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第6章 6年時 ーユージーン編ー

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入学式でのノエルの演説は、魔法学園新聞に載った。魔法学園新聞が地味な影響力はすでに実証されている。きっと生徒の親の多くがこれを読むだろう。

そして、その一週間後には別の演説が魔法学園を駆け巡ることになる。

「ハロルドが?ノエルと交際宣言した?」

シャーリーがランチのサンドイッチにかぶりつこうとした状態で目を丸くしてこちらを見ている。ユージーンも食事の手を止めて報告してきたリアを見た。

リアは最近なぜか昼休みの時間にユージーンとシャーリーを訪ねてくることがある。なぜか、料理が苦手なのに、ノエルと練習してるのだと言って焼き菓子を持ってくる。
前回、ノエルが一緒に来ていたので、今日はどこにいるのか聞いた時に突然の『交際宣言事件』について報告を受けたのだ。

「ど、どういうことだい?」

「…先生たち動揺しすぎじゃない?」

リアはちょっと拗ねたような顔をしている。

「ノエルが先の入学式の時の演説で、貴族の学生に絡まれたの。もちろん私がかばおうとしたんだけど、その前に一緒にいたハロルドが、『いい機会だから言っておくけど』って言って、『ノエルは僕の大切な女性だから傷つけるやつは許さない』って宣言したの。」

「それは、ただの牽制なんじゃないか?付き合っているとは言ってないし。」

シャーリーが少し震えた声で否定しようとしている。

「その後に、『もう両親にも紹介してる』って言ったのよ。交際宣言でしょ?」

「ハロルドはノエルが好きだったのか…。」

全く気付いていなかったな…。付き合うようになってよかったな。…少し胸が痛むのはなぜなのか。

「え、先生、それ本気で言ってる?」

リアが目を丸くしてこちらを見ている。シャーリーも微妙な顔でこちらを見ている。

「ハロルドと、ついでに言うとショーンが、ノエルのことを好きだったのは明らかだったじゃない?冒険クラブにいればよくわかったでしょう?」

「え?ショーンもなのかい?」

リアはあきれたようなため息をついて、これは想定外だったわ、なんて呟いている。悪かったな。

「話を戻すけど、それで、ハロルドとノエルは色んな人に質問攻めにあっててこっちに来られないの。私は事前にノエルから報告を受けていたから驚かなかったけど。」

「魔法学園で一二を争う有名人カップルか…号外が出そうだな。」


実際、ノエルのルームメイトの魔法新聞編集部長が嬉々として号外を作り、翌日には学園中が知るところとなった。



ーーーー



魔法学園はこのカップルの話題で持ちきりだったが、ルクレツェン全体はさらに重要なイベントの告知で沸いていた。

第一王女殿下が正式に王太子となることになり、この春に立太子の儀が執り行われることになったのだ。


このため学園では春のイースター休暇が通常よりも長くなることになり(代わりにクリスマス休暇が縮んだ)、授業スケジュールの見直しなどの影響が出た。

立太子の儀自体には一部の要職に就く者と王族しか参加できないが、立太子の儀の後には新王太子の顔見世があり、誰もが参加できる。そのため、休日とするのだ。



今回の立太子の儀には不安もある。言わずもがな、実力主義を主張する『魔王』一派による暴動である。


先の魔法学園付属の研究所の襲撃事件、あれは魔王による指示のものとみられている。捕まったのはウォー家筋の学生であったが、それは本家からの指示であった可能性が高い。
現在口を割らせるべく、その学生にかけられた呪いのような黙秘の術を解くため、研究所から光魔法を使える研究者が派遣されている。

闇魔法による洗脳からの暴挙を懸念して、当日の警護計画を立てているのだ。闇魔法の性質上、魔力量の多い者と光魔法使用者に声がかかっている。
ユージーンも魔力量は高いため、話が来ているが、それはまた後日詳しく話そう。



「まさか、ハロルドがあんな交際宣言するなんて思いもしなくて。コレットはこれ幸いと号外にするし。」

ノエルは集められた魔石に光魔法を付与しながら言った。
これはノエルにだけできる魔法だ。魔石は魔道具の核となる魔力のこもった石のことで、天然と人口のものがある。
普通は属性魔法ごとの魔力が詰まっており、それを引き出すような仕組みと共に魔道具なる。魔石単体ではただの石だ。
しかし、ノエルは光の魔力のこもった魔石を作ったうえで、闇魔法を弾く魔法をかける。さらにその周りを結界術で覆うことで魔石の魔力がつきるまで闇魔法を弾くお守りの魔石を作ることができるのだ。
見た目には何の変哲もないただの魔石なのに。

ノエルはこの夏に訪れたオールディにて聖女たちの祈りの結界術を学び、その仕組みを応用することに成功したのだ。しかし、結界術の使用にも適性がいるらしく現状ノエルしかできない。
そのため、第一王女の立太子の儀にあわせて無理のない量を作成する任務をノエルには課せられているのだ。


「付き合い始めたのはね、オールディ調査の帰りだったの。」

きいてもいない馴れ初めを語りだすあたり、ノエルもまんざらでもないのだろう。ちょっと顔を赤らめながら話す様子はとても可愛らしかった。



ーーーー



「ノエル。」

光魔法を付与した魔石づくりの今日のノルマを終えたノエルを研究所まで迎えに来たのは噂のハロルドだった。

ちなみにハロルドは、学園に在籍しながら、研究員としても席も研究所に得てしまった。というのも夏のオールディ調査で新しい属性を発見したのだ。これもノエルの結界術関連だ。
卒業に必要な単位も取り切ってしまったハロルドは研究所付属の図書室にて本を読んでいることが多い。一度見たことがあるのだが、なぜか一度に8冊もの本をめくっていた。…正直、引いた。


「あ、ユージーン先生もいたんだ。」

「やあ、ハロルド。」

「そろそろ行きますか?冒険クラブの新歓BBQ。」




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