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第5章 5年時 ーシャーリー編ー

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「え、王城に呼び出しですか?」

研究所の所長室に呼び出されたシャーリーは所長からの指示にうろたえた。研究所襲撃騒動から早一月。研究所はすっかり元の様子を取り戻している。部屋が最初に爆破されたシャーリーも、ちゃんと報告書のようなものを提出している。何か不備でもあったのだろうか。

「君のところのインターン二人も連れて行くようにと指示されているから、魔法学園の方に連絡しておいた。これから三人で向かってくれ。
迎えの魔法飛行機も来てる。」

魔法飛行機とは、王族のみが用いている移動手段であり、魔法汽車の三分のスピードで目的地へと連れて行ってくれるのだ。それに一般人なのに乗せてもらえるのは大変名誉なことなのだが…。

「ふ、服は?」

「…スーツはないのか?」

カジュアルウエアでもゆるされるのが研究所のいいところだったのに…。



ーーーー



「一体何の話かしら?ハロルド、わかる?」

「多分、今回の件の顛末じゃないかな?ほら僕らは結構つっこんだところまで捜査協力して箝口令が出てるし。」

ハロルドとノエルは制服姿だ。正直二人は僕より働いていた。ハロルドはその知識で避難を誘導したり、爆発を最小限に抑えたりそ大活躍だったし、ノエルは言わずもがな、光魔法で重要な証拠を手に入れた。

「でも、本当にラッキーだったわよね。」

「…ラッキー?」

シャーリーはノエルの言いように首を傾げる。

「避難誘導の途中で爆発音が聞こえてきて、たまたま空いてた研究室の窓から外が確認できたの。それで、闇魔法にかかった学生たちを確認できたの。」

「僕は風魔法で現場に急行できたし、ノエルもその日はダコタの試作品を履いてたんだよね。」

風魔法の使い手は使い方によっては素早く空中移動ができる。ハロルドはもちろん使えるだろう。
しかし、『ダコタの試作品』とは?

「ダコタって飛行クラブに所属していて、ずっと飛行道具を作ってる私のルームメイトなんだけど、最近、空飛ぶ靴の試作にこってて、その過程でできた、空中に着地できる靴をくれたの。」

ノエルは、これと言って履いている革靴を示す。いたって普通の学園指定の革靴である。…つまりは制服改造である。

「最近ずっと履いてたの。これ、結構使いこなすのにコツがいるから練習に。」

「空中に着地できるって?」

「空中に足場を作って空中を走ることを想定したみたいなんだけど、4歩までしか足場を連続で出せないの。だからく高い位置から飛び降りて、空中に着地するのに使ってる。」

教師としては制服改造は咎めなければいけないところだが、ノエルだし、ということで笑顔で流すことにした。



ーーーー



「シャーリー・サフィラ様、ハロルド・フィリウス様、ノエル・ボルトン様。お待ちしておりました。」

王城の入口で執事のような壮年の男性に案内される。

「謁見の間にて第一王女殿下がお待ちです。」

「だっ…!」

シャーリーは慌てて口をつぐむ。シャーリーたちを呼んでいたのは第一王女だったのか。ということはマックスとティナの主だ。
それでもやっぱり何の様だろうという疑問は残る。

「第一王女殿下。お客様をお連れしました。」

「入っていただいて。」

「は。」

おや?今の声は…?

中に入るとすぐに声がした。

「礼は結構よよく来たわね、三人とも。」

「ティナ!」

そこにいたのはシンプルな赤いドレスに身を包んだティナが上座の豪華な椅子に座っている。横に控えるのはマックスだ。

「ティナが…なぜ第一王女様の席に?もしかして…?」

恐る恐るという様にノエルが尋ねると、ティナは大きく頷いた。

「私が第一王女、クリスティナ・ルクレツェンよ。」

…驚きすぎて声も出ない。ノエルも驚いた様子で目を見開いている。

「ハロルドは知ってたみたいよね?」

「「え??」」

「あーまあね。コーネル家にクリスティナなんて女子、いなかったはずだからさ。第一王女殿下の名前は知らなかったけど年齢から、多分そうじゃないかなって。」

「さすが、知識の精霊の契約者ね。」

「でも、なぜ僕らに正体を明かしたの?」

「それは、今回の襲撃がマックスじゃなくて、私を狙ったものな可能性が高いからよ。」

「…どういうこと?」

「正直、マックスが王位を継承する可能性は年々下がってるの。だからマックスの殺害にはそこまでのインパクトはないのよ。」

私にはあるけど、と小さくつぶやくティナ。

「実際、マックスは単独で出かけることもあるし、学園よりも襲撃しやすい場所もいくらでもあるわ。でも襲われていない。今回久しぶりに私が視察に同行した時を狙って攻撃されたの。
つまり、私のことを知っていたか、私が第一王女じゃないかと推測していたか。後者の場合、私が第一王女だと推測できるような情報をこれ以上広めないことだわ。」

