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第2章 1年時 ーハロルド編ー
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捕まえたモーリーンはユージーン先生によって職員室に連行され、ハロルドの得たデータとユージーン先生の経験をもとに事件の全貌が明らかとなった。
おそらくモーリーンは誰かの歌声につられて魔法学園へと侵入したのだろう。綺麗な歌声に嫉妬した精霊が墜ちて生まれた魔物…、つまり嫉妬するほど綺麗な歌声の持ち主だけが歌声を失う被害にあったのだろう。
今回、ノエルの歌声がお眼鏡にかない、モーリーンが現れた。
「しかし、やはり生徒を囮にするというやり方は賛成できません。今回、その女子学生が無事だったからよかったものを。」
僕ら1組の担任のミネルバ先生がしかめっ面でユージーン先生に苦言を呈す。
「おっしゃる通りです。今回、勝手に行動されるよりはと思い、監督の下で捕獲作戦に臨みましたが…危ない部分があったのも事実です。反省しております。」
実際、ハロルドもユージーン先生もノエルのまさかの歌声に聞き惚れてしまい、あわやモーリーンがノエルの歌声を奪うところだった。
「歌声を奪われても、日常生活に戻れる可能性があるのは朗報です。早速発生の練習をしてみましょう。」
校医の先生は会議を終えるといそいそと保健室へ戻っていった。話題は自然とモーリーンを引き寄せた歌の話になる。
「それにしても素晴らしい歌声でしたな。」
「ええ。まるで隣国のブルーローズのような…。私は一度生であの歌を聞いたことがありますのよ。」
”隣国のブルーローズ”とは、ルクレツェンの隣国オールディを代々守る大聖女のことだ。
オールディには魔力の強い魔法族はほとんどいないが、代わりに聖女たちが邪が寄ってこないように祈りの結界によって国を守っているのだ。
ブルーローズとは聖女の中でも最も力の強い大聖女に受け継がれる名称であり、その由来は大聖女たちの宝石のように美しい青い瞳にある。
夏になるとオールディの建国祭があり、大聖女が歌により国民の幸せを祈願するのだ。ルクレツェンの貴族たちにも人気の観光イベントである。
「いったい、誰があの歌を?」
「それは内緒です。」
そう、あの後ちょっとした大騒ぎになってしまい、ノエルは魔法学園では歌声を隠すことに決めたのだ。
ーーーー
「一面があの幻の歌姫の話題ね。」
月に二度発行される魔法学園新聞。一面では教員たちによるモーリーン捕獲作戦とその際におとりとなった歌姫の正体に関する考察だった。
「『学園に突如響き渡った美声。その歌声は鳥のように美しくありながらも自然の力強さを感じさせ、拡声器を通していながら学園中の人々を魅了した。』すごかったものね。」
裏生徒会の”どこでも部屋”で新聞記事を読み上げながらティナは言った。
「正体はどうやらバレていないようね。」
「久しぶりに思い切り歌えると思ったら、盛り上がっちゃった。」
ノエルがてへぺろとでも言うように小首を傾げた。
「でも、歌声で有名になるのは私も嫌だから、今後魔法学園ではあんまり歌わないことにするわ。」
「もったいない気もするけど、仕方ないわね。コーラス部が活動再開するみたいだけど、所属するのもやめるの?」
「うん。実は、新しいクラブを立ち上げようと思うの。」
カーディガン活動の次は新しいクラブの設立…、ノエルは活動的である。ちなみにカーディガン活動は見事に身を結び、来年度からカーディガンの導入が決まった。デザインもコレットの案をベースにしたもので、本当に黒と白の二色が用意されるらしい。
急ピッチな導入にはロバート商会という有名な商会の服飾部門が関わっているとか。
「冒険クラブっていう冒険者の活動体験をするクラブなの。顧問はユージーン先生で、毎回の活動に参加できる部員を5人集めたら、正式なクラブとして認めてもらえるらしいから、ぜひ。」
「え、すごい楽しそう。」
「俺も興味ある。」
ハロルドとシャーリーの加入が決まった。ノエルはザラの方を見るが、ザラは少し残念そうに首を横に振った。
「獣術部は兼部不可だから。」
獣術部とは獣人特有の獣化の術を鍛えるクラブだ。ちなみに当主家に近い血筋の獣人たちは皆このクラブに所属することが半ば義務付けられている。
貴族たちにも獣人を見下す者は多いが、獣人側も貴族と馴れ合うつもりがない。
「お家の事情だもんね…。しょうがないわ。それにザラは運動神経がすごくいいし、冒険クラブは結構体を鍛えるのも大事って言われたから、ザラにはつまらないかも。
モーリーンから助けてくれた時、すごくかっこよかったよ。」
ザラは嬉しそうな、ノエルにしか見せない顔をして、頷いた。ノエルもちょっと照れている。…なんだこれ。僕も体鍛えよう。
「じゃあ、ハロルドとシャーリーは今度一緒にユージーン先生のところに行って活動内容を相談しよう!」
気づけばノエルはハロルドのことを愛称で呼んでくれなくなっていた。ザラの気持ちに忖度したのか…。
く、くやしい!でも僕は負けない!僕の方がノエルと仲良くなってみせる!
