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未来を変える
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「姫様、本日もいつも通りの髪型でよろしいでしょうか?」
病み上がりの私の髪を整えてくれているのは、平民上がりの侍女だ。
一昔前まで王宮勤めといえば、貴族階級の子女のみの行儀見習いの定番であり人気の職だったそうだが、十年前の流行病で人手不足に陥った事で平民も王宮内の仕事に従事できるようになったという経緯がある。
特に身勝手で我儘放題な私の世話役は、もっても三ヶ月と言われており専属侍女などいないに等しい状態だった。
ちなみに侍女の言う"いつも通りの髪型"というのは、私の豊かな金髪を細かく小分けにして縦に大きいロッドをキツくキツく巻いていき、それをさらに熱々のコテで仕上げていく、見事な金髪縦ロールの事である。
「今日は、確かジルコニア卿がいらっしゃる日でしょう?」
「えっ……、あっ、はい。そうですね」
ジルコニア卿とは言っても婚約者のアダマスの方ではなく、彼の双子の弟コークス・ジルコニアのことである。
幼少期に訳あって教会に預けられていたらしく、二年前にアダマスが騎士団長として就任したと同時に、彼の身の回りの世話をするために還俗し、ジルコニア家の次期公爵夫人となる予定の私の教育係としても働いてくれている。
聖職服に身を包み眼鏡をかけているが騎士の家系出身のせいか、下手な騎士よりも体格は大きい。
そして、何を隠そうこのゲームの闇堕ちラスボスでもある。
私の役回りは闇堕ちしたコークスが"受け"であるオパールに数々の嫌がらせや試練を仕組んでいくのだが、プレイヤーの疑いの目をコークスから逸らしミスリードを誘う、言わば小物王女なのである。
アダマスへの盲目的な愛をコークスにつけこまれ、全ての罪をなすりつけられる哀れなピエロなのだ。
全体的なシナリオやゲームシステムの出来がイマイチだった事もあり、レビューサイトが凄まじく荒れていたことを覚えている。
……とはいっても、今のところコークスは闇堕ちする様子もなく、その実直で堅実な性格とアダマスの弟というアドバンテージも加わり、王室からも騎士団からも信頼が厚い。
普段は排他的である高位な教会関係者との人脈も多数あるようで、考えてみれば数いる王族の末端の私よりも、よっぽど影響力の強い人物として君臨しているのだ。
コークスは攻略可能なキャラではないので、オパールの魅力に惑わされていつ寝返るかわからない人を頼るよりも信頼できる……かもしれない。
「今日は、毛先をゆるく巻く程度にしてちょうだい。香水もなるべく抑えめにして。じゃないと、卿がいらした瞬間にまた鼻をつままれてしまうわ」
本気とも冗談ともつかない私の言葉に、侍女は一瞬言葉を詰まらせた後、まるで何も聞こえていなかったかのようにスルーして私の髪型を整えてくれた。
「ところで、アダマス様は私の病気の事はご存知だったのかしら?」
「は、はい。姫様が昏睡状態になっている旨も、併せて伝えている……はずですが」
死にかけている婚約者に対して面会しろとまでは言わないまでも、見舞いの品も手紙も無しとか、シンプルに人としてどうなのか。
私はため息をひとつ吐いて、状況を頭の中で整理する。
前世の記憶が戻っただけなので、今までの自分がしてきた所業はすべて覚えている。思い返せば震える出来事も多いが、後悔してももう遅い。過去は変える事ができない。
──だが、未来はまだ変えられる。
「そこの貴女……コーラル、だったかしら。執事長に伝えて欲しい事があるの」
「──は、はいっ!!」
ついに叱責が来たとばかりに、コーラルの肩がびくりと跳ねた。
「クローゼットの中にあるドレスと靴、戴き物の大事な宝石以外を、貴女とこれまで私に仕えてくれてた者達に下賜するわ。売って報奨の代わりにでもなさい」
「はっ?! で、ですが……」
「代わりに、クローゼットの奥に眠っている詰襟のドレス数着と、踵の低い動きやすい靴を数点用意してくださる?」
