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第7章 ーノエル編ー
8 学園一年目
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今年から魔法学園の教師になったユージーン先生は学園でも若い先生だが、新卒ではなく冒険者としても経験を6年ほど積んでいるそうだ。
赤みがかった金髪に明るい青い瞳をした20代半ばの青年がユージーン先生である。ノエルたちのモーリーン捕獲作戦には難色を示したが、最終的には協力してくれることになった。
「冒険者ってどんな仕事なんですか?」
「そうだね、冒険者は一言でいえば、国外の難事件を魔法で解決する仕事だよ。魔法を使えない冒険者ももちろん隣国にはいるけど、ルクレツェン魔法学園出身となればそうだね。」
「ということは、世界中を旅して回るということですか?」
「ああ。ギルドからいろんな国に派遣されるからね。私もロマーノやヒューゲンに行ったよ。」
「…素敵!どうやったら冒険者になれるんですか?」
「そうだね。戦闘魔法もマスターしておいてほしいからね、上級魔法科を卒業しているべきかな。」
上級魔法科。魔力の高さと成績の良さが求められる専門課程だ。ノエルは自分の魔力量がどのくらいの位置に来るのか、把握していなかったがミネルバは多い方だと言っていた。勉強を頑張れば充分進学できるだろう。
「旅は?一人でするんですか?野宿とかも?」
「それは…」
ノエルの質問は作戦開始まで尽きなかった。
ー---
捕獲作戦はノエルが気持ちよく歌っている間にあっさり終わってしまった。ノエルに襲い掛かったモーリーンからザラが助けてくれた。
「大丈夫?」
「ありがとう。全然気づいてなかった…。」
「完全にゾーンに入ってたから、ノエル。」
「すまない、ノエル。君の歌に聞きほれていたよ。ザラがいて本当によかった。」
やはり、私の歌は上手らしい。母もとても歌が上手だったし、遺伝かな。
「ノエルの歌に聞きほれるのはしょうがない。俺は聞きなれてるから。」
ちょっとどや顔気味のザラが面白くて、くすくすと笑っていると、ハロルドが急に眼鏡をかけてモーリーンの横にしゃがんだ。その横顔は完全に昔図書館で出会ったハリーであった。
「ハロルド、その眼鏡はもしかして、知識の精霊かな?」
ユージーンが興味深そうにハロルドを覗き込む。
「あ、はい。モーリーンの解析をしました。被害者は歌声は戻らないかもしれませんが、日常に支障なく発話はできるようになるかもしれないとのことです。」
「精霊?眼鏡が?」
ノエルがハロルドの隣にしゃがみ顔を覗き込む。
「まさか一年生に精霊契約者がいるとはね。しかも知識の精霊なんて、契約者に初めて会ったよ。」
ノエルはまじまじとハロルドの顔を見た。ハロルドもまじまじとノエルの顔を見つめる。
「ハロルド、あなたの顔、本ちゃんに似てるわね。眼鏡かけてるのみて思い出したわ。」
「それ!僕!本ちゃん、僕だよ!」
「でも、本ちゃんは女の子よ?ハロルド、女の子だったの?」
「あ。…ごめん。あの時、僕、女の子の格好してたけど、男の子なんだ。」
え、どういう事情なんだろう、それ?女装趣味ってこと?さすがに学園ではやめたってこと?
「じゃあ、ハリーなんだ。会えてうれしい!」
…とりあえず、喜んでおこう。
ー---
寮の部屋に戻ると、コレットとダコタがなにやら盛り上がっていた。
「ただいまー!」
「おかえり、ノエル!きいた?あの歌声!」
「すごい歌だったよね!いったい誰が歌っていたのかって学園内が騒然よ!」
え、私の歌がすごい話題になってる??
