短編詰め合わせ

くちふうじ

ちゅっちゅしてるだけの！





　黙れと言って、口をふさぐのはこの人の癖だ。
　口付だけですべて奪われていくような感覚。
　息など、か細く。絶える寸前まで追いつめられる。
　苦しいと息を吸ったのにまた塞がれる。
　されるがままなのだ。
　気が済むまで、蹂躙されるのはいつも、私。
　やがて離れて、互いの口の端から銀糸が零れ途切れる。
「満足、されました？」
「いいえ、まだ足りない」
　あでやかな笑みを浮かべ細い指先が私の唇をなぞり口腔へ入る。
　舌先を撫でてくるから応えると楽しげに笑っている。
「もう少し、遊んでいてあげたいのだけれど時間だわ」
「ええ、はい――女王陛下」
「ああ、もう早く終わらないかしら」
　国賓の相手なんて面倒と言いながら陛下は立たれる。
　秘密の関係は彼女が王女出会ったころから続いている。
　私はずっと、彼女の騎士、彼女の剣。
　それは変わらない。
　彼女が夫となるものを迎えても、変わらないのだ。
　きっとこの、口付の意味も何もかも。




両片思い的な。