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第5章 5年時 ーシャーリー編ー

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シャーリーが風魔法による突風で学生たちを弾き飛ばすことを考えたが、あの爆弾が風魔法との接触により起爆してしまえば、学生たちの命はない。
そう思い、逡巡している時だった。

ストンと音も少なく、何者かがシャーリーの隣に立った。驚いて見上げれば、研究所の鎮火作業の助っ人に行ったはずのハロルドである。

ハロルドは迷うことなく学生たちに向かって手をかざし…。


ボコッ。


と、足元に小さな土の山を出現させ、学生たちの足を引っかけた。学生たちはこちらまで5mというところで手に爆弾を持ったまま、こけた。
爆弾は地面に打ち付けられ、その衝撃で…。


ボドドドンッ。


と爆発し、慌ててシャーリーは顔を伏せた。…ボドドドン?…それに何か水滴が飛んできた?

顔をあげて見ればすべての爆弾が水球に覆われており、その中で爆発した様だ。水による即時鎮火により被害は最小限に抑えられている。

学生のそばにはノエルが立っており、手から光を出して気絶しかけている学生たちに魔法をかけている。…あれは、光魔法か?



「ティナ大丈夫?マックスは?」

「私は大丈夫。マックスはちょっと擦り傷があるみたい。」

ハロルドとティナの声に振り返れば、ぴんぴんしているティナと、呆然とした表情でティナを守るように抱きしめているマックスが目に入った。
マックスの綺麗な顔には土壁の残骸がかすめたのか、切り傷が見られた。

「あの学生たち、ノエルによれば闇魔法で操られている状態みたいなんだ。」

ティナは眉をひそめた。

「今学園内で闇魔法が使えるのは狼獣人一族ウォー家の子息だけよ。ウォー家は『魔王』との関連が深い可能性があるから、その動向は常に見張られているし、まず学園に入ってこれないから、学園にいる子供たちの犯行かもしれないわね。」

「ノエルが解呪するから、魔法警察を呼べば、術者の追跡魔法が使えるかもしれない。ユージーン先生、呼べますか?」

「もう呼んである。」

ユージーンは自分の頭の怪我を自分で治癒しながら頷いた。

「それに、術者はこの近辺にいる可能性も高い。手遅れかもしれないけど、魔法学園と研究所の移動を止めた方がいい。」

「それについては簡単にできるわ。」

ティナが自身を拘束するマックスの腕を叩きながら言う。

「研究所の所長室に魔法学園と研究所の敷地間の移動を封じるシステムがあるはずよ。…もう、マックス、いい加減にしっかりしてちょうだい!」



ーーーー



何でそんなこと知ってるんだろうというティナに続いて所長室に向かい、システムを起動させ、大惨事の研究所横の広場へと出てきた。

そこには魔法警察が到着しており、濃紺の制服姿の警官たちが現場調査をしていた。

「光魔法で解呪してくださったのはあなたですね。助かります。こちらの魔力保存器に解呪した魔力を入れていただけますか?」

魔力保存器とは魔法の痕跡を保存する器である。闇魔法の厄介な点は術者が解呪をすると痕跡が残らず、光魔法での解呪が魔法の痕跡を残す唯一の方法なのだ。

ノエルがなにやらごそごそと器を持って作業をしている。こうして残した痕跡と、容疑者の魔力を照合することで証拠の一つとするのだ。

「こちらの学生たちの身元が分かる人はいますか?」

研究所を襲撃した学生たちは一応拘束されて地面に転がされている。全員気絶しているようだ。

「僕、わかります。全学生を把握しているので。」

ハロルドがしれっと信じられないことを言って、捜査協力している。ハロルドによれば学生たちは皆獣人一族に縁がある3年生であるそうだ。内二人は猫獣人のレオン家の者でもう一人は熊獣人のデイビー家の者らしい。
犯人の目的は判然としないが、もし狙っていたのがマックスで、王位継承権を持つものを葬ることが目的なのだとしたら、『魔王』の一派の仕業である可能性が高い。
レオン家とデイビー家は表立って実力主義を支持してはおらず、このような過激な行動に移るとは考えにくいが、闇魔法が絡んでいるならば話は別である。

『魔王』の最も熱狂的な支持者であるウォー家の特徴は代々受け継がれる闇魔法だ。ウォー家の者によって操られたと考えるのが妥当だろう。

もし、闇魔法が判明していなかったら…。そして、もし、マックスが亡くなっていたら…。

レオン家とデイビー家の子供たちは極刑に処されていただろう。


「隊長!敷地内に取り残された学生を発見しました!」

警官たちに連行されてきたのは、黒い毛の混じる茶髪の学生だった。青いネクタイから魔法科の学生であるとわかる。

「マシュー・ウォー!上級魔法科の5年生です!犬系ウォー家の!」

ハロルドが目を見開いて学生の身元を述べる。敷地に取り残されていた闇魔法が使えるウォー家の少年。十中八九、犯人だろう。相当暴れたのか、縛られ手錠のようなもので拘束され担がれている。

そのマシューはシャーリーの隣にいるマックスとティナを見て目を見開き、獣のような唸り声をあげてまた暴れだした。

しかし、警官たちによって容易く封じられると、魔力保存器内の魔力との照合が行われた。結果は一致。

「学生ではあるが、ことがことだ…。王位継承権を持つ王族を殺そうとしたのだから…。自白剤を持ってこい。」

自白剤、とは文字通り、自白させる薬だ。魔法薬なため、飲んだものは例外なく嘘がつけなくなる。黙秘防止効果もあるため、だんまりも決め込めない。

…なんで魔法警察のアイテムに詳しいかって?それは叔父が魔法警察勤務だからである。
従兄弟のハロルドもこの叔父の話が大好きで二人でよく話を聞いていたものだ。…それはさておき。


「待ちなさい。」

隊長の指示を止めたのはティナだった。

「クリスティナ様、いかがされました?」

「ウォー家の者に自白剤を飲ませてはいけません。過去に、自白剤を飲んだ瞬間に発作により亡くなった者がいました。おそらく、そのような魔法が施されているのでしょう。調べる必要があります。」

「なっ?」

「そんな魔法…聞いたことがない…。あるいは魔法薬かもしれないな…。」

相変わらず眼鏡をかけているハロルドは脳内で様々な可能性をせわしなく検証している様で、何やら考え込んでいる。

「そのものは、安全な牢にて監視し、有効性が確認されてから自白剤を飲ませましょう。」



指示をだすティナはどこか女王様のようだった。




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