「ああ、うん、きいたきいた!スピーカーから流れたやつだよね!」
テキトーに話を合わせておこう。
「新聞部で総力を挙げて正体を探るわ!」
新聞部員のコレットが拳を突き上げている。…いや、それは困るな。歌で有名になりたいわけじゃないし、私によく突っかかってくる貴族や獣人の反応もめんどくさい方に変わりそうだし。
しょうがない、学園では歌は封印しよう。コーラス部も、諦めよう。それよりは、作りたいクラブもあるし。
ノエルは先ほどクラブを新しく作るための方法をミネルバに聞いてきたところだった。
ー---
「カーディガン活動が無事に実を結んでよかったわね!」
今日はノエルはリアの個室に招待されてお茶会を楽しんでいた。父が手に入れた珍しい茶葉を贈ってくれたので、ノエルが紅茶を、リアがお菓子を用意してのお茶会である。
今日のノエルは学園に持ってきた中では一張羅でもある黒地に花柄のあしらわれたシースルーの生地を重ねたワンピースである。
リアは「それかわいいわ。」といって熱心に眺め、侍女に似たようなドレスを用意したいと指示を出していた。
リアの部屋には一人、侍女がついていて名前をジェニーといった。彼女は魔法学園の卒業生であるが魔力は少ないため魔法職には就かず、リアが6歳のころから屋敷に努めているそうだ。
「本当に。先輩たちのサロンに行けたことが大きかったわ。」
リアはノエルの目の前で優雅に紅茶を飲んでいる。わざとらしく真似をして優雅に飲んでみたらなぜかリアに怒られた。
「それにしても個室の寮ってキッチンまでついているのね。いつでも料理できるじゃない。まあ、リアはしないんだろうけど。」
「食事は食堂から運んでいるけどね。主にジェニーが紅茶をいれたり、お菓子を焼いたりしてくれてるわ。」
食堂から運ばれてくるという食事の種類も違いそうだな。デザートだけでも分けてもらいたい。
「カーディガン、来学期から導入されることになりそうなんだけど、考案者の私たちがロバート商会に招待されているわ。夏休みなんだけど、ノエルも行くでしょう?」
ロバート商会は貴族にも平民にも幅広く商売を手掛けているルクレツェン一番の商会である。カーディガンの導入に際しても商機を見たのか、自ら名乗り出てくれて制作を行ってくれている。
「もちろん。コレットやダコタにも声をかけたけど、なんかちょっと遠慮してるみたい。」
二人はリアの前だと少し委縮する傾向がある。それだけマクレガー家は大きな貴族なのだろう。リアは直系からは少し外れるみたいだけど。
「一昔前はマクレガー家にも貴族至上主義思想が根付いていて、警戒されているのだと思うわ。今は議会でも中立派として活動しているのだけど…。」
そういうリアは寂しそうである。
「乗馬クラブも、貴族的な考えをする集まりで二、三度顔を出してからはやめてしまったわ。せっかくいろいろな立場の人と接する機会なのに、貴族だけで集まっているなんてつまらないわよ。」
「あ、それなら私が今度作るクラブに入ってよ。」
「…作る?カーディガンの次は新しいクラブなの?いったいどんな?」
「『冒険クラブ』よ!冒険者の仕事を疑似体験するクラブなの!体を鍛えたり、旅に必要な魔法を習ったり、野外実習もする予定なの!顧問はユージーン先生よ。知ってる?」
「…知ってるわ。元Sランク冒険者のユージーン・パーカス殿でしょう?」
リアが急にそわそわとし始めてノエルは首を傾げる。すると、会話を見守っていた侍女のジェニーがふふふと笑い始めた。
「お嬢様、『知っている』だけじゃ足りませんよね?ユージーン殿はお嬢様の…。」
「こら!ジェニー!それは内緒よ!」
リアが顔を真っ赤にして慌てているところを見て、ノエルは察した。…ははん。初恋だな?
「じゃあリアも参加するよね?」
「…する。」
こうしてノエルの魔法学園一年目は、問題はありつつも、素敵な友人をたくさん得て過ぎて行った。
赤みがかった金髪に明るい青い瞳をした20代半ばの青年がユージーン先生である。ノエルたちのモーリーン捕獲作戦には難色を示したが、最終的には協力してくれることになった。
「冒険者ってどんな仕事なんですか?」
「そうだね、冒険者は一言でいえば、国外の難事件を魔法で解決する仕事だよ。魔法を使えない冒険者ももちろん隣国にはいるけど、ルクレツェン魔法学園出身となればそうだね。」
「ということは、世界中を旅して回るということですか?」
「ああ。ギルドからいろんな国に派遣されるからね。私もロマーノやヒューゲンに行ったよ。」
「…素敵!どうやったら冒険者になれるんですか?」
「そうだね。戦闘魔法もマスターしておいてほしいからね、上級魔法科を卒業しているべきかな。」
上級魔法科。魔力の高さと成績の良さが求められる専門課程だ。ノエルは自分の魔力量がどのくらいの位置に来るのか、把握していなかったがミネルバは多い方だと言っていた。勉強を頑張れば充分進学できるだろう。
「旅は?一人でするんですか?野宿とかも?」
「それは…」
ノエルの質問は作戦開始まで尽きなかった。
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捕獲作戦はノエルが気持ちよく歌っている間にあっさり終わってしまった。ノエルに襲い掛かったモーリーンからザラが助けてくれた。
「大丈夫?」
「ありがとう。全然気づいてなかった…。」
「完全にゾーンに入ってたから、ノエル。」
「すまない、ノエル。君の歌に聞きほれていたよ。ザラがいて本当によかった。」
やはり、私の歌は上手らしい。母もとても歌が上手だったし、遺伝かな。
「ノエルの歌に聞きほれるのはしょうがない。俺は聞きなれてるから。」
ちょっとどや顔気味のザラが面白くて、くすくすと笑っていると、ハロルドが急に眼鏡をかけてモーリーンの横にしゃがんだ。その横顔は完全に昔図書館で出会ったハリーであった。
「ハロルド、その眼鏡はもしかして、知識の精霊かな?」
ユージーンが興味深そうにハロルドを覗き込む。
「あ、はい。モーリーンの解析をしました。被害者は歌声は戻らないかもしれませんが、日常に支障なく発話はできるようになるかもしれないとのことです。」
「精霊?眼鏡が?」
ノエルがハロルドの隣にしゃがみ顔を覗き込む。
「まさか一年生に精霊契約者がいるとはね。しかも知識の精霊なんて、契約者に初めて会ったよ。」
ノエルはまじまじとハロルドの顔を見た。ハロルドもまじまじとノエルの顔を見つめる。
「ハロルド、あなたの顔、本ちゃんに似てるわね。眼鏡かけてるのみて思い出したわ。」
「それ!僕!本ちゃん、僕だよ!」
「でも、本ちゃんは女の子よ?ハロルド、女の子だったの?」
「あ。…ごめん。あの時、僕、女の子の格好してたけど、男の子なんだ。」
え、どういう事情なんだろう、それ?女装趣味ってこと?さすがに学園ではやめたってこと?
