243 / 262
6 全く性格の違う菜々子と夏子が入れ替わった! 会社は? 夫婦生活は? どうすればいいのよ~!
42 合流
しおりを挟む菜々子は長い間空中を浮遊していた。そして気が付くと、長いトンネルの中を歩いていた。ずっと歩いてゆくと、暗かったトンネルは次第に明るくなり、光が射してきたかと思うと、辺り一面、まるで絵具箱をひっくり返したような鮮やかな空間が広がった。
様々な色の光はゆっくりと動いて、まるで万華鏡の中にいるような気分だった。遠くで鈴が鳴るような心地のいい音が響いている。
「…ここは…どこ?」
そんな訳の分からない空間に独りぼっちでいても、不思議と怖さは感じなかった。しばらくすると、ずっと向こうから車のエンジン音のような音が聞こえてきた。そして、遥か向こうに小さな黒い点が見えた。その黒い点は次第に大きくなって、それは見覚えのある車だった。
そうだ、菜々子が地元の会社で働いている時によく乗っていた社用車だった。誰かが車を運転している。こんな変な空間で? 菜々子は不思議に思いつつ、その車がやって来るのをじっと見ていた。そして車は目の前で止まった。そしてドアがゆっくり開いた。
「自分の体をこうやって見るのって、なんだか変な気分ね…」
車から出てきたのは夏子だった。
「ほんとね…。私って、こんなだったんだ…。」
菜々子は呟いた。
「あんたさ! こんなどころじゃ無かったわよ! 髪は痛んでるし、肌の手入れもロクにしてなかったしさ! 思いっきり垢抜けたの分かるでしょ? どれだけ私が苦労したか!」
夏子は呆れた顔で菜々子に言った。
「…ほんとだ…。キレイになってる…」
菜々子は元の自分の顔や体を改めてジックリと見て驚いた。そして髪を触ってみた。
「すごい! まるでシルクのよう! どうしたの? どうやったらこんなになるの?」
「ヘアサロンでヘッドスパしたりトリートメントしてもらったり…あ、家にあった安物のシャンプーは取り換えたからね!」
「…もしかして…エステとか行った? それでその肌なの?」
「当たり前じゃない? もはや個人でどうこう出来るレベルじゃ無かったわよ!」
「そこまでじゃ無いでしょ! 夏子の求めるレベルが一般人とかけ離れてるのよ!」
菜々子が文句を言うと、夏子は口を尖らせてウンザリした顔で菜々子を見た。
「…そんなに無駄遣いして…貯金出来てるの? 大輝の学費! 大丈夫なの? いや、大丈夫な筈ないよね…今まで私、贅沢なんて出来なかったもん。じゃなかったら貯金なんてとても出来ないもん…。」
菜々子は青ざめた。
「あんたさ、切り詰めるばっかりが良い訳じゃないんだよ! 見た目が良くなったらモチベーションも上がるでしょ! やったろう、って気になるじゃん!」
「でもっ…でもっ…大輝の学費が…」
菜々子は涙目だった。
「…心配しなさんなって! 私だって大輝の事は可愛いし、あの子の為に頑張ったわよ。あの子、めっちゃいい子じゃん!」
「…うん…あの子は…私の…大事な、たった一人の家族だから…ウッ…ウッ…」
「泣くなっ! そんな弱腰でどうすんの! まだまだあの子を守っていかなきゃいけないんでしょ! 強くなりな、菜々子! お金の事なら心配しなくていいわよ! 今期のボーナス、もうすぐ入るから。その額見たら、あんた腰抜かすわよ!」
「…え?」
「あとね、給料も来期から大幅アップするから。」
「…来期って…私、確かリストラされるって…言ってたけど…」
「私がそんなの蹴とばしてやったわよ! リストラどころか、あんた部長に昇進よ!」
「えーーーーーーーーーーーー!」
菜々子は泡を吹いて倒れそうになった。
「あんたの方はどうなってんの? 元の私の状況。」
夏子は菜々子に聞いた。
「…夏子が私として頑張ってくれたみたいな大きな変化なんて…何も無いんだけど…。あ、そうそう! 真帆さんね、付き合っていた男と別れたの。でね、自分の足で立って、遥人君と一緒に生活できるように、今バイトしながらスクールに通っているの。」
「…あのお義義姉さんが? 嘘でしょ! あの人、クズ男に騙される典型的なダメ女じゃん。信じられない…って、もしかしてあんた何かやったの?」
「…そんな大したことやってないんだけど、ナビが真帆さんの付き合っている男の徹底的な証拠を出してくれて、男を呼び出してそれを見せて、二度と現れるなって言ってやったの。」
「…あんたが?」
夏子は信じられないような顔をした。昔の菜々子は気の弱さからガツンと言う事が出来なくて、よく人からいじられるタイプで、たまにそれがエスカレートして虐められる事もあった。実際、会社では菜々子が気づいていないだけで、彼女は同僚から虐められていたのだ。
「自分でも信じられないの。でも…遥人君が大輝と重なって見えちゃって…遥人君を助けなきゃって思って…それで、勇気を振り絞って私頑張ったの!」
「やるじゃん。」
「で、そうしたらね、すっごく気持ち良かった! 今までに感じたこと無い快感を覚えたの! 人生で初体験だったんだ!」
「…変われば変わるもんね…。」
「…でもね、これも、夏子の外見があったから出来たのよ。この顔と体で言われたら、普通の人ならビビリあがるよ!」
「何よそれ! 人を化け物みたいに!」
二人は大笑いした。
「で、お義姉さんは何のスクールに行ってるの?」
「プログラミングスクールに通ってるよ。尚之さんの仕事を手伝いたいんだって。」
「は? 嘘でしょ! あの姉弟、めちゃくちゃ仲悪いのに!」
「やっと和解できたんだ。」
菜々子は思い出しながらしみじみと微笑んだ。そしていつしか悲し気な顔になった。その表情の変化を夏子は見逃さなかった。
「…菜々子…あんたもしかして、尚之に惚れたね!」
「えっ! …何でそんな事…」
「人の旦那を好きになったら不倫だからねっ!」
「ち、違うの、夏子!」
菜々子はほぼ涙目だった。
「って、冗談よ。嘘うそ! どっちみち私たち仮面夫婦で、離婚する予定なんだから。」
夏子は意地悪そうに笑った。菜々子はいろんな感情が心の中でうごめいて、溜息しか出てこなかった。
「菜々子…あんたが羨ましい。」
夏子はボツリの呟いた。
「夏子…私は夏子が羨ましい。」
菜々子もボツリと呟いた。
「私たち…元に戻んなきゃね…」
二人の魂はそれぞれ元の体へ戻っていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
☘ 累計ポイント/ 180万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。
NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。
中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。
しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。
助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。
無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。
だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。
この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。
この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった……
7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか?
NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。
※この作品だけを読まれても普通に面白いです。
関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】
【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる