コペンハーゲン

まんまるムーン

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11.


ジリリリリ

目覚ましの音で花蓮は目を覚ました。

ボーっとした頭でベッドから起き上がる。


 何か…すごく長い…とても大事な…

 夢を見ていた…


花蓮は夢の内容が思い出せなかった。

ただ、中島君が出てきた。

それだけ覚えていた。


 今日は高校の卒業式

花蓮は身支度を整えると、祖母の部屋へ行った。

「おばあちゃん、おはよう。」

祖母はゆっくり花蓮の方に顔を向けて微笑んだ。

「卒業おめでとう、花蓮。三年間、よくがんばったわね。おばあちゃん、こんな体だから、ろくにお祝いしてあげられなくてごめんね。」

「ううん、おばあちゃん、そんなこと言わないで。おばあちゃんはいつも私に優しくしてくれて、家族みんなにだって優しくしてくれた。パパが出て行って、ママも情緒不安定で、私、おばあちゃんに救われてたんだ。」

「…花蓮…」

「いつも見守ってくれて、本当にありがとう。」

祖母は涙を浮かべて愛する孫を見つめた。



「花蓮、そろそろ行きましょうか?」

母親が祖母の部屋にいる花蓮を呼びに来た。

「お義母さん、すみません。昼過ぎには戻ってこれると思うんですけど…」

「あら、大丈夫よ。ヘルパーさんだって来てくれてるのに。今日は花蓮の大事な日なんだから、ゆっくり食事でもしてきてちょうだい。」

祖母は母親と花蓮に微笑んだ。



 表通りの並木道を母親と花蓮は並んで歩いた。

三月になったとはいえ、風は冷たく、まだコートが必要な寒さだった。

「私が大学に行ったら、ママ一人でおばあちゃんの世話大変じゃない?」

「まあ、楽ではないけど、行政のサービスなんか利用できるし、なんとかなるわ。」

「やっぱり私がこっちに残った方が良かったんじゃないかな…」

「花蓮は心配しなくていいのよ。ママね…おばあちゃんのお世話をするの、苦じゃないの。」

「ママ…すごいよね。だっておばあちゃん、ママのお母さんじゃなくてパパのお母さんなのに…。あんなことして家を出て行ったパパの親をこんなに親身にお世話できるなんて、まるで仏なのって思う…。」

「仏なんて…それどころか逆よ…。」

母親は一瞬暗い表情になった。

「ママね、おばあちゃんのこと大好きだし、尊敬もしてる。パパとはあんなになっちゃってるけど、私が大事な物を見失わないでいられたのは…おばあちゃんのおかげだと思ってるの。」

「…やっぱりママは人間ができてるわ!」

「…完璧な人間なんていないのよ…」

そんなことを言う母親を花蓮は不思議な気持ちで眺めていた。


 卒業式が終わり、生徒が外に溢れ出てきた。

皆、それぞれ友達や恩師と写真を撮ったりして盛り上がっていた。

花蓮は葵の事が気になっていたが、葵は花蓮の元へは全く寄り付かなかった。

花蓮の心は、何故か昨日のように痛まなかった。


 何故なんだろう?

 昨日はナイフで心臓をえぐられるような痛みを感じていたのに…

まるで傷口にかさぶたが出来たように、刺すような痛みは襲ってこない。


 今、私たちは打ち解けられないけど…きっと未来で…またわかりあえる…

何故か花蓮にはそう思えた。



花蓮が母親と帰ろうとしたとき、視線を感じた。

振り向くと、中島が花蓮を見つめていた。

花蓮も中島を見つめた。


 私たちは…繋がっている

 きっとまた…どこかの未来で会うのだろう…

 その時まで…さようなら


 …中島君…








12.


 気づけば彼女を目で追っていた。

 あの夢を見てから…


「一緒に…コペンハーゲンに行かないか?」


転勤で海外赴任が決まって思い切って彼女に言った。

彼女は戸惑ったような、嬉しそうな顔をして「うん」と、一言呟いた。


その後バタバタと結婚の準備を進め、皆に祝福されつつめでたく夫婦となった。

彼女は母親と介護の必要な祖母を日本に残していくのを後ろめたく感じていた。

そんな孫の気持ちを察したかの如く、彼女の祖母は自ら介護付き老人ホームに入居すると言い出し、母親が止めるのも聞かず、あれよあれよという間に入居した。

母親は花蓮に自分が毎日祖母の様子を見に行くから花蓮は安心してコペンハーゲンに行きなさいと告げた。


「…で、コペンハーゲンって…どこの国だったかしら…?」

と、俺の義母。

似たもの親子だ。

微笑ましい。


よく海外赴任について行った妻たちは、ものすごくエンジョイするタイプとホームシックで引きこもりになるタイプとあるらしいが、俺は自分の妻に引きこもりになるのではないか、向こうの生活に順応できないのではないか、などという心配は全く無かった。

彼女は現地での生活が落ち着いた頃から本領を発揮し始めた。

自宅の一室を使わせてほしいと言ってきて、了解すると、なんとその一室でコスプレスタジオを始めたのだった。

 Japan costume studio

彼女は嬉しそうに看板を作った。

いつどこで習ったのか、着付けなどを習得していて、現地の人を相手に着付けは彼女がして、その後自分たちで自由に撮影をさせるという仕事を始めた。

追加料金で、お客さんが撮った写真のデータをパソコンに移して、その上に名前の漢字の当て字を入れてやるというサービスもしていた。

そしてまたいつ習ったのか、茶道も習得していて、コスプレスタジオで抹茶をたてて販売していた。

 なんとも抜け目ない!

いつの間にこんなに商売人になったのだ!


生活を楽しんで

思いっきり仕事もやって

気づくと5年の月日が経っていた。

その間にかわいい娘も生まれた。

そして俺の任期は終わり、日本に帰国することになった。


彼女の仕事は順調だった。

俺が日本に帰ることによって、彼女の生きがいを奪ってしまうのではないか?

さんざん悩んだが、彼女は帰国することを一つ返事で受け入れた。


「私はどこでだって生きていけるし、どこででも楽しく暮らしていける。あなたとこの子がいてくれたら。」


娘を抱きかかえて微笑む彼女は

ひたすら神々しかった。


 ケンカをしたり、もっと治してほしいと思うところもお互いあるだろう。

 だけど俺にとって、生涯一緒にいるのは


 花蓮しか考えられない!



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