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第7章 ーノエル編ー
37 最終話
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ミネルバに言って大急ぎで魔法学園まで戻ってきたが、ハロルドは寮の自室にはいなかった。鼻息荒くハロルドを探すノエルに彼のルームメイトのネイトとベンはたじたじだ。
「どこに行ってるの?今日は授業はないはずだし、そろそろ夕食でしょう?」
「わからないよ…。えっと…図書室とか?」
「学園の図書室の本は全部読み終えてるはずよ。」
足元でにゃーという鳴き声がして、何かがすり寄る感触がした。見れば愛猫のオズマである。しっぽを振ってどこかへ歩いていくオズマを慌てて追いかける。
嵐が去った二人はほっと安堵したことだろう。
オズマに連れていかれたのは魔法学園隣接の研究所の図書室だ。ハロルドを見つけ出したのは夕日が差し込む日暮れ前だった。ハロルドは机の上にならべられていた8冊の本を前に微動だにせず座っていた。
ノエルは怒りに任せて足音荒く歩み寄って、本をばっと横に払いのける。
「ハリー!あなた、何考えてるの!」
眼鏡をかけていたハロルドはノエルが怒っている理由が心底わからないようで困ったようにノエルを見上げた。そしてふいと視線を逸らす。
「えっと…ザラ・ウォーと話したの?」
「話したよ!全部聞いたんだから!」
「…仲直りしたの?」
「するわけないでしょう!」
ハロルドはまた驚いてノエルを見上げた。先ほどから変わらず、心底わからないという顔である。
「何で私とザラを会わせたの?私がハリーを捨ててザラと付き合いなおすとでも思ったの?それとも私と別れたくでもなったわけ!?」
「な!そんなわけないよ!」
ハロルドはあわてて最後の選択肢を否定した。
「じゃあ、私のためになるとでも思ったの?ザラと?仲直りすることが?」
「…うん。」
「ザラとよりを戻しちゃうとは思わなかったの?」
「…それもしょうがないのかと思って。」
しょうがないだと?私ってハロルドにとってその程度?ノエルは思わずほろりと涙をこぼした。
「な、なんで泣いてるの!?だって、ノエルはザラ・ウォーとずっと幼馴染だったんだよね?大切なともだちだって言ってたじゃないか…。ザラのことが好きだって言ってたんでしょう…?」
「それは、昔はそうだったよ!けどもう完全に終わったことなの。あれは。だから今はハリーと付き合ってるの!私のことはしょうがないって言ってザラに下げ渡せちゃうようなもの!?」
「でも…ノエルは…。」
ハロルドは言葉をにごらせた。
「何?」
「だって、ノエルは…僕に好きだって一度も言ってくれたことがないじゃないか。」
その言葉にノエルはフリーズした。…え、うそ?でも、言っていないかもしれない。でも、そんなの…。そこまで考えてはっとした。
急に黙り込んだノエルをハロルドはおずおずと見上げてくる。…そうか、ハロルドは私を理解してくれているって言いながら、私はハロルドを理解していなかったんだ。
急にぼろぼろと泣き始めたノエルにハロルドはぎょっとする。
「ごめん…ごめんね、ハリー。」
「え?いや、僕は大丈夫だよ?」
「違うの。私も好き。ハリーが大好き。別れたくないの。…ごめん、ちゃんと言ってなくてごめん。」
そう言ってぎゅっとハロルドに抱き着いた。
ハロルドは心の機微に疎いのだ。毎日ノエルが、ハロルドと付き合ってよかった、こういうところいいな、やっぱり私はハロルドと一緒にいたい、と思っている裏で、ハロルドはザラと接触し、ザラとノエルが付き合っている時の話でも聞いたのだろう。
それがなくても、ノエルに好きだと言われていないことを毎日気にしていたのかもしれない。好きだと言われていないということは好かれていない、みたいに。
正直、ノエルにもいつから自分がハロルドを好きだったのかはわからない。でも、好きになったのだからハロルドにはちゃんと伝えなければいけなかったのだ。
その後、歓喜したハロルドに、「本当に?」と何度も聞かれて何度も「大好き」と答えた。たまに、「ザラよりも好き?」という質問があってそれには「世界で一番好き」と答えた。
日が沈んで真っ暗になるまでずっとぐすぐすしながら好きだと言い続けた。
ー---
もちろん、学園を卒業して一年経った今となってはあの日はあれは黒歴史の一つである。あの後、図書室の司書に『さすがにもう…』と言われて図書室を追い出された。目撃者までいたのが辛い。
でも、あそこでちゃんと気づいてよかった。今もハリーとは良好な関係を続けている。ちなみに日課のキスに、『今日も僕のこと好き?』っていう質問が追加されて、卒業までは毎日好きだと言わされた。
卒業してからは毎日は会えていない。でもノエルの左手の薬指にはシンプルな指輪がある。卒業してすぐにハリーを父に紹介して、私たちは婚約した。ノエルの虫よけにもなるからといつもつけられるような指輪をプレゼントされた。お揃いじゃないと嫌だと言ったので、ハリーの薬指にも指輪がある。
「ノエル、ハロルドとの結婚おめでとう!」
「ありがとう、リア。」
そして今日は卒業後一年ぶりにリアとのお茶会だ。卒業後、二人とも多忙であり、なかなか会う機会がなかったのだ。給仕をするのはもちろんリアの侍女のジェニーだ。場所はノエルの新居である。
この度、ノエルは父との二人暮らしを卒業してハリーと暮らし始めたのだ。むしろ、同棲するための結婚と言っても過言ではない。
「お父様が結婚しないと同棲ダメって言ったんだったかしら?」
「そうなの。これから私は国外任務も増えるし、ハリーは国際警察の仕事で忙しくなるから、予定を会わせて会うのも大変だし、一緒に暮らしたかっただけなんだけど。」
「どうなの?同棲生活は?」
「…彼、全然掃除ができないの。お義父さんに頼んで通いのメイドさんをこっちにも送ってもらうことにした。」
度を越えた出したら出しっぱなしのハリーにノエルは三日で無理だとあきらめた。ハリーの両親は察していたらしく、最初からお手伝いに家からメイドをと言っていたのを思い出し、送ってもらうことにしたのだ。
お金は貯めておきたかったが、週に一、二度来てもらうだけならノエルたちの給料でも問題ない。
「今朝もリアたちが来る前に来てもらったの。」
「…うらやましいわ。」
「ユージーン先生はどうなの?」
「学園の夏休みに入ってすぐにシャーリーとオールディーに研究で。」
リアが勇気を出して告白を越えて逆プロポーズをしたのはもう一年以上前だ。最初のプロポーズは断られたが、諦めずに毎日プロポーズし、卒業式の日にユージーンが負けた。
それから最初はリアがちょっとでも時間ができれば学園に行っていたが、片道三時間をユージーンが哀れに思ったのか、休みの日に首都にでてきてくれるようになったそうだ。
今ではリアの部屋にユージーン専用の転移陣があるらしい。
「幸運の精霊の目撃情報があったって言ってたけど。」
幸運の精霊…あそこで寝てるけど。ノエルは新居で一番日当たりのいい窓辺でごろごろしているオズマをちらりと見た。
「私ももう少しまとまった休みが取れたらちょっとは一緒にいけたんだけど…。でもノエルとハロルドの結婚式は絶対に休むわ。日取りが決まったら連絡して。」
そう、ノエルとハリーは籍は入れたが挙式はまだ。二人でしなくてもいいか、という話をしていたのに、聞きつけたノエル御用達デザイナーのクロエが『絶対に私のドレスを着て』と言い出して、父にも『ローズはできなかった結婚式をぜひにやってほしい』と言われて、やることだけは決定している。
