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第1章 2年時 ーショーン編ー

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「あれ、何かおかしい?」

今日は二年生進級時に受けた実力試験の結果が張り出される日だ。少し人が減ったころを見計らってショーンも結果を見に来た。
結果は2位だ。自慢ではないが、ショーンの成績は良い。…友達がいないから勉強しかすることがないのだ。

魔法学園の排他的な空気に嫌気がさして退学も考えたが…あれ、これ説明した気がする。


ショーンは再び成績表に目を戻した。せっかくだし、じっくりと上位の名前を見ることにする。いつもなら自分の名前だけ確認してさっさと離れるのだが、今日はそうした方がいい気がした。


1位はハロルド・フィリウス。ショーンも知っている。貴族・フィリウス家の一人息子で幼いころから神童と噂されていた、天才である。1組の生徒だ。ちなみにショーンは2組である。

3位はザラ・ウォー。ウォー家は狼獣人の一族である。しかし、ザラという名前は当主の息子たちの名前にはない。分家筋だろうか。彼は2組でショーンともクラスメイトだが、いつも人を寄せ付けず、一人でいることが多い。人が寄ってこないショーンとは違う種類のボッチである。


上から名前を追っていくと7位にノエル・ボルトンの名があった。彼女はショーンの同級生一番の有名人である。非魔法族の両親から生まれた魔力もちの少女だ。ショーンも何度か遠巻きに見たことがあるが、貴族と言われても驚かないほど小柄で可愛らしい見た目をしている。
…そのため、異端な見た目のショーンのことを非魔法族の親の子と勘違いする上級生もいるぐらいだ。彼女は1組であるので、ショーンも話したことはない。…大半の生徒と話したことはない。


ついでに三年生の成績を見ると、いつもショーンをいじめる男子生徒の名前が下の方にあった。三年生進級時の成績は四年生での専門課程進学時のコース選択に大きく影響してくる。これはもしかしたら不機嫌になっているかもしれない。気を付けよう。


「ねえねえ、君。ちょっと私とお話ししない?」

ふと横を見て下を見る。

くせ毛でふわふわしたブロンドにきらきらした青い目の美少女がショーンを見上げていた。今年から導入された黒いカーディガンを制服の上に着て、前髪をピンでとめたおしゃれな少女だった。
同級生一番の有名人だから、もちろんショーンも見た目だけで誰なのかがわかった。

「ノエル・ボルトン?」

「私のこと知ってるの?何年生?」

逆にショーンほど目立つ同級生を把握していないことに驚きである。

「二年生だよ。同級生だ。」

「そうだったの!?2組?3組?」

「2組。…何か用?」

ちょっとぶっきらぼうな言い方になってしまったが、同級生と話ができてうれしい。

「今、1組のみんなでかくれんぼしてるの。最後まで一人でも生き残ったら、鬼チームの昼食のデザートがもらえるの。」

「…かくれんぼ?1組のみんな、で?」

クラスメイトと言っても様々なバックグラウンドを持つ学生がいる。特に貴族と獣人は仲が悪い。各クラスにまんべんなく配置されているはずだが、本当にみんななのだろうか。

「鬼チームは貴族ばかりなの。個室の子もいるから、きっと豪華なデザートが手に入るわ!」

「それで、なんで僕と話を。」

「かくれんぼ中の人が道の真ん中で話しているなんて誰も思わないでしょう?人を隠すなら人の中よ。歩きながらしゃべりましょう?」

自分と歩いていたらきっと目立ってしまう、とはショーンは言えなかった。同級生としゃべれることが楽しかったから。


「と言ってもあと、3分でタイムアウトなの。だからもしどこかに行く予定なら道すがらでいいわ。」

ノエルは可愛らしく笑顔を向けてくれる。友人もいなくやさぐれていたショーンには笑顔がしみた。

「いや、特にどこにも行く予定はなかったよ。午後の授業の予習に図書館かな?」

「真面目なのね。」

二人が連れ立って歩いているとすれ違う人が驚いたような顔で二人を見ていく。…僕が誰かと一緒に歩いているのが珍しいのだろう。

「ノーエル、みーつけた!!」

背後からすごい勢いで駆け寄ってくる足音。ノエルがげっという顔で振り返ると、駆け寄ってきた男子学生はノエルの手首をつかみ上へと掲げる。ピという音とともに現在時刻を表す数字が表れる。

「11時59分!鬼チームの勝ち!」

「え、みんな捕まったの?」

「僕が本気を出せば、君以外は秒速だよ。まずいと思ったけど、まさか”黒い巨塔”とおしゃべりしながら移動してくれちゃうなんて。そんなことする人、この学園には君しかいないよ。」

”黒い巨塔”?
ノエルは驚いてショーンを見る。

「君が噂の”黒い巨塔”だったの?あの、言葉を交わすと魂を抜かれるっていう?」

「…な、なにそれ?」

「コレットが言ってたの。ほら彼女、学園新聞のオカルト欄担当しているから、そういう情報収集に余念がないの。ガセだったのね。私は平気だし。」

「ガセに決まってるじゃん。ショーン・ロバートだろ?ロバート商会会長の孫の。母親の血を引いて肌が浅黒くて背が高いだけのただの男子学生だよ。」

そう言う男子学生の顔をここでショーンは真面目に見た。明るい茶髪に茶色の目。天才、ハロルド・フィリウスである。

「さあ、ランチに行こう!デザートは僕のだよ!」

ノエルがえーっという顔をしていて面白かった。
…楽しい会話もここで終わりか。

「君も一緒にランチに行く?そういえば名前聞いてなかったわ。ショーンって呼んでいい?」

ノエルは気前よくショーンをランチに誘ってくれた。




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