「じゃあ、ハリーなんだ。会えてうれしい!」
…とりあえず、喜んでおこう。
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寮の部屋に戻ると、コレットとダコタがなにやら盛り上がっていた。
「ただいまー!」
「おかえり、ノエル!きいた?あの歌声!」
「すごい歌だったよね!いったい誰が歌っていたのかって学園内が騒然よ!」
え、私の歌がすごい話題になってる??
「ああ、うん、きいたきいた!スピーカーから流れたやつだよね!」
テキトーに話を合わせておこう。
「新聞部で総力を挙げて正体を探るわ!」
新聞部員のコレットが拳を突き上げている。…いや、それは困るな。歌で有名になりたいわけじゃないし、私によく突っかかってくる貴族や獣人の反応もめんどくさい方に変わりそうだし。
しょうがない、学園では歌は封印しよう。コーラス部も、諦めよう。それよりは、作りたいクラブもあるし。
ノエルは先ほどクラブを新しく作るための方法をミネルバに聞いてきたところだった。
ー---
「カーディガン活動が無事に実を結んでよかったわね!」
今日はノエルはリアの個室に招待されてお茶会を楽しんでいた。父が手に入れた珍しい茶葉を贈ってくれたので、ノエルが紅茶を、リアがお菓子を用意してのお茶会である。
今日のノエルは学園に持ってきた中では一張羅でもある黒地に花柄のあしらわれたシースルーの生地を重ねたワンピースである。
リアは「それかわいいわ。」といって熱心に眺め、侍女に似たようなドレスを用意したいと指示を出していた。
リアの部屋には一人、侍女がついていて名前をジェニーといった。彼女は魔法学園の卒業生であるが魔力は少ないため魔法職には就かず、リアが6歳のころから屋敷に努めているそうだ。
「本当に。先輩たちのサロンに行けたことが大きかったわ。」
リアはノエルの目の前で優雅に紅茶を飲んでいる。わざとらしく真似をして優雅に飲んでみたらなぜかリアに怒られた。
「それにしても個室の寮ってキッチンまでついているのね。いつでも料理できるじゃない。まあ、リアはしないんだろうけど。」
「食事は食堂から運んでいるけどね。主にジェニーが紅茶をいれたり、お菓子を焼いたりしてくれてるわ。」
食堂から運ばれてくるという食事の種類も違いそうだな。デザートだけでも分けてもらいたい。
「カーディガン、来学期から導入されることになりそうなんだけど、考案者の私たちがロバート商会に招待されているわ。夏休みなんだけど、ノエルも行くでしょう?」
ロバート商会は貴族にも平民にも幅広く商売を手掛けているルクレツェン一番の商会である。カーディガンの導入に際しても商機を見たのか、自ら名乗り出てくれて制作を行ってくれている。
「もちろん。コレットやダコタにも声をかけたけど、なんかちょっと遠慮してるみたい。」
二人はリアの前だと少し委縮する傾向がある。それだけマクレガー家は大きな貴族なのだろう。リアは直系からは少し外れるみたいだけど。
「一昔前はマクレガー家にも貴族至上主義思想が根付いていて、警戒されているのだと思うわ。今は議会でも中立派として活動しているのだけど…。」
そういうリアは寂しそうである。
「乗馬クラブも、貴族的な考えをする集まりで二、三度顔を出してからはやめてしまったわ。せっかくいろいろな立場の人と接する機会なのに、貴族だけで集まっているなんてつまらないわよ。」
「あ、それなら私が今度作るクラブに入ってよ。」
「…作る?カーディガンの次は新しいクラブなの?いったいどんな?」
「『冒険クラブ』よ!冒険者の仕事を疑似体験するクラブなの!体を鍛えたり、旅に必要な魔法を習ったり、野外実習もする予定なの!顧問はユージーン先生よ。知ってる?」
「…知ってるわ。元Sランク冒険者のユージーン・パーカス殿でしょう?」
リアが急にそわそわとし始めてノエルは首を傾げる。すると、会話を見守っていた侍女のジェニーがふふふと笑い始めた。
「お嬢様、『知っている』だけじゃ足りませんよね?ユージーン殿はお嬢様の…。」
「こら!ジェニー!それは内緒よ!」
リアが顔を真っ赤にして慌てているところを見て、ノエルは察した。…ははん。初恋だな?
「じゃあリアも参加するよね?」
「…する。」
こうしてノエルの魔法学園一年目は、問題はありつつも、素敵な友人をたくさん得て過ぎて行った。
応援ありがとうございます!
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