転生令嬢はやんちゃする

ナギ

文字の大きさ
上 下
180 / 243
第五章

帰途

しおりを挟む
「…………」
「……うぅ、やだー、帰りたくなっ、ひぐっ」
「………………」
「うぅ、ぐすん……びゃー」
「……………………お前は、うるさい!」
「痛っ! お兄様叩かないでよぉ!」
 うう、涙が止まりません。
 お見送りされて馬車に乗ったとこまでは寂しかったけど笑顔だったの。
 がんばったの。
 でも姿見えなくなったら、ぼろっと涙がおちて。
 それから私は、泣いている。
 お兄様はうっとおしそうな顔をしている。うるさくて! ごめんね!
「くそ、さらっと別れたなと思ったらこれだ……」
「だ、だって。我慢したし……うー」
「鼻水出てるぞ」
「ふ、ふきますー!」
 べそべそ泣いてる私。最初は黙っててくれたけどいい加減にしろと、とうとうつつかれてしまった。
 私とお兄様は、国への帰途についた。
 お別れは、本当にさらっと。
 館に馬車がきたので、その前で帰ってくるの待ってるって言って。
 一度抱きついて、乗った。
 ガブさんたちもお見送りしてくれたけど、私は適当に返事してたと思う。
 じーっとテオを見て、このテオがどうなるのか楽しみにしようって。
 で、しばらく馬車に乗ってたら我慢ができなくなって泣き始めた、と。
「お前、テオドールが行くときはそんなに派手に泣かなかっただろ……」
「お兄様は知らないだけで、寮で泣きました! ジゼルちゃんはそっとしてくれてました!」
「俺はジゼルじゃない」
 もういいから、そこのクッションに顔つっぷして寝とけ、とお兄様に言われる。
 うう、と唸りながら私はその通りで。
 馬車にのって、数日。ゆーっくりした道程の中で、私はちょっとずつ切り替えていった。
 そうよ、どうせあと一年だし! 一年! あっという間!!
 すぐ再会できる! よし、魔術がんばろ!!
「お兄様、次の街は何か美味しい物があるとか……ちーず……」
「……お前の立ち直りの速さには毎度、関心する」
 呆れたような物言いで、お兄様はまぁ、楽しんでおけと言った。
 わぁい! ちーず! フレッシュチーズ食べれるかなわくわく。
 そんな風にすーっかり観光わぁい!! となってた私はするっとまるっとしっかりうっかり、あのことを忘れていた。
 お父様からの、お叱りタイムを。
 そのことに気付いたのは、国に入って、そして王都が見えてきた時だったわけで。
「お兄様どうしよう震えてきた」
「説教なんて右から左に聞き流せば問題ない」
「そう思えるのはお兄様だけです」
 あっ、やだもう脱走したい。
 そ、そうだ! お兄さまだけ帰宅させて私はこのまま、学園の寮に戻るという選択肢も……!
 そ、そうしようそうしよう!
 そうしようと考えたけどそれって余計、怒られるだけじゃと思って。
 あっ、無理! やっぱりちゃんと怒られるべきかな!
 馬車の中でどうしようとごろごろしているとお兄様は落ち着けとうんざり。
「……俺は親父より、母上の方が怖いけどな」
「えっ」
「俺は一度だけ、母上を怒らせたことがある……父上よりも恐ろしかった」
「……私は木登りして落ちた時に、長々とお説教された記憶が」
「ああ、それはまだいいほうじゃないか……」
 母上は、本当に怒るとにこにこ笑って、わかっていますかと笑うだけだとお兄様は言う。
 その表情には色がなくて、その時のことを思いだしている様子。
 お兄様がそんな顔をするなんて、それは本当に恐ろしいことなのだと思う。
 怒られるときはおとなしくしていよう、と私は思う。
 ちゃんと反省している感じを態度で示して……ど、どう示せばいいかな!?
 そもそも怒られる論点がどこになるのか、ちょっともうわからない。
 勝手にいった事かな!? 危ない事したってところかしら!? さくっと帰らず遊んだことかな!?
 どのへんを重点的に雷を落としてくるのか、わからない。
「まぁ、お前はひとまず黙ってろ。とりあえず連れ出したのは、俺に責任がある」
「お兄様は切欠ですけど、私も行くって自分で決めたから……そこはちゃんと一緒に怒られますよ」
「そうだな。俺はお前の、行きたいという願いをかなえたわけだしな」
 ん?
「俺はお前のために、あの魔術を組んでやったようなものだしな」
「あ、ちょっ、待って。お兄様、私に責任多めにかぶせようとしないでくれます!?」
「ちっ」
「舌打ちしたー!」
 と、馬車の中で騒いでいると、王都に到着して。
 ああ、久しぶりの街並み!
 わぁい! ちょっと寄り道して帰りたい!!
 そう思ったけど、問答無用で馬車は王都の我が家に直行でした。
 まぁ、そうなりますよね!! うん、わかってましたけど!!
 王都をでて、久しぶりに我が家。
 そこで待っていたのは、お父様とお母様でした。
 や、やだ玄関でお迎えとか完全に逃がさないからってことですよねこわい。
 しかも超良い笑顔なんですけど。お兄様もその顔を見て一瞬動きとめた。
 なので私は察した。これは、やばいと。
 あーあーあー! 不安!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異種族キャンプで全力スローライフを執行する……予定!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,734pt お気に入り:4,744

可笑しなお菓子屋、灯屋(あかしや)

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:958pt お気に入り:1

あなたの世界で、僕は。

BL / 連載中 24h.ポイント:1,875pt お気に入り:57

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:62,920pt お気に入り:3,581

草花の祈り

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:398pt お気に入り:24

処理中です...