良心的ＡＩ搭載 人生ナビゲーションシステム

5 赤い月が昇る頃、オッドアイの瞳は見つめている。トンネルの向こうに開かれた世界で私を待っているのは誰？

1

　あれは私が小学校５年生の時の誕生日。


どこかに出かけていて家に帰って来たとき、父が玄関の前で変な事を言った。

「扉を開けると猫がいるかもしれないね。」

「え！　猫がいるの！」

「でも、扉の向こうには魚がいるかもしれないよ。」

「パパ、どっちなの？」

「扉を開ける前の真子まこにはどちらもあり得るという事かもしれないね。」

「何なのそれ？　意味わかんない。」

父はハハハと笑った。

全く面白いとも思えない事を、自分で言って自分でウケている。

変なの…。

「じゃあ、開けてごらん。」

扉を開けると灰色の可愛い子猫がちょこんと座っていて、ミャアと鳴いた。

「猫だ！」

私は子猫を抱きかかえた。

フワフワの毛に頬ずりした。



「そう、ここは猫のいる世界です。」






６月２６日　金曜日　朝から雨。


週の終わり、そして午後の一番最後のクラスともなれば、受講する生徒はいつもまばら。

これじゃあ先生もやる気が無くなるだろう。

しかしそんな事は私には関係無い。

興味がある授業だから来ているだけ。

「へ～、すごいね！　もしかして、授業全部出席してる？」

いつの間にか隣に神崎蒼かんざきあおい君が座って、びっしり書き込みをしてある私のプリントを見ていた。

「うん。」

私は前を向いたまま答えた。

「ちょっと…写させてもらっても…いい？」

横をチラ見すると、神崎君は両手を合わせて私に懇願していた。

私はプリントを彼に差し出した。今日の分だけでなく、今までの分も見せてあげた。

「設楽さん！　女神じゃね？」

「私の事、知っててくれたの？」

「設楽真子したらまこちゃんでしょ！」

何故、神崎君が私の事を知っているのかは不明だが、私は彼の事をずっと前から知っている。

…正確に言うとリアルの彼ではないのだけど…。

「蒼あおい～！　私たちにも見せて～！　もう、ずっと出てないんだ～。」

教室の後ろのドアがそっと開いて、何人かの女子生徒が神崎君の所にやって来た。

「やばっ！　すごいじゃん、コレ！」

「ちょっと、お前ら、これ、俺のじゃねーから。設楽さんに許可もらえよ！」

彼女たちは私の横に来て貸して欲しいと頼み込んだ。

「どうぞ。終わったら返してね。」

「設楽さん、心が広～い！　ありがと～！」

彼女たちは神崎君の向こう側に戻ってひたすらプリントを写していた。

「ちょっと設楽さん。いいの？　そんなに簡単に貸しちゃって。今まで頑張ってきたのに遊び惚けていたやつらに横取りされるようなもんだよ！　ま、同類の俺が言える立場じゃないけどね…。」

神崎君は私の耳元で囁いた。

私は体温が上昇していくのが分かるくらいに真っ赤になった。





“ベッドの中で裸で抱き合って眠っている。

そして神崎君は目をゆっくり開けて私を見る。

「おはよ、真子。」

そして笑顔で追いかぶさってキスをしてきた。“