ハロルドが自分のノエルへの感情に名前をつけるのはまだ先のこと。
おそらくモーリーンは誰かの歌声につられて魔法学園へと侵入したのだろう。綺麗な歌声に嫉妬した精霊が墜ちて生まれた魔物…、つまり嫉妬するほど綺麗な歌声の持ち主だけが歌声を失う被害にあったのだろう。
今回、ノエルの歌声がお眼鏡にかない、モーリーンが現れた。
「しかし、やはり生徒を囮にするというやり方は賛成できません。今回、その女子学生が無事だったからよかったものを。」
僕ら1組の担任のミネルバ先生がしかめっ面でユージーン先生に苦言を呈す。
「おっしゃる通りです。今回、勝手に行動されるよりはと思い、監督の下で捕獲作戦に臨みましたが…危ない部分があったのも事実です。反省しております。」
実際、ハロルドもユージーン先生もノエルのまさかの歌声に聞き惚れてしまい、あわやモーリーンがノエルの歌声を奪うところだった。
「歌声を奪われても、日常生活に戻れる可能性があるのは朗報です。早速発生の練習をしてみましょう。」
校医の先生は会議を終えるといそいそと保健室へ戻っていった。話題は自然とモーリーンを引き寄せた歌の話になる。
「それにしても素晴らしい歌声でしたな。」
「ええ。まるで隣国のブルーローズのような…。私は一度生であの歌を聞いたことがありますのよ。」
”隣国のブルーローズ”とは、ルクレツェンの隣国オールディを代々守る大聖女のことだ。
オールディには魔力の強い魔法族はほとんどいないが、代わりに聖女たちが邪が寄ってこないように祈りの結界によって国を守っているのだ。
ブルーローズとは聖女の中でも最も力の強い大聖女に受け継がれる名称であり、その由来は大聖女たちの宝石のように美しい青い瞳にある。
夏になるとオールディの建国祭があり、大聖女が歌により国民の幸せを祈願するのだ。ルクレツェンの貴族たちにも人気の観光イベントである。
「いったい、誰があの歌を?」
「それは内緒です。」
そう、あの後ちょっとした大騒ぎになってしまい、ノエルは魔法学園では歌声を隠すことに決めたのだ。
ーーーー
「一面があの幻の歌姫の話題ね。」
月に二度発行される魔法学園新聞。一面では教員たちによるモーリーン捕獲作戦とその際におとりとなった歌姫の正体に関する考察だった。
「『学園に突如響き渡った美声。その歌声は鳥のように美しくありながらも自然の力強さを感じさせ、拡声器を通していながら学園中の人々を魅了した。』すごかったものね。」
裏生徒会の”どこでも部屋”で新聞記事を読み上げながらティナは言った。
「正体はどうやらバレていないようね。」
「久しぶりに思い切り歌えると思ったら、盛り上がっちゃった。」
ノエルがてへぺろとでも言うように小首を傾げた。
「でも、歌声で有名になるのは私も嫌だから、今後魔法学園ではあんまり歌わないことにするわ。」
「もったいない気もするけど、仕方ないわね。コーラス部が活動再開するみたいだけど、所属するのもやめるの?」
「うん。実は、新しいクラブを立ち上げようと思うの。」
カーディガン活動の次は新しいクラブの設立…、ノエルは活動的である。ちなみにカーディガン活動は見事に身を結び、来年度からカーディガンの導入が決まった。デザインもコレットの案をベースにしたもので、本当に黒と白の二色が用意されるらしい。
急ピッチな導入にはロバート商会という有名な商会の服飾部門が関わっているとか。
「冒険クラブっていう冒険者の活動体験をするクラブなの。顧問はユージーン先生で、毎回の活動に参加できる部員を5人集めたら、正式なクラブとして認めてもらえるらしいから、ぜひ。」
「え、すごい楽しそう。」
「俺も興味ある。」
ハロルドとシャーリーの加入が決まった。ノエルはザラの方を見るが、ザラは少し残念そうに首を横に振った。
「獣術部は兼部不可だから。」
獣術部とは獣人特有の獣化の術を鍛えるクラブだ。ちなみに当主家に近い血筋の獣人たちは皆このクラブに所属することが半ば義務付けられている。
貴族たちにも獣人を見下す者は多いが、獣人側も貴族と馴れ合うつもりがない。
「お家の事情だもんね…。しょうがないわ。それにザラは運動神経がすごくいいし、冒険クラブは結構体を鍛えるのも大事って言われたから、ザラにはつまらないかも。
モーリーンから助けてくれた時、すごくかっこよかったよ。」
ザラは嬉しそうな、ノエルにしか見せない顔をして、頷いた。ノエルもちょっと照れている。…なんだこれ。僕も体鍛えよう。
「じゃあ、ハロルドとシャーリーは今度一緒にユージーン先生のところに行って活動内容を相談しよう!」
気づけばノエルはハロルドのことを愛称で呼んでくれなくなっていた。ザラの気持ちに忖度したのか…。
く、くやしい!でも僕は負けない!僕の方がノエルと仲良くなってみせる!
ハロルドが自分のノエルへの感情に名前をつけるのはまだ先のこと。
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