短編詰め合わせ

ナギ

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出逢いはここじゃない

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かきたかったのでさわりだけ




 こい、と引っ張られる。
 首輪に繋がる鎖が、私の身を無理矢理引っ張り上げた。
 私の意識は、虚ろ。そうされているのだとわかる。ずぅっと、微睡むような甘い匂いの中に落とされていて。
 ぼーっとして、本当に、あれ。なんだったかしら。
 考えていると、引っ張られて。引きずられるままに引き出された場所はとても眩しかった。
『それでは次はこちらの戦利品。旧帝国の姫で能力は癒しの力、それは微々たるものでございますが希少種ですので価値ある者かと思います。見た目はこの通り完璧な出来上がりでございます。旧帝国の皇族の色、銀糸に菫色の瞳は濃い色。血統については保障させていただきます。そして――生娘でございます』
 おお、と声が淀むように響いた。
 それでは、十からと声が遠い。
 どんどんその値が吊り上っていく。周囲に人がいるのはわかるのだけれど、眩しくて見えない。
 けれど、頭が冷えてくる。だんだん、どうしてこうなっているのか。
『百、それでは百で』
『百と五十!』
『百と五十! よろしいでしょうか?』
 しん、と静まり返る。静寂の中、私はもう一つ、声を聞いた。
『二百』
『二百! 二百ですがよろし』
『三百だ!』
『六百』
 数字が、はねたのはわかる。
 六百とは何のことだろう。しばらく考えて、ああそうだと思い至った。
 これは私に値段をつけているのだった。私の頭がやっと理解を始めた。
 戦争に負けた旧帝国。連合軍によって蹂躙されて。
 そう、私は。
 守られて、だから死なずにここにいる。
 国の行く末を見てくれと言われて。けれどあれは私を逃がすための言葉。
『――よろしいですね。それでは六百万で仕舞いとさせていただきます』
 戦いに負けた贖いはその身を削って。国にお金はありませんもの。あるのは美しい大地だけ。
 それは、皇国のものになるのでしょう。けれどそれはもう、私には関係がない。
 私はどなたかに買われたのだから。これはもうどうしようもない。私は諦めて、受け入れるしかないのだから。
 まぶしい場所から引っ張られ、私は別室へ連れていかれた。
 そこではにやにやと、嫌らしい笑みを浮かべた男が私を待っていた。
 この人に、私は買われてしまったのかしら。
 私の首と繋がる鎖。それがこの男に手渡されたのだから。
 この人が主というのは、嫌だと。嫌悪感があった。けれど、あの人ではないから。
「六百! よくやった! 半分は持っていかれるがそれでも良い稼ぎだ! 二百くらいかと思っていたので私は嬉しい! さぁお前を買った旦那様が来るぞ。よくいう事を聞くんだ、いいな」
 違っていた。この人は私を買った人ではなく、売った人のよう。
 そわそわとする男。しばらくするとノックの音がして、部屋に入ってくる人達がいた。
「やや! どうぞこちらへお座りください」
「いや、いい。長居する気はない。受け取りにきただけだ。おい」
 代金だと袋が渡される。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ。
 ああ、私の代金なのね、あれが。
「……はい、確かに! 現金で一括、いただきました。よろしければもう少し身ぎれいにさせますが」
「いい。すぐ連れて帰る」
 私を買った人。
 私よりも頭二つ分くらい大きな、立派な体躯の男の人。髪は夜のような色をしている。
 瞳は濃い金色だけれど、右目は黒い布で覆われている。肌は健康的な、日にやけた色。
 服装は、ちゃんとお金の出ているもので。でもそれを少し着崩していて、それが自然であるかのように見えてしまう。
 夜会に出れば、たくさんの令嬢達が騒ぐような、そんな方。
 女性にも困っていらっしゃらないだろうに、私を買うなんて。
 というより、まず人を買うというような事をするようなタイプには見えない。
「では」
 男は鎖を差し出す。けれど、私を買ったと言う人はそれを受け取らず冷たく一瞥しただけ。
「……書類は」
「え? あっ、はい今すぐ!」
 冷たい声に促され、男は部下にすぐ指示をする。
 書類。書類って、何かしら。
 慌てて用意されたそれを渡しを買った方は受け取って目を通している。
 まぁいいだろうと言って、私の鎖はその方の手に渡った。
 途端、強い力で引き寄せられる。
 それが強すぎて、私は引きずられて崩れ落ちた。
 舌打ち、それからゆっくりと鎖を引き上げる音。
 つられるように顔をあげると、私の顎は掴まれて、金色とかち合った。
「お前は俺が買った。俺のものだ、いいな」
「……はい」
 答えれば、顎から手が外されて、鎖をその場に落としてさっさと離れていってしまう。
 起き上がろうとすると、手が差し伸べられた。それを辿ってみれば優しそうな顔をした方がいて、ごめんねと私に向かって紡ぐ。
 何が、かしら。
「大丈夫? 立てる? ずっと捕まってたもんね、まともに歩ける、ようには見えないな」
 失礼、と言って。
 鎖を手繰り腕に絡ませると、私を立たせてその方はひょいと抱き上げた。
 まるで子供の用に抱え上げられて驚いてしまう。
「うわ、軽っ……君が歩く速度だと追いつけないから」
 私が頷いて、控えめに抱き着くとそれでいいと笑う。
「しかし、わが君の好みが君みたいな幼い子だなんて……これはどうしたらいいものか」
「おさない?」
「そう。歳は? まさか10歳以下なんてことは」
「私は、17になります」
「えっ、そ、それで?」
「はい」
 確かに、私は少し小さいし。歳の割に胸も大きくない、というよりぺったんこだし。
 けれど、この口振りからすると私は17よりも随分下に見られていたのでしょう。
 少し、悲しいような気がする。
 私は抱えられたまま馬車に乗せられた。その窓にはカーテンがかかっていて外は見えない。
 座れば目の前には私を買った方、隣には私を抱えてくれた方。馬車はすぐに走り始めた。
 腕を組んで目を閉じ、こちらを見ようとしない。だから私はまっすぐ、私を買った方を見つめていた。
 沈黙がずっと続く。
 最初にそれに、耐えられなくなったのは私の隣の方。
「わが君。黙っていられては彼女も理解できないかと」
「はっ! 俺のものになった。それだけだ、説明も何もいらない」
 吐き捨てるような物言い。けれどそれは正しいと思う。
 あーあと呆れたような声零す隣の方。私を買った方はそれ以降、また黙ってしまう。
「……俺が勝手に説明しますよ。いいですね、黙ってるならいいとしますよ」
 まったく、と零して。私の方を向く。私も視線を合わせると最初と同じようににっこりと笑みを向けられました。
「私の名前はセズ。わが主、イズライ様の補佐官をしています」
 私は瞬く。それは、東方の謎多き国、シユウの国主の名前ではなかったかしら。
「ええと……主が何を思って貴方を買ったのかはわかりませんが、最低限の衣食住、あなたの命の安全については保障させて頂きます」
 すみませんがこれ以上は何も言えませんとセズ様は仰る。
 私からしてみれば、それだけ言ってくだされば十分。だって無体なことをするような方たちには見えませんもの。
「けれど、これくらいでは恩返しにも何にもなりませんよ、わが主」
「恩返しなどではない」
「またまた……あなたにはそうでなくても、我らにとってはこの方は恩人だ」
 恩人? 私が? 何のことを言っているのかまったくわからない。
 なんとなく、ここは安全なのだと思えて私はそのまま意識を失った。
 きっとここは大丈夫。
 ここにあの人はこないと、思えたから。






不器用男×表情薄娘
イズは小さい頃助けてもらったことがあるのだけれど。
それはひどく、矜持を傷つけられる。施しのようなものだったと思えて復讐してやる、と思っていた。
けど、絆されていくというか。
もともと素直じゃないので好きって言えない系。
主人公ちゃんは、まぁいろいろあって。
皇族の本筋なんだけど、以前から病んでる系のひとに言い寄られていたとか。それから逃げれてほっとしているけれど。簡単に逃げれるものではないというやつ。
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