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人は知らぬ話
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幻獣が姿をもって現れる。
それが可能であることは人間にもだが、幻獣たちにとっても騒ぎになることだった。
国の真似事をしている幻獣たち。その代表たちは集まって話をしていた。
ひとり、欠いてはいるが。
「あれは赤公でございましょう」
「だろうな! ずるい!」
「我らに黙って……あやつは」
ゆるりと巨軀を動かす青き鱗の幻獣は不機嫌を露わにする。
まぁまぁととりなす黄色の毛並みの幻獣はふっさりとした尾をゆらしたしなめた。
「どうやら気に入った者の側にいったようですが……」
「そも、赤公が気にいるというのはなかなか……いえ、今までなかったですよね」
「ああ、ないな」
「なかったからこそ! きになるじゃあないか!!」
幻獣にも名はある。しかしそれを明かさぬ事が一般的だ。だから、呼ぶときはその身の色、姿形を名乗りとする。
そして国もどきの頭となるものはその色に『公』を付けて呼ばれるのだ。
この場にいる、青き鱗の幻獣は青公と。黄色の毛並の幻獣は黄公というように。
ばさりと翼を広げた蒼い幻獣――蒼公は俺も行くぞと高らかに声をあげた。
「しかし蒼公、どうやって行くのだ」
「それはカミサマに伺うのだよ!」
ああ、なるほどと問うた青公は頷いた。自身の力で行くことはままならぬ。
それを可能とするのはカミサマ以外にはいない。
「我は行かぬが蒼公の他に行きたいものは」
「わたしはこちらにいます」
「うーん、迷う、かな……」
集まった幻獣たちの意見は様々だ。
どうしても行きたいと言うものは、どうやら蒼公だけらしい。
それを受けて蒼公は、赤公への伝言を携えて行くことになった。
行くことができるかどうかは、別として。行けなければその理由を聞き、皆に報告すると約束して、だ。
「それではこの蒼公、皆様方からのあれそれすべて、赤公に届けて参る!」
けらけらと楽しそうな声で笑いながら蒼公は飛び立った。大きな羽根を広げ飛ぶは、蒼公の当たり前だ。
ほかの幻獣たちはそれを見送って、さぁと次の話を始める。
「あやつが行くまでに何日かかるか……というのでどうだ?」
「あちらの日数で10日」
「5日」
「博打で1日」
「……あなた方は……わたしは20日で」
呆れたような声色零したのは黄公だったが、お前も乗るのかと言われて当然ですと言う。
「誰だって娯楽を求めていますから」
そうだなとどの幻獣も頷いた。
賭けるものはなにもないのだが、楽しみは欲しい。
彼らの興味は傍の世界にある。そこに生きるものは幻獣より短命で弱いが笑い、泣き、様々な感情と共に暮らしている。
幻獣は長い時を生きる。確かに楽しい、悲しいなど感情はあるがどうしてか、人のそれは素晴らしく輝いて見えるのだ。
その中でも一際目についたものは見守りたく、声をかけるのは幻獣のサガともいえる。。
「ああ、もうひとつ賭けをしません?」
「どんの賭けだ?」
もうひとつと持ちかけた声の主はふふと笑いこぼしてそれはと紡ぐ。
「赤公が恋と気付くかどうか、ですよ」
その言葉に恋、と皆は変な声を落とす。
「コイとはあれか、あちらにいる魚か?」
「いいえ」
「……恋?」
「はい」
「いや、ないだろう。赤公だぞ?」
「そう、あの赤公ですよ」
「赤公が、か?」
ない、それはないと口々に言う。
しかし、恋と気付くかと口にした黄公はふふと笑みこぼすのだ。
あれが恋ではなく何かと。わざわざあちらまで行ったのだから、と。
「皆様は恋ではない、で良いのですよ」
そう言われてそれぞれがまた悩み始める。
しばらく、見るものがあって楽しいことと黄公が内心思っている頃、蒼公は目指した場所にたどり着いた。
そこはカミサマのいる場所だ。
「カーミサマ! いるー!?」
人の形をとった蒼公は幼い子供だ。ばしゃばしゃと水のあるところを進んで歩く。
その声にここだとカミサマは姿を現した。
