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6 全く性格の違う菜々子と夏子が入れ替わった! 会社は? 夫婦生活は? どうすればいいのよ~!
43 菜々子
しおりを挟むあの不思議なトンネルの中で夏子に会ってから、私は自分の体に戻って、それから長い間寝ていたようだ。目が覚めると目の前に大輝がいて、心配そうに私の顔を覗き込んでいた。
「…大輝。」
「姉ちゃん! 大丈夫? 俺、心配したよ。」
「私、ずっと寝てたの?」
「丸二日寝続けていたよ!」
「そんなに?」
布団から体を起こして辺りを見回した。そこは豪華で洗練された尚之さんのマンションではなく、長年馴染んだ私の家だった。
え?
二日も寝ていたというのに体が痛くない…。ふと下を見ると、高級低反発マットが敷布団の下に敷いてあった。
「何、これ! よくテレビで見るあれでしょ! あの高いマット! どうしたの、こんなの!」
「姉ちゃん、自分で買っといて…。」
…夏子だ。
私は起き上がって洗面所へ行き顔を洗った。そこでも驚きが!
「ギャー! 何なの~!」
そこには高級海外ブランドの化粧品やヘアケアグッズが大量に並べられてあった。
「覚えて無いの? 一緒に隣町のデパート行って、姉ちゃん大量買いしてたじゃん! 俺、大丈夫なのかなって心配して声かけたら、“何をビビる事があるか、大輝! いい、これは投資なの! 姉ちゃん、毎日会社という戦場で戦ってるのよ! そこではナメられたら終わりなのよ! これはそう…武装! 女にとっての武装なのよ、大輝~!”って、叫んでたでしょ?」
…夏子…。
もはや何か言う気も失せて部屋に戻ろうとしたその時、見たことも無いようなオシャレな入れ物の化粧品を目にした。ナチュラル志向のオーガニック製品のようだ。
「…これ、どこのだろう…。」
手に取って、販売元を見た。そこにはなんとうちの会社の名前が入っていた!
「それ、姉ちゃんがプロデュースしたんだろ? 今、人気だよね。俺も弟として鼻が高いよ。」
「わ、私が!」
「何、とぼけてんの? また記憶障害? その化粧品だけじゃないよ。」
大輝は私をキッチンへ連れて行った。そしてハーブティーやジャム、香辛料、調味料など、オシャレで都会的に洗練されたパッケージの製品が並んでいた。よく見るとそれは以前、社長が見つけてきて製品化したけど全然売れなかった物を、パッケージを変えて販売しているのだと気づいた。
…夏子…すごい…。
私だったらとてもじゃないけどこんな事出来ない…。
私はダイニングの椅子に座り込んで茫然とした。
「会社は? まさか私、無断欠勤とかしてないよね?」
「姉ちゃんが寝てる間、社長さんから連絡あって、ずっと休みも取らないで働き続けてたから、最低一週間くらいはゆっくり休んで下さいって言ってたよ。」
「…そっか。」
夏子、随分と仕事頑張ってくれてたんだな…。
私は布団を畳んで、掃除を始めた。
「あれ? 自分で掃除するの?」
「当たり前でしょ? どうして?」
「だって姉ちゃん、掃除と食事は家事代行頼んでたじゃん。」
「えーーーーーーーーーーーー?」
夏子の所業に、またもや失神しそうになった。
社長の気遣いで一週間休みをもらったけど、何もすることも無く家にいると、夏子だった時の生活が懐かしくて堪らなかった。大輝とまた一緒に暮らせるのは嬉しいけど、遥人君や真帆さんにも会いたい。そして何より、尚之さんに会いたくて堪らなかった。
もう一度尚之さんに会いたい!
私を助けに来てくれた時、あの男から切りつけられた傷は大丈夫だったのだろうか?
あんなに血が流れて…私のせいで…。
気が付くと私は家を飛び出して、駅へ向かったいた。電車を乗り継いで、ついこの間まで住んでいた尚之さんのマンションへ向かった。元に戻った私の姿で彼の前に現れる事は出来ないけど、せめて一目だけでも見る事が出来たら!
マンションの前まで来ると、心臓の鼓動が激しくなって立っていられなくなった。敷地内のベンチに座って深呼吸した。その時、入り口の自動ドアが開いて、尚之さんが出てきた。
尚之さん!
心臓の鼓動はさらに激しくなった。気持ちが溢れかえって、思わず駆け寄りたくなる。しかし、次の瞬間、尚之さんから少し遅れて夏子がやって来た。夏子は嬉しそうな笑みを浮かべて尚之さんに駆け寄った。尚之さんは夏子の方を向いて、優しく微笑みかけた。
そして夏子は尚之さんの腕に自分の腕を絡ませ、二人で嬉しそうに歩いて行った。
幸せそう…。
きっと二人はヨリが戻ったんだ…。
涙が頬を伝った。
祝福してあげなきゃ…。
そう思っているのに、涙は止まらなかった。
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