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4. デート代は男が払うのか否か

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 ドアを開けた瞬間からどす黒く重たい空気が溢れ出てきた。部屋の中はカーテンが閉め切られて真っ暗だった。目が慣れると次第に辺りが見えてきた。

 一番奥の隅に、そのストーカーの霊はいた。真っ黒な影が体操座りをしているのが分かる。その目だけは、ギラギラとこちらを見ていた。

「繁充! おまえ、除霊とか出来るの?」

「…いや…。」

「何だよそれ! だったらお坊さんとか霊能者とか連れてくるべきだろ!」

「だけど俺…こういうの初めてじゃ無いから…。」

「え?」

「とにかく砂原は、あの霊を捕まえててくれる?」

「ハァ? そんなこと俺が出来る訳ないだろ!」

「大丈夫! あの霊は自分が生霊だなんて気付いてないから、布団被せて押えとけば出て来れないよ。」

「そんなもんなのかよ?」
無茶ぶりを言われたにもかかわらず、砂原はベッドの上の布団を取ると、恐る恐る霊に近寄り、上から布団を被せて押えた。

「これでいいの?」

「うん。ありがとう。」
繁充はカーテンを開けた。陽が射し込み、部屋が一気に明るくなった。部屋の中は一階と同じように荒れ果てていた。

 繁充は目を瞑って深呼吸をした。天井から皮がベロリと剥がれるように部屋が二つに分離して床に落ち、剥がれ落ちた部屋のコピーのような物体は小さな一つの塊になった。

「…何なんだよコレ…。」
砂原は引きつった。

「…この部屋が感じた意識みたいな物かな…。前田さん、荒れに荒れまくってたんだな…部屋が悲鳴上げてるよ…。」
繁充は頷きながら塊を観察した。

 しばらくすると、また天井からベロリと剥げて、さらに新しい塊が落ちてきた。今度は物凄い痛みを感じた。心をえぐられるような痛み。

「…繁充…苦しい…それ、何とかならないの?」
砂原は固まりに同調してしまった。

 そうしていると、またベロリと剥げてきた。

「…これは…」
塊から暖かい光が溢れてきた。包まれるような優しさ、まさに紛れも無い愛情が溢れている。

「何? この心地良さ?」
砂原はウットリしている。

「これは…前田さんのお母さんだ。」
繁充は言った。

「こんに愛されてんのに、何であいつあんなになっちゃったんだろ…。」
砂原は呟いた。

「だいたい分かった。これはこのまま前田さんに渡した方が良さそうだな。」
繁充は絵美の母の意識の塊を小さく丸めてポケットの中に入れた。

 そして他の塊は窓からポイポイと外に投げ捨てた。捨てられた塊は陽の光に照らされて次第に色が薄くなり、そして風に漂いながら消えていった。

「この部屋はもう大丈夫みたい。じゃ、今度はこの人だ。」
繁充は砂原が抑えている霊を見つめた。


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