「おう、どうした。また何かやったのか?」
「やったのは赤公だよね!」
「……それで?」
「俺も行きたい!」
「えー……」
それはまた面倒なお願いだなとカミサマは思う。
この蒼公は、赤公よりも子供だ。重ねた年月は似たようなものだが、精神が子供だ。幼いのではない、子供だ。
というより、我慢などができない性質なのだ。
あちらに送れば必ず問題を起こすと思える。そうするとカミサマからちくちくと嫌味を言われるのは自分だ。
しかし、ここでダメだと言ってもいくと喚くだろう。それもそれで、面倒だとも思う。
「あっ! 赤公ここにいるし!!」
「あっ……」
ばしゃばしゃと水の中に入っていく蒼公。その視線の先には見知った者の姿だ。
赤公――赤い毛並の、角持つ幻獣は水の中に眠るように沈んでいる。
「……寝てんの?」
「まぁ、そんな感じだな」
「俺もここで眠ればいける?」
「いけない」
そう言うとカミサマァ! と蒼公はしがみついた。
おねだりだ。
「赤公だけずるい! ずーるーいー!」
「ずるいは認める。けど、お前も許すと他の幻獣も、なぁ」
「それは大丈夫! 俺以外は取り合えず様子見って話になってるから!!」
あ、すでに根回ししてきたのかとカミサマは思う。
それなら、まぁいいかと思ったのだ。幻獣たちには甘いなと思いつつも。
「青公も黄公も緑公も、とりあえず国もどきの一番上は、俺以外には来ない、今のところ」
「今のところ、な……」
こうやってしばらく縋られるのもと思う。
カミサマは一つため息ついて、わかったと紡いだ。
自分の羽根を一枚とって蒼公へと渡す。
「これもって、水の中に沈め。意識をこれに移すイメージ。で、最初はあっちにいるカミサマのところにつくから、あいつの言う事は絶対聞くこと」
「わかりました!」
「絶対だからな……怒らせたりするなよ。あいつが帰れって言ったら、諦めろよ」
うんうんわかったと、わかってないだろうなという反応。
カミサマはもう後は知らんとばかりに蒼公を送り出した。
水底に沈めばその姿は自然と、人でないものの姿になる。その姿を切り取るように羽根に映し、蒼公もまた傍らの世界へとたどり着くことになった。
それが可能であることは人間にもだが、幻獣たちにとっても騒ぎになることだった。
国の真似事をしている幻獣たち。その代表たちは集まって話をしていた。
ひとり、欠いてはいるが。
「あれは赤公でございましょう」
「だろうな! ずるい!」
「我らに黙って……あやつは」
ゆるりと巨軀を動かす青き鱗の幻獣は不機嫌を露わにする。
まぁまぁととりなす黄色の毛並みの幻獣はふっさりとした尾をゆらしたしなめた。
「どうやら気に入った者の側にいったようですが……」
「そも、赤公が気にいるというのはなかなか……いえ、今までなかったですよね」
「ああ、ないな」
「なかったからこそ! きになるじゃあないか!!」
幻獣にも名はある。しかしそれを明かさぬ事が一般的だ。だから、呼ぶときはその身の色、姿形を名乗りとする。
そして国もどきの頭となるものはその色に『公』を付けて呼ばれるのだ。
この場にいる、青き鱗の幻獣は青公と。黄色の毛並の幻獣は黄公というように。
ばさりと翼を広げた蒼い幻獣――蒼公は俺も行くぞと高らかに声をあげた。
「しかし蒼公、どうやって行くのだ」
「それはカミサマに伺うのだよ!」
ああ、なるほどと問うた青公は頷いた。自身の力で行くことはままならぬ。
それを可能とするのはカミサマ以外にはいない。
「我は行かぬが蒼公の他に行きたいものは」
「わたしはこちらにいます」
「うーん、迷う、かな……」
集まった幻獣たちの意見は様々だ。
どうしても行きたいと言うものは、どうやら蒼公だけらしい。
それを受けて蒼公は、赤公への伝言を携えて行くことになった。
行くことができるかどうかは、別として。行けなければその理由を聞き、皆に報告すると約束して、だ。
「それではこの蒼公、皆様方からのあれそれすべて、赤公に届けて参る!」
けらけらと楽しそうな声で笑いながら蒼公は飛び立った。大きな羽根を広げ飛ぶは、蒼公の当たり前だ。
