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まんまるムーン

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6 全く性格の違う菜々子と夏子が入れ替わった! 会社は? 夫婦生活は? どうすればいいのよ~!

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 尚之さんは夕方病院に迎えに来てくれた。体がフラフラなのと、頭が混乱していたので、聞きたい事はたくさんあったけど、私は無言で彼の運転する車の助手席に乗って流れていく景色をひたすら見ていた。

 「へえ、その旦那、どんな人だったの? 好みのタイプじゃなかった?」
 「まったく…。どっちかって言うと私はああいうタイプの人、苦手だな…。絶対に結婚しようとは思わない…。」
 「…随分な言われようだな…」

 さっきの私の失言…きっと尚之さん怒ってるよね…。ハァ~どうしよう…。もともと夏子との関係は良くないみたいだけど、さらに拗らせちゃったよね、私…。言うべき言葉が見つからない。尚之さんはずっと黙っている。…怖い。…気まずい。…ひたすら苦痛の時間が過ぎてゆく。しかもスローモーションのようにのろのろと…。楽しい時ってあっという間に過ぎちゃうけど、その逆は、こんなにも時間が経つのって遅いんだな…。



 地獄の沈黙を経て、車は夫婦のマンションへと到着した。夏子のマンションは私の想像を遥かに超えた豪華な物だった。入口はホテルみたいに広くて洗練されていて、さらにコンシェルジェまでいた。尚之さんはコンシェルジェに挨拶すると、奥のエレベーターへ向かった。私もその後を追った。エレベーターはすごい勢いで上昇した。その間も私たちは無言だった。

 これきっと、マンションどころじゃなくて、億ションだよね…。

 緊張で震えながら、どんどん上がっていく階数のランプを眺めた。尚之さんは一向に話しかけてくるようなそぶりも無い。結婚というものをしたことが無いので分からないけど、世の中の夫婦というものはこんなもんなのだろうか。結婚してしまうとお互いの興味なんてすぐに無くなって、会話すら面倒になっていくものなのかな…。あれだけ派手な結婚式をして、同級生の私たちに幸せぶりを見せつけていた夏子…。結婚後はあまり連絡も無く、SNSで彼女の派手なライフスタイルを見かけるだけだった。旦那さんとのラブラブな様子をネットに公開しまくっていたけど、本当は仮面夫婦だったのかな…。


 正直、夏子と旦那さんが仮面夫婦かどうかなんてどうでもよかった。それよりも私が気になったのは、年の離れたたった一人の家族である弟の大輝の事だった。両親を失った私たちは、二人で支えあいながら生きてきた。親を失った悲しみは深いというのに、さらに姉までこんなことになったら、私の体の方がどうなっているかわからないけど、きっとあの子は不安で堪らないだろう。私は意を決して尚之さんに言った。

「あの…車を貸してもらえませんか?」
「…え?」
「ご迷惑かけ続けていて、本当に申し訳ないんですけど、私…どうしても会いに行かなきゃいけない人がいるんです!」
しばらく沈黙があった。そして尚之さんは静かに言った。
「…誰?」
尚之さんは今までにも増して刺すような視線を向けてきた。その冷たい視線が怖くて震えあがりそうだったけど、ここで怯む訳にはいかない! 
「お願いします! 私、その人の事が心配で…。」
「自分がそんな状態で、他人の心配してるの? 別に君が誰と会おうが僕には関係ないけど…」
冷たぁ~! 瞬間冷却剤ですか、あなたはっ!
「勝手にすればいいだろ。今までだって君は僕に構わず好き勝手してきたんだから。出かけるんだったら自分の車を使ってくれ。僕は仕事に戻る。」


 尚之さんは途中でエレベーターを降りて、別のエレベーターに乗って降りて行ってしまった。せっかく迎えに来てくれたのに、嫌な気分を味合わせてしまったみたいで申し訳ないけど、私は大輝の事しか考えられなかった。早く大輝のとこに行かなくちゃ! 

 尚之さんから素っ気なく渡された夏子のカバンの中には、車のキーが入っていた。私はコンシェルジェに夏子の車の場所を教えてもらった。自分の駐車場の場所を聞くなんて事をしたから、さすがに変な顔をされたけど、事故で軽い記憶障害を起こしていると告げると、コンシェルジェの担当さんは快く案内してくれ、お大事に、とまで言ってくれた。


 案内された先には、夏子らしい真っ赤の派手な外車が停めてあった。車に乗り込みエンジンをかけると、聞き覚えのある声が話しかけてきた。
「菜々子サン、入レ替リ ゴ苦労様デス! オ体、大丈夫デスカ?」
「ナビーーーーーーーーーー!」
急に涙が溢れ出てきた。
「ス、スミマセン、手荒ナ事ヲシテ…。」
「やっぱりこれってあなたの仕業だったの? お願い! 早く元に戻して!」
「ソレハ出来マセン!」
「そんな…。大輝はどうなるの? あの子、私がいなくて独りぼっちなんだよ!」
「大輝サン ハ 大丈夫 デス。心配シナイ… ッテ、チョット、菜々子サン!」
ナビは話にならない。私は勝手に車を走らせた。

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