また、ハリーとの結婚の前に、勘当されていたノエルの母ローズは正式にルロワ家の籍に戻り、ノエルもそこに名前を連ねた。伯母で大聖女のメアリローズからは、『招待しなさい』と言われている。
今、都合のいい日程を模索しているところだ。…お互い忙しいし、二年ぐらい先になるかもしれない。
「私も、先生と絶対に結婚する。」
リアは大きく宣言した。ちなみにリアは官僚として不規則な生活を送っているが、その美貌はジェニーによって守り切られており、衰えはない。正式に社交界にデビューしたリアは”社交界の薔薇”と呼ばれている。
ノエルもハリーと結婚したので、今月末、初めての社交界に出る。今日はその打ち合わせも兼ねているのだ。
「ノエルも私と社交界の薔薇になりましょうね。」
リアがいれば社交界も怖くない。ちなみにリアの元婚約者のネイトは官僚にはならなかった。セドリック魔法商会で働いているそうだ。『家があれた』とアレックスから手紙で聞いた。
アレックスは次年度から魔法学園の最高学年になる。冒険クラブも裏生徒会も無事に後輩に引き継いだそうだ。手紙には『僕がアリソンと結婚するって言ったらもめるかも…』という不安も吐露されていた。
「ハロルドは魔法警察で、ショーンは魔法騎士団よね?みんな同期の星だわ。」
そう。ショーンは立太子の儀の縁で魔法騎士団の推薦を受けて、入団試験に合格した。魔法騎士団に入団した同期はショーンを含め、今年は7人だ。そこにはなんとザラも含まれる。
魔法騎士団には諜報部がある。そこへの参加が求められているのだ。こうしてウォー家の新当主として国への贖罪を果たしていくそうだ。
そこにハリーが帰ってきてがちゃりと玄関で音がした。
「ただいま。あ、リア、いらっしゃい。」
「お邪魔してます、ハロルド。今日は早いお帰りなのね。」
ハリーは今日、偉い人も交えた外部での会議だったらしく、朝からスーツを着せて出かけた。このチャコールグレーのスーツもハリーが作るときにお義母さんに呼ばれて、ノエルが選んだものだ。
ちなみにノエルもおそろいでチャコールグレーのワンピースを作った。
「うん。今日は外で会議だったから、そのまま帰ってきたんだよ。」
「じゃあ、私はそろそろ帰らなきゃね。」
リアは席を立つ。
「もっとゆっくりしていけばいいのに。」
「この後、ロバート商会に寄らないといけないから。新婚さんの邪魔もできないし。」
リアもバリバリ働いて、初恋の人と恋愛して、十二分に楽しそうだが。そうしてリアを玄関で見送った後、唐突にハリーがきいてくる。
「ところで、今日もノエルは僕のこと、好き?」
「…結婚してもまだそれきく?」
ハリーはノエルが昔はザラを好きだったけど、今は好きじゃないと言ったことで、ノエルが心変わりしていないか確かめないと不安になるのだそうだ。
『不安なんて感情、初めて知ったよ。僕を人間にしてくれてありがとう、ノエル。』とはハリーの言葉だ。
ノエルはちょっと考えた後、ハリーを見上げて満面の笑みを浮かべた。
「大好き。愛してる。」
その後、初めての愛してるにハリーが大興奮して大変だったのは言うまでもない。
「どこに行ってるの?今日は授業はないはずだし、そろそろ夕食でしょう?」
「わからないよ…。えっと…図書室とか?」
「学園の図書室の本は全部読み終えてるはずよ。」
足元でにゃーという鳴き声がして、何かがすり寄る感触がした。見れば愛猫のオズマである。しっぽを振ってどこかへ歩いていくオズマを慌てて追いかける。
嵐が去った二人はほっと安堵したことだろう。
オズマに連れていかれたのは魔法学園隣接の研究所の図書室だ。ハロルドを見つけ出したのは夕日が差し込む日暮れ前だった。ハロルドは机の上にならべられていた8冊の本を前に微動だにせず座っていた。
ノエルは怒りに任せて足音荒く歩み寄って、本をばっと横に払いのける。
「ハリー!あなた、何考えてるの!」
眼鏡をかけていたハロルドはノエルが怒っている理由が心底わからないようで困ったようにノエルを見上げた。そしてふいと視線を逸らす。
「えっと…ザラ・ウォーと話したの?」
「話したよ!全部聞いたんだから!」
「…仲直りしたの?」
「するわけないでしょう!」
ハロルドはまた驚いてノエルを見上げた。先ほどから変わらず、心底わからないという顔である。
「何で私とザラを会わせたの?私がハリーを捨ててザラと付き合いなおすとでも思ったの?それとも私と別れたくでもなったわけ!?」
「な!そんなわけないよ!」
ハロルドはあわてて最後の選択肢を否定した。
「じゃあ、私のためになるとでも思ったの?ザラと?仲直りすることが?」
「…うん。」
「ザラとよりを戻しちゃうとは思わなかったの?」
「…それもしょうがないのかと思って。」
しょうがないだと?私ってハロルドにとってその程度?ノエルは思わずほろりと涙をこぼした。
「な、なんで泣いてるの!?だって、ノエルはザラ・ウォーとずっと幼馴染だったんだよね?大切なともだちだって言ってたじゃないか…。ザラのことが好きだって言ってたんでしょう…?」
「それは、昔はそうだったよ!けどもう完全に終わったことなの。あれは。だから今はハリーと付き合ってるの!私のことはしょうがないって言ってザラに下げ渡せちゃうようなもの!?」
「でも…ノエルは…。」
ハロルドは言葉をにごらせた。
「何?」
「だって、ノエルは…僕に好きだって一度も言ってくれたことがないじゃないか。」
その言葉にノエルはフリーズした。…え、うそ?でも、言っていないかもしれない。でも、そんなの…。そこまで考えてはっとした。
急に黙り込んだノエルをハロルドはおずおずと見上げてくる。…そうか、ハロルドは私を理解してくれているって言いながら、私はハロルドを理解していなかったんだ。
急にぼろぼろと泣き始めたノエルにハロルドはぎょっとする。
「ごめん…ごめんね、ハリー。」
「え?いや、僕は大丈夫だよ?」
「違うの。私も好き。ハリーが大好き。別れたくないの。…ごめん、ちゃんと言ってなくてごめん。」
そう言ってぎゅっとハロルドに抱き着いた。
ハロルドは心の機微に疎いのだ。毎日ノエルが、ハロルドと付き合ってよかった、こういうところいいな、やっぱり私はハロルドと一緒にいたい、と思っている裏で、ハロルドはザラと接触し、ザラとノエルが付き合っている時の話でも聞いたのだろう。
それがなくても、ノエルに好きだと言われていないことを毎日気にしていたのかもしれない。好きだと言われていないということは好かれていない、みたいに。
正直、ノエルにもいつから自分がハロルドを好きだったのかはわからない。でも、好きになったのだからハロルドにはちゃんと伝えなければいけなかったのだ。
その後、歓喜したハロルドに、「本当に?」と何度も聞かれて何度も「大好き」と答えた。たまに、「ザラよりも好き?」という質問があってそれには「世界で一番好き」と答えた。
日が沈んで真っ暗になるまでずっとぐすぐすしながら好きだと言い続けた。
ー---
もちろん、学園を卒業して一年経った今となってはあの日はあれは黒歴史の一つである。あの後、図書室の司書に『さすがにもう…』と言われて図書室を追い出された。目撃者までいたのが辛い。
でも、あそこでちゃんと気づいてよかった。今もハリーとは良好な関係を続けている。ちなみに日課のキスに、『今日も僕のこと好き?』っていう質問が追加されて、卒業までは毎日好きだと言わされた。
卒業してからは毎日は会えていない。でもノエルの左手の薬指にはシンプルな指輪がある。卒業してすぐにハリーを父に紹介して、私たちは婚約した。ノエルの虫よけにもなるからといつもつけられるような指輪をプレゼントされた。お揃いじゃないと嫌だと言ったので、ハリーの薬指にも指輪がある。
「ノエル、ハロルドとの結婚おめでとう!」
「ありがとう、リア。」
そして今日は卒業後一年ぶりにリアとのお茶会だ。卒業後、二人とも多忙であり、なかなか会う機会がなかったのだ。給仕をするのはもちろんリアの侍女のジェニーだ。場所はノエルの新居である。
この度、ノエルは父との二人暮らしを卒業してハリーと暮らし始めたのだ。むしろ、同棲するための結婚と言っても過言ではない。
「お父様が結婚しないと同棲ダメって言ったんだったかしら?」
「そうなの。これから私は国外任務も増えるし、ハリーは国際警察の仕事で忙しくなるから、予定を会わせて会うのも大変だし、一緒に暮らしたかっただけなんだけど。」
「どうなの?同棲生活は?」
「…彼、全然掃除ができないの。お義父さんに頼んで通いのメイドさんをこっちにも送ってもらうことにした。」
度を越えた出したら出しっぱなしのハリーにノエルは三日で無理だとあきらめた。ハリーの両親は察していたらしく、最初からお手伝いに家からメイドをと言っていたのを思い出し、送ってもらうことにしたのだ。
お金は貯めておきたかったが、週に一、二度来てもらうだけならノエルたちの給料でも問題ない。
「今朝もリアたちが来る前に来てもらったの。」
「…うらやましいわ。」
「ユージーン先生はどうなの?」
「学園の夏休みに入ってすぐにシャーリーとオールディーに研究で。」
リアが勇気を出して告白を越えて逆プロポーズをしたのはもう一年以上前だ。最初のプロポーズは断られたが、諦めずに毎日プロポーズし、卒業式の日にユージーンが負けた。
それから最初はリアがちょっとでも時間ができれば学園に行っていたが、片道三時間をユージーンが哀れに思ったのか、休みの日に首都にでてきてくれるようになったそうだ。
今ではリアの部屋にユージーン専用の転移陣があるらしい。
「幸運の精霊の目撃情報があったって言ってたけど。」
幸運の精霊…あそこで寝てるけど。ノエルは新居で一番日当たりのいい窓辺でごろごろしているオズマをちらりと見た。
「私ももう少しまとまった休みが取れたらちょっとは一緒にいけたんだけど…。でもノエルとハロルドの結婚式は絶対に休むわ。日取りが決まったら連絡して。」
そう、ノエルとハリーは籍は入れたが挙式はまだ。二人でしなくてもいいか、という話をしていたのに、聞きつけたノエル御用達デザイナーのクロエが『絶対に私のドレスを着て』と言い出して、父にも『ローズはできなかった結婚式をぜひにやってほしい』と言われて、やることだけは決定している。
また、ハリーとの結婚の前に、勘当されていたノエルの母ローズは正式にルロワ家の籍に戻り、ノエルもそこに名前を連ねた。伯母で大聖女のメアリローズからは、『招待しなさい』と言われている。
今、都合のいい日程を模索しているところだ。…お互い忙しいし、二年ぐらい先になるかもしれない。
「私も、先生と絶対に結婚する。」
リアは大きく宣言した。ちなみにリアは官僚として不規則な生活を送っているが、その美貌はジェニーによって守り切られており、衰えはない。正式に社交界にデビューしたリアは”社交界の薔薇”と呼ばれている。
ノエルもハリーと結婚したので、今月末、初めての社交界に出る。今日はその打ち合わせも兼ねているのだ。
「ノエルも私と社交界の薔薇になりましょうね。」
リアがいれば社交界も怖くない。ちなみにリアの元婚約者のネイトは官僚にはならなかった。セドリック魔法商会で働いているそうだ。『家があれた』とアレックスから手紙で聞いた。
アレックスは次年度から魔法学園の最高学年になる。冒険クラブも裏生徒会も無事に後輩に引き継いだそうだ。手紙には『僕がアリソンと結婚するって言ったらもめるかも…』という不安も吐露されていた。
「ハロルドは魔法警察で、ショーンは魔法騎士団