ほかの幻獣たちはそれを見送って、さぁと次の話を始める。
「あやつが行くまでに何日かかるか……というのでどうだ?」
「あちらの日数で10日」
「5日」
「博打で1日」
「……あなた方は……わたしは20日で」
呆れたような声色零したのは黄公だったが、お前も乗るのかと言われて当然ですと言う。
「誰だって娯楽を求めていますから」
そうだなとどの幻獣も頷いた。
賭けるものはなにもないのだが、楽しみは欲しい。
彼らの興味は傍の世界にある。そこに生きるものは幻獣より短命で弱いが笑い、泣き、様々な感情と共に暮らしている。
幻獣は長い時を生きる。確かに楽しい、悲しいなど感情はあるがどうしてか、人のそれは素晴らしく輝いて見えるのだ。
その中でも一際目についたものは見守りたく、声をかけるのは幻獣のサガともいえる。。
「ああ、もうひとつ賭けをしません?」
「どんの賭けだ?」
もうひとつと持ちかけた声の主はふふと笑いこぼしてそれはと紡ぐ。
「赤公が恋と気付くかどうか、ですよ」
その言葉に恋、と皆は変な声を落とす。
「コイとはあれか、あちらにいる魚か?」
「いいえ」
「……恋?」
「はい」
「いや、ないだろう。赤公だぞ?」
「そう、あの赤公ですよ」
「赤公が、か?」
ない、それはないと口々に言う。
しかし、恋と気付くかと口にした黄公はふふと笑みこぼすのだ。
あれが恋ではなく何かと。わざわざあちらまで行ったのだから、と。
「皆様は恋ではない、で良いのですよ」
そう言われてそれぞれがまた悩み始める。
しばらく、見るものがあって楽しいことと黄公が内心思っている頃、蒼公は目指した場所にたどり着いた。
そこはカミサマのいる場所だ。
「カーミサマ! いるー!?」
人の形をとった蒼公は幼い子供だ。ばしゃばしゃと水のあるところを進んで歩く。
その声にここだとカミサマは姿を現した。
「おう、どうした。また何かやったのか?」
「やったのは赤公だよね!」
「……それで?」
「俺も行きたい!」
「えー……」
それはまた面倒なお願いだなとカミサマは思う。
この蒼公は、赤公よりも子供だ。重ねた年月は似たようなものだが、精神が子供だ。幼いのではない、子供だ。
というより、我慢などができない性質なのだ。
あちらに送れば必ず問題を起こすと思える。そうするとカミサマからちくちくと嫌味を言われるのは自分だ。
しかし、ここでダメだと言ってもいくと喚くだろう。それもそれで、面倒だとも思う。
「あっ! 赤公ここにいるし!!」
「あっ……」
ばしゃばしゃと水の中に入っていく蒼公。その視線の先には見知った者の姿だ。
赤公――赤い毛並の、角持つ幻獣は水の中に眠るように沈んでいる。
「……寝てんの?」
「まぁ、そんな感じだな」
「俺もここで眠ればいける?」
「いけない」
そう言うとカミサマァ! と蒼公はしがみついた。
おねだりだ。
「赤公だけずるい! ずーるーいー!」
「ずるいは認める。けど、お前も許すと他の幻獣も、なぁ」
「それは大丈夫! 俺以外は取り合えず様子見って話になってるから!!」
あ、すでに根回ししてきたのかとカミサマは思う。
それなら、まぁいいかと思ったのだ。幻獣たちには甘いなと思いつつも。
「青公も黄公も緑公も、とりあえず国もどきの一番上は、俺以外には来ない、今のところ」
「今のところ、な……」
こうやってしばらく縋られるのもと思う。
カミサマは一つため息ついて、わかったと紡いだ。
自分の羽根を一枚とって蒼公へと渡す。
「これもって、水の中に沈め。意識をこれに移すイメージ。で、最初はあっちにいるカミサマのところにつくから、あいつの言う事は絶対聞くこと」
「わかりました!」
「絶対だからな……怒らせたりするなよ。あいつが帰れって言ったら、諦めろよ」
うんうんわかったと、わかってないだろうなという反応。
カミサマはもう後は知らんとばかりに蒼公を送り出した。
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