そう言った私の顔をしばらくポカンと見つめたコーラルは、慌てて私の熱を測り直して執事長どころか王宮侍医まで呼んできて私の容態を確認させたのだった。
病み上がりの私の髪を整えてくれているのは、平民上がりの侍女だ。
一昔前まで王宮勤めといえば、貴族階級の子女のみの行儀見習いの定番であり人気の職だったそうだが、十年前の流行病で人手不足に陥った事で平民も王宮内の仕事に従事できるようになったという経緯がある。
特に身勝手で我儘放題な私の世話役は、もっても三ヶ月と言われており専属侍女などいないに等しい状態だった。
ちなみに侍女の言う"いつも通りの髪型"というのは、私の豊かな金髪を細かく小分けにして縦に大きいロッドをキツくキツく巻いていき、それをさらに熱々のコテで仕上げていく、見事な金髪縦ロールの事である。
「今日は、確かジルコニア卿がいらっしゃる日でしょう?」
「えっ……、あっ、はい。そうですね」
ジルコニア卿とは言っても婚約者のアダマスの方ではなく、彼の双子の弟コークス・ジルコニアのことである。
幼少期に訳あって教会に預けられていたらしく、二年前にアダマスが騎士団長として就任したと同時に、彼の身の回りの世話をするために還俗し、ジルコニア家の次期公爵夫人となる予定の私の教育係としても働いてくれている。
聖職服に身を包み眼鏡をかけているが騎士の家系出身のせいか、下手な騎士よりも体格は大きい。
そして、何を隠そうこのゲームの闇堕ちラスボスでもある。
私の役回りは闇堕ちしたコークスが"受け"であるオパールに数々の嫌がらせや試練を仕組んでいくのだが、プレイヤーの疑いの目をコークスから逸らしミスリードを誘う、言わば小物王女なのである。
アダマスへの盲目的な愛をコークスにつけこまれ、全ての罪をなすりつけられる哀れなピエロなのだ。
全体的なシナリオやゲームシステムの出来がイマイチだった事もあり、レビューサイトが凄まじく荒れていたことを覚えている。
……とはいっても、今のところコークスは闇堕ちする様子もなく、その実直で堅実な性格とアダマスの弟というアドバンテージも加わり、王室からも騎士団からも信頼が厚い。
普段は排他的である高位な教会関係者との人脈も多数あるようで、考えてみれば数いる王族の末端の私よりも、よっぽど影響力の強い人物として君臨しているのだ。
コークスは攻略可能なキャラではないので、オパールの魅力に惑わされていつ寝返るかわからない人を頼るよりも信頼できる……かもしれない。
「今日は、毛先をゆるく巻く程度にしてちょうだい。香水もなるべく抑えめにして。じゃないと、卿がいらした瞬間にまた鼻をつままれてしまうわ」
本気とも冗談ともつかない私の言葉に、侍女は一瞬言葉を詰まらせた後、まるで何も聞こえていなかったかのようにスルーして私の髪型を整えてくれた。
「ところで、アダマス様は私の病気の事はご存知だったのかしら?」
「は、はい。姫様が昏睡状態になっている旨も、併せて伝えている……はずですが」
死にかけている婚約者に対して面会しろとまでは言わないまでも、見舞いの品も手紙も無しとか、シンプルに人としてどうなのか。
私はため息をひとつ吐いて、状況を頭の中で整理する。
前世の記憶が戻っただけなので、今までの自分がしてきた所業はすべて覚えている。思い返せば震える出来事も多いが、後悔してももう遅い。過去は変える事ができない。
──だが、未来はまだ変えられる。
「そこの貴女……コーラル、だったかしら。執事長に伝えて欲しい事があるの」
「──は、はいっ!!」
ついに叱責が来たとばかりに、コーラルの肩がびくりと跳ねた。
「クローゼットの中にあるドレスと靴、戴き物の大事な宝石以外を、貴女とこれまで私に仕えてくれてた者達に下賜するわ。売って報奨の代わりにでもなさい」
「はっ?! で、ですが……」
「代わりに、クローゼットの奥に眠っている詰襟のドレス数着と、踵の低い動きやすい靴を数点用意してくださる?」
そう言った私の顔をしばらくポカンと見つめたコーラルは、慌てて私の熱を測り直して執事長どころか王宮侍医まで呼んできて私の容態を確認させたのだった。
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