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第4章 4年時 ーザラ編ー
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裏生徒会の部室を飛び出したザラは校庭をトボトボと歩いていた。これはノエルのためなんだ。なんでわかってくれないんだ。全部ハロルドのせいだ。なんて思いが頭をぐるぐるとめぐる。
頭の片隅では、今すぐに戻ってノエルに謝るべきだとも思った。このままじゃノエルと別れることになる。それもわかっているが、どうしても自分が間違っていると認めることができなかった。
ハロルドがノエルに喋ったから。おもわずハロルドの秘密を口走った時のノエルの顔が忘れられなかった。…全部ハロルドの仕組んだことなんじゃないか?
その後は八つ当たりで突っ走った。
ーーーー
まず、新聞部員の何人かに闇魔法をかけた。
闇魔法は精神に関与する魔法が多い。今回かけたのは相手にとある考えを信じ込ませる魔法で、効果は長くはないが、一時の暴動や事件を起こすだけなら十分な魔法だ。
「君はすぐにみんなに知らせなければいけないスクープをつかんだ。」
「…僕はすぐにみんなに知らせなければいけないスクープをつかんだ…。」
「急いで号外を作る。」
「…僕は急いで号外を作る…。」
こうして、意識の操作を行ったザラは新聞部員たちにハロルドの出自をつかませた。新聞部員たちはわーわー言いながら部室に駆け込み号外を作り上げ、翌朝には学校中にばらまかれ…なかった。
ーーーー
いつもと変わりない学園の姿にザラは首を傾げた。魔法が上手くかからなかったのか?それとも発行する前に魔法にかかっていない誰かに止められた?
ノエルとよくデートした学園の敷地内の湖の畔に座り込みながらザラは呆然としていた。
…でも、失敗してよかったかもしれない。成功していたら、ノエルに本当に嫌われていた。
ちょっと気力を取り戻した時、ガサガサという音がして振り返ると険しい顔をしたノエルが立っていた。昨日のこと謝らなきゃ…でも、あまりにもノエルの顔が険しくて、何も言えなかった。
ノエルはザラの目の前まで歩いてくると、一枚の新聞のような紙切れをザラに突き付けた。
そこには、”ハロルド・フィリウスの秘密!禁断の人体改造魔法!”とでかでかと書かれていた。思わず目を瞠る。これは、ザラが今日学園中にばらまいてやろうと思っていた号外なのではないだろうか。
なぜ、これをノエルが持っているんだろう。まさか、ノエルが止めたのか?
「こ、これは?」
「あなたがハロルドを貶めようとして作った号外よ!」
「お、俺は…。」
「闇の魔法で操られた新聞部員たちも会ったわ。」
ノエルは憎々し気に号外を睨みつける。
「どうして、気づいたんだ?」
「これがばらまかれた日から、時の精霊のビビの力を使って戻ってきたのよ。これがばらまかれてハロルドがみんなに遠巻きにされるところも見てきたわ。
なんでそんなにハロルドのことを目の敵にするの?」
時の精霊…。ショーンが契約してるあいつか…。でも、契約者じゃないノエルを連れて時間を巻き戻すなんて、相当な魔力を使う。今頃魔力切れでへばっているんじゃないだろうか。
いや、今はそこじゃない。
「ザラが実力主義の集会に参加してたこと、ハロルドから聞いたんじゃないよ。ハロルドは私に何も言わなかった。コレットから聞いたの。ルームメイトで獣人の。
『ウォー家の同級生三人はみんな実力主義の集会とその後の暴動に参加している』って。あなたのやったことは、ただの八つ当たりよ!」
「ノエル…。」
「ねえ、ザラ、本当に実力主義は私のためだって思って集会に参加してたの?」
後から思えば、これが仲直りの最後のチャンスだったのだろう。
「実力主義は俺たちに必要だ。ノエルも、実力主義が広まれば、俺の言ってたことが正しいってわかるさ。」
ノエルは眉間にしわを寄せてザラを見つめた。号外をくしゃくしゃに握りしめた。
「実力主義のためだったらおばさんを殺せる?」
ザラがハッとして目を見開いたのと、眉間にノエルの投げたくしゃくしゃに丸められた号外の球があたったのは同時だった。
「さよなら、ザラ。」
そのままノエルは足早にその場を去っていった。
「ザラ・ウォー!!」
反対の茂みからハロルドが飛び出してくる。
「なんで謝らなかったんだよ!ノエルは君のために、未然に防ぐ形になるように解決したんだぞ!君が後悔しないようにって…お前のためだったのに…。」
ハロルドにノエルのことをよくわかってるという風に話をされるのは不快だった。
「実力主義だってノエルのためなんだ!今はわからないかもしれないけど…!」
「なんで君、ノエルのためノエルのためって言って一切ノエルに相談しないんだ?反対されるってわかってるからだろう?ノエルが喜ばないってわかってるから全部秘密にしようとしたんだろう?」
ザラは言葉につまる。
ハロルドも眉間にしわを寄せてハロルドを一瞥するとその場を去っていった。
ーーーー
その日から、ザラは裏生徒会に行くことをやめた。ノエルから避けられてしまえば、ザラがノエルと話す機会は全くなかった。ただ多少授業で見かけることがあるぐらい。
夏休みには何度も実力主義の集会に参加した。むしろこれまで半ば連行されるように参加していたのが積極的に参加するようになった。
実力主義が唯一の正解で正しい未来なのだと。実力主義が広まればノエルは自分のところに帰ってくるのだと。自分に言い聞かせて。
頭の片隅では、今すぐに戻ってノエルに謝るべきだとも思った。このままじゃノエルと別れることになる。それもわかっているが、どうしても自分が間違っていると認めることができなかった。
ハロルドがノエルに喋ったから。おもわずハロルドの秘密を口走った時のノエルの顔が忘れられなかった。…全部ハロルドの仕組んだことなんじゃないか?