「マックスの従姉妹のクリスティナ・コーネルについてよく知っている人に真実を伝え、秘密を広めさせないため。」

「まあ、もう手遅れだとは思うけど一応ね。来年の夏に私のお披露目があるから、それまで私の存在は広めないでほしいの。
あと、『魔王』の話よ。こっちが本題。」

魔王の話が、本題?どういうことだ?

「私たちは魔王の正体はウォー家の当主、クロー・ウォーじゃないかと思っているの。」

「クロー・ウォーって…。」

これまで正体不明とされてきた魔王、その正体は着々と調査がなされているが確たる証拠は特にない。

「ウォー家当主、ということからわかるように、ウォー家で今一番強い力を持つのがクロー・ウォーなの。つまりそれは最も強い闇魔法の使い手ということだわ。
魔王は、闇魔法による扇動によって集会の参加者を暴徒に煽っているんだと考えられているの。」

「ウォー家の者が怪しいということよね?なぜクロー・ウォー?」

ノエルの質問はもっともだ。
ウォー家の血を引けば、どんなに魔力が弱くとも、闇魔法に適性を持つらしい。ただ、ウォー家で魔力が弱いという話は聞かない。他の獣人一族は貴族と同じように年々魔力量が減っているというのに。

「ウォー家では子供たちに魔力増幅訓練が行われるの。ハロルドがアレックスに教えたっていうあれね。だから、みんな基礎魔力が高いの。
闇魔法の欠点はわかる?」

「光魔法の使い手にはかけられないこと?」

「もう一つ、魔力が自分より高い人にかけられないんだ。」

ハロルドがノエルの意見に補足する。

「今回、分家ウォー家の者は闇魔法にかかっている可能性があるの。ウォー家全体に扇動の魔法をかけられるとしたらクロー・ウォーしかいないわ。」

それは、納得だ。じゃあクロー・ウォーの起こす暴動を止めるには、光魔法の使い手を集めて扇動を解く必要があるのか…。しかしそれではいたちごっこだ。

「そうか…ウォー家の内部から、できるなら、クロー・ウォー本人を洗脳してしまえばいい。それができるのは、クロー・ウォーより魔力の強い人。」

「…もしかして、ザラ?」

現在の5年生で一番の魔力量を誇るザラ・ウォーならばクロー・ウォーの魔力量を超えている可能性がある。

「ザラ・ウォーをウォー家から離反させたいの。あなたたちは彼と仲が良かったはず。彼が実力主義をどう考えているのか知りたいの。集会に毎回参加しているのはこちらも把握しているんだけど。」


ノエルの顔が辛そうにゆがんだのが印象的だった。



ーーーー



「ノエルには、悪いことしちゃったわね…。カミングアウトの時期が、もう一年早ければ、事態は大分違ったのかもしれないけれど。」

しばらくは仲良し水入らずでってことで、ノエルとハロルドは席を外している。
先ほどノエルは、ザラとは絶交したのだという話を言いにくそうにカミングアウトした。

「でも、ノエルとザラが絶交したなら、シャーリーには大チャンスね。」

「え?」

「私は恋愛マスター・ティナよ?ずっとノエルのこと目で追ってたくせに。いいのよ、隠さなくて。でもさすがに先生と生徒はまずいんじゃない?卒業するまで待ちなさいよ?」

ティナの言わんとするところは明確で…。


「…いやいや!違うよ!そんなわけないよ!たしかに、かわいいとは思ったよ?でもそれだけだよ?」

最近綺麗になってどぎまぎしてるだけ!綺麗な女性を目で追ってしまうのは当然の反応だろう!別に恋人になりたい気持ちなんてないから!…多分、ないから!


「まあ、そういうことにしておいてあげてもいいけど。」


城からの帰り、照れてしまうシャーリーはノエルを直視できなくなってしまった。




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