短編詰め合わせ

貴女がいればそれでいい

おんなのこどうし。




　とうとう、やってしまったと私は瞳を伏せた。
　柔らかに私の名を、不安げな顔で紡ぐ幼馴染はとうとう、やってしまったのだ。
　私のために。
　私は、金のために売られようとしていたのだ。
　父は善人とは言えない人で、私を金持ちの置いた公爵に差し出そうとしていて。
　その見返りは、巨額だったのだと思う。
　私はそうなることを諦めて、受け入れていた。
　けれど幼馴染はそうではなかったのだ。
「これで……どこにもやらないで、すむから……」
「そんな、問題ではないわ」
「いや、これでいいんだよ……」
　これで、離れなくて済むと血に塗れた剣を放り投げ私を抱きしめる。
「これで一緒にいられるね」
「そう、ね……」
　病的なまでに私の事が好きな幼馴染。
　私はそんな幼馴染を、受け入れている。
「どこにもいかないで。私を捨てていかないで」
「ええ、ええ……捨てないわ」
　貴女を捨てたりしないわと、私は幼馴染の少女を抱きしめる。
　性別を偽って私の騎士となった少女。もう身体の差異を誤魔化すのは難しい。
　潮時だったのだ。
　彼女を、私は自由にすべきだったのにそれができなかった。
　そして追い詰めたのも、私だ。
　私が、悪いのだ。
「行こう。私が守るから。屋敷に火を放って全部、燃やして」
「ええ」
「お金の蓄えもしてある。しばらくは大丈夫。田舎に行って、静かに暮らそう」
「ええ」
「ずっと、一緒にいよう……」
「ええ」
　貴女がいないと生きていけないと、幼馴染は言う。ぽろぽろと真珠のような涙をこぼしながら。
　その涙は一体、何に向けたものなのだろう。
　私だって、そうよ。
　互いに互いがいないと生きていけないの、私達は。
　私は長い髪を乱暴に切って炎の糧とする。
　全部燃えて、無くなる屋敷。きっと何も残らないわ。
　だから私も死んだことになるでしょう。
　私と幼馴染は手を繋いで広い世界に出ていく。
　互いさえいれば、大丈夫。
　私達は、互いさえいれば。




共依存、みたいな。