その後は八つ当たりで突っ走った。
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まず、新聞部員の何人かに闇魔法をかけた。
闇魔法は精神に関与する魔法が多い。今回かけたのは相手にとある考えを信じ込ませる魔法で、効果は長くはないが、一時の暴動や事件を起こすだけなら十分な魔法だ。
「君はすぐにみんなに知らせなければいけないスクープをつかんだ。」
「…僕はすぐにみんなに知らせなければいけないスクープをつかんだ…。」
「急いで号外を作る。」
「…僕は急いで号外を作る…。」
こうして、意識の操作を行ったザラは新聞部員たちにハロルドの出自をつかませた。新聞部員たちはわーわー言いながら部室に駆け込み号外を作り上げ、翌朝には学校中にばらまかれ…なかった。
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いつもと変わりない学園の姿にザラは首を傾げた。魔法が上手くかからなかったのか?それとも発行する前に魔法にかかっていない誰かに止められた?
ノエルとよくデートした学園の敷地内の湖の畔に座り込みながらザラは呆然としていた。
…でも、失敗してよかったかもしれない。成功していたら、ノエルに本当に嫌われていた。
ちょっと気力を取り戻した時、ガサガサという音がして振り返ると険しい顔をしたノエルが立っていた。昨日のこと謝らなきゃ…でも、あまりにもノエルの顔が険しくて、何も言えなかった。
ノエルはザラの目の前まで歩いてくると、一枚の新聞のような紙切れをザラに突き付けた。
そこには、”ハロルド・フィリウスの秘密!禁断の人体改造魔法!”とでかでかと書かれていた。思わず目を瞠る。これは、ザラが今日学園中にばらまいてやろうと思っていた号外なのではないだろうか。
なぜ、これをノエルが持っているんだろう。まさか、ノエルが止めたのか?
「こ、これは?」
「あなたがハロルドを貶めようとして作った号外よ!」
「お、俺は…。」
「闇の魔法で操られた新聞部員たちも会ったわ。」
ノエルは憎々し気に号外を睨みつける。
「どうして、気づいたんだ?」
「これがばらまかれた日から、時の精霊のビビの力を使って戻ってきたのよ。これがばらまかれてハロルドがみんなに遠巻きにされるところも見てきたわ。
なんでそんなにハロルドのことを目の敵にするの?」
時の精霊…。ショーンが契約してるあいつか…。でも、契約者じゃないノエルを連れて時間を巻き戻すなんて、相当な魔力を使う。今頃魔力切れでへばっているんじゃないだろうか。
いや、今はそこじゃない。
「ザラが実力主義の集会に参加してたこと、ハロルドから聞いたんじゃないよ。ハロルドは私に何も言わなかった。コレットから聞いたの。ルームメイトで獣人の。
『ウォー家の同級生三人はみんな実力主義の集会とその後の暴動に参加している』って。あなたのやったことは、ただの八つ当たりよ!」
「ノエル…。」
「ねえ、ザラ、本当に実力主義は私のためだって思って集会に参加してたの?」
後から思えば、これが仲直りの最後のチャンスだったのだろう。
「実力主義は俺たちに必要だ。ノエルも、実力主義が広まれば、俺の言ってたことが正しいってわかるさ。」
ノエルは眉間にしわを寄せてザラを見つめた。号外をくしゃくしゃに握りしめた。
「実力主義のためだったらおばさんを殺せる?」
ザラがハッとして目を見開いたのと、眉間にノエルの投げたくしゃくしゃに丸められた号外の球があたったのは同時だった。
「さよなら、ザラ。」
そのままノエルは足早にその場を去っていった。
「ザラ・ウォー!!」
反対の茂みからハロルドが飛び出してくる。
「なんで謝らなかったんだよ!ノエルは君のために、未然に防ぐ形になるように解決したんだぞ!君が後悔しないようにって…お前のためだったのに…。」
ハロルドにノエルのことをよくわかってるという風に話をされるのは不快だった。
「実力主義だってノエルのためなんだ!今はわからないかもしれないけど…!」
「なんで君、ノエルのためノエルのためって言って一切ノエルに相談しないんだ?反対されるってわかってるからだろう?ノエルが喜ばないってわかってるから全部秘密にしようとしたんだろう?」
ザラは言葉につまる。
ハロルドも眉間にしわを寄せてハロルドを一瞥するとその場を去っていった。
ーーーー
その日から、ザラは裏生徒会に行くことをやめた。ノエルから避けられてしまえば、ザラがノエルと話す機会は全くなかった。ただ多少授業で見かけることがあるぐらい。
夏休みには何度も実力主義の集会に参加した。むしろこれまで半ば連行されるように参加していたのが積極的に参加するようになった。
実力主義が唯一の正解で正しい未来なのだと。実力主義が広まればノエルは自分のところに帰ってくるのだと。自分に言い聞かせて。
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