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ナギ

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一昨日来なさいは不可能なのだがと

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破天荒令嬢ちゃんと



 私は! 最近! 嫌がらせを受けている!
 というのも!!
 この国の王子との婚約が決まりそう、なんていう根も葉もないうわさがあるせい。
 事実、そんなことはまったく聞いていない。
 そもそもお前に結婚は無理そうだから従兄にもらってもらいなさいとお父様に言われるくらいなのだ。
 ちょっと結婚くらいできるわよー! と! 思うのだけど!
 が、しかし。
 それは今は置いといて。
 びしょびしょに濡れた頭。整えた髪がびっしょり。
 しずくが落ちて、制服も濡れている。
 食堂で、あら手が滑ったわと水をかけられたのだ。
 お湯じゃなかっただけよしとしてあげ――る、わけが! ない!
「……はー……」
 俯いている私を見て、くすくすと笑い声。
 これは泣いているのかしら、かしら? というのだろう。
 ごめんなさいね! 泣いてなんか! ないわ!
 私は顔をあげると近くにあった椅子をひいて、その上に一足、飛び乗った。
 令嬢としてはアウトな行為をしていると思う。
 これまた変な噂も立つでしょう。
 でも、もう! 我慢も限界なの!!
 陰湿な事して、ほんとにこにこするのも疲れたわー!!
 私が椅子の上に飛び乗ると、周囲は何事かとこちらをみてくる。
 そう、それでいいの。こっちちゃんと見ておいて。
「まぁ、椅子の上に立ってはしたない……」
「そう、はしたないのは覚悟の上よ。わかってやってるわ。それより本当でもないうわさに踊らされて嫌がらせするあなたは、はしたなくはないの? いえ、はしたないというより……馬鹿ね!!」
「なっ……」
「あ、あなたふざけないでよ! いやがらせなんてしてないじゃない!」
「はー? じゃあ私が水被ってびしょびしょなのは? さっきおもむろに笑って、こっちみてからかけましたよね?」
「そ、そんなこと」
「まぁ、していなかったとしても。水をかけて……いえ、うっかりかけて謝らないなんて、まず令嬢としてどうなんです? 拭くための布すら出さず、笑ってるだけなんて悪意以外ないでしょう?」
 そう言うと、相手は黙った。
 そして私は、嫌がらせするなら――一昨日いらっしゃい! と大きな声で発した。
 その声にびくっとする姿に少し、溜飲も下がる。
 けどそこで。
「すまない。ひとつ問わせてほしい」
「はい?」
 そこで声をかけてきたのは、噂になっている王子で。
「一昨日いらっしゃいというが、一昨日というのは昨日のまた昨日。時間を飛び越えるというのは不可能だと思うのだが、可能だろうか」
「いえ、不可能ですが」
「それなら、その言葉はおかしくないだろうか」
 と、言ってくる。
 いや、あの。あの……あの……うん。
 毒気抜かれちゃった。
 私は周囲に騒がせてごめんなさい、と頭を下げ椅子を降りる。
 食堂の方にもごめんなさいと頭を下げる。
 するとどういう事、と王子が再度問うべくついてくる。
 ちょ、ちょっとー!
「あ、あの……二度と顔をみせるな、という意味で」
「うん? どうしてそうなるのかな?」
 えっ、いや私もそこまではわからない。そういう意味があるのは知ってるけど。
 にこにこと問う王子を邪険にできない私は相手をすることになる。
 そしてこれが王子の罠だったと知るのは、彼との婚約が本当になり、決まった後の事だった。




王子はわかってて聞いてる。
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