのだ。
気付いていたのも知っている。何を言っているのと怒っていいだろうに、そうできなかった。
だって!
わたし!
この顔が好きなんだもの!
そう、彼はとてつもなく顔が良い。昔は美少年であらせられたのに、最近は男らしさも合わさって美青年と言って差し支えない。
はー! このお顔を一番近くでみられるという特権。
うう、最高ではありません? わたしにとっては最高です。
性格に問題があっても、人前では普通にしてくださるし。
そもそも二人きりの時でも仰っていることを右から左へ流してしまえば問題ないのです。
わたしだって貴族。面の皮は厚いのですから。
あまりに無表情だったので笑わせてみたいと思ったのだ。
だから選んだ。
結局のところ、作り笑いはするが心の底からは笑ってはくれなかったのだが。
では他の表情はどうかと――こいつが嫌がらせを受けているのを知っていたが、助けはしなかった。
いや、助けてはいたのだ。心折れるようなことがないようにと。
もしくは、どうにもできなくて泣きついてきたりはしないかと思ったのだ。
まだだ、もう少し、もう少しとこいつが助けて欲しいと言ったのに取り合わず、ずっと見ていた。
すると、誰にも何も言われぬようにと色々な行動をとるようになった。
そういうことができるのだな、と見ているのがだんだんと楽しくなる。
しかし、仲の良い友人にそんなことをしていたら嫌われるぞと言われ、そこでやっとひやりとしたのだ。
ひやりとする――嫌われる事が、恐ろしいということ。
そこで私は、やっと気付いたのだ。
私はこの女がちゃんと好きなのだと。それから、すぐに手を回して助けた。
気付かなくて悪かったなと、笑って紡げばきょとんとした顔をする。いつもの無表情が崩れたのだ。
それから、別に関係が変わったこともなにもない。
けれどこいつは遠慮なく俺の顔を見るようになった。これは前進なのだろうか、よくわからない。
何にせよ、私はこの女を手放したくない。
早く逃げられないようにしてしまおうと、頭の中では楽しい策略を練るばかりだ。
あわよくば、好いて欲しいとは思うのだが。
世の中、人の心はそううまくいかないことは知っている。
ぱっと思いついた系の。
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