いとしのわが君

ナギ

文字の大きさ
13 / 33

注目の的

しおりを挟む
 ふぁとあくびひとつ。
 昨晩は話し込んでしまったわブランシュは反省する。
 今まで興味を持たなかったからだろうか、ムゥの世界について根掘り葉掘りしてしまったのだ。
「ブランシュ」
「本当に一緒に来るの?」
「ああ」
 目立ちそうだわとブランシュは思う。
 しかし止めることもできないのもわかっていた。
「そう……じゃあこれを首に」
「いやだ!!」
 ひらりとブランシュの指先で踊るピンクのリボン。
 ムゥはつけるものかと声を上げるがつけてとブランシュはせまる。
「つけてくれないと、わたしがつれていると言い切れないわ」
 そもそも力ある幻獣はこの世界にはこれないのだ。いても弱く、姿は隠している。気に入った者にしか姿を見せない。
 それが普通なのだが、ムゥはそうではない。
「リボンは妥協するが、ピンクはいやだ」
「……じゃあわたしもつけるわ、おそろい」
「おそろいだ、と……」
「ええ、おそろい」
 ブランシュは鏡の前に座ると髪の一房をとりそこにリボンを結んだ。
 そしてほら、とムゥを手招く。
 ムゥは歩み寄るとぴょんとブランシュの膝の上に乗った。
「早く結べばいい」
 しぶしぶ結ばれてやるという様子だが尾は揺れている。
 それが本心ねと思いながらブランシュは首にリボンを結んだ。
「似合ってるわ」
 ブランシュは足元にムゥを下ろし扉へ向かう。
 食堂に行くのは、いつもは少し気鬱。しかし今日はそうではなかった。
 足元をみればムゥがいるのだ。
「ブランシュ?」
 立ち止まって、扉を開けない。
 どうしたのかとムゥが見上げてくる。
 少し前の、声だけのとき。なぜわたしに話しかけるのかと、わずらわしいと思ったことがあるのは否定しない。
 けれど声が聞こえなかった三日間。最終的には心配になっていた。
 そして、聞こえなかったのはこちらに来るためだと言い、目の前にいる。
 そこまでして、普通はこないはずだ。それをしたのだから、ムゥが向ける好意は本物だと思えた。
「今日は逃げずに授業をうけるわ」
「そうか」
「だから、そばにいてね」
 もちろんだと尾が跳ねる。それは俺の喜び、幸せだと。
 ブランシュは微笑んで扉を開け、食堂に向かった。
 朝、ここでちくちくと視線向けられとる朝食には味がなかった。
 今日はおいしく食べることができるかしらと思う。
 食堂に入ればちくちくと視線がささる。ひそひそと何か言われているのもわかった。
「ムゥ、何がいいの? 適当にとったのでいい?」
「ブランシュに任せる」
 しかし、ブランシュは足元に視線を向けている。いつもはさっさととっていくブランシュの動きが遅いことに周囲は気づいて、その原因を見たのだ。
 猫ではない。犬のようではあるが、角がある。一体何をつれているのかとすぐ話題になり、広まった。
 そんな外野の様子を気にせず、いくつか朝食を選んで席に座る。
 さすがにテーブルの上にあがるのはここではまずいと思ったのだろう。ムゥは隣の席に上がった。
 ハムや卵、野菜と適当にとったものをブランシュはムゥのそばに置いた。
 自分と同じものでいいのかしらとも思ったのだが口にしているのだから問題ないのだろう。
「美味しい?」
「飛び上がって喜んで、驚くことはないが美味い」
 よかったわとブランシュは安心した。
 そして朝食をとり終わる頃、食堂の入り口が騒がしくなる。
 何かしらねとそちらを向けば学園長がいた。
 あら早い、とブランシュは思う。ムゥのことは広がる。そして問われると思ってはいたのだがこんなにすぐとは思わなかったのだ。
「ブランシュ嬢」
「おはようございます、学園長」
 ブランシュは立ち上がり、礼をする。そして笑みを向けた。
「来てくださると思っておりました。こちらでお話しします?」
「いや、私の部屋で」
 はいとブランシュは頷き、ムゥを抱え上げた。
 学園長はついてくる意思を見せたブランシュを確認し、ついてきなさいと先を歩んだ。
「質問攻めになるかしら」
「俺が答える。ブランシュは黙っていればいいぞ」
「そうするわ」
 ブランシュは頷く。
 ムゥは幻獣だとは言える。しかし、それ以上はわからない。
 学園長も、ムゥが幻獣なのはわかっているだろう。だからこそ慌ててきたのだ。
 学園長室に通され、幻獣だとは思うのだが、と聞かれる。
 ムゥは丁寧に学園長に答えた。
 答えられる質問には、だが。
「人が学術的にも我らのことを知りたいのはわかるがな、俺は協力する気はない。お前達のためにここにきたのではない」
 ムゥはブランシュの膝の上だ。ブランシュはわたしはよくわかりませんのでと最初に言った。
 学園長はちらちらととりなしてほしいという視線を向けてくるがスルーだ。
 最終的に、ムゥはずっとそばにいることを認める。そして干渉はしないという約束を取り付けていた。
 無理強いすればそれ相応、やりかえさせてもらうと脅していたが、ブランシュは聞かなかったふり。
 そして、長い時間を学園長室で過ごし、退出したところでブランシュはまた問題とぶつかる。
「お待たせしました?」
「そこそこな」
「俺はさっき来たところだけどね」
「今度はこっちに付き合ってもらおうか」
 ムゥは唸り声をあげる。
 学園長室の外で待ち伏せていた王子三人。それはムゥにとって1番気に入らない対象だった。
 付き合ってもらおうか、と言われたブランシュは断ることはできさそうと思う。そうできる空気ではなく、わかりましたと頷くしかなかった。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

10年間の結婚生活を忘れました ~ドーラとレクス~

緑谷めい
恋愛
 ドーラは金で買われたも同然の妻だった――  レクスとの結婚が決まった際「ドーラ、すまない。本当にすまない。不甲斐ない父を許せとは言わん。だが、我が家を助けると思ってゼーマン伯爵家に嫁いでくれ。頼む。この通りだ」と自分に頭を下げた実父の姿を見て、ドーラは自分の人生を諦めた。齢17歳にしてだ。 ※ 全10話完結予定

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】伯爵令嬢の25通の手紙 ~この手紙たちが、わたしを支えてくれますように~

朝日みらい
恋愛
煌びやかな晩餐会。クラリッサは上品に振る舞おうと努めるが、周囲の貴族は彼女の地味な外見を笑う。 婚約者ルネがワインを掲げて笑う。「俺は華のある令嬢が好きなんだ。すまないが、君では退屈だ。」 静寂と嘲笑の中、クラリッサは微笑みを崩さずに頭を下げる。 夜、涙をこらえて母宛てに手紙を書く。 「恥をかいたけれど、泣かないことを誇りに思いたいです。」 彼女の最初の手紙が、物語の始まりになるように――。

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました

香木陽灯
恋愛
 伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。  これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。  実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。 「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」 「自由……」  もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。  ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。  再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。  ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。  一方の元夫は、財政難に陥っていた。 「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」  元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。 「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」 ※ふんわり設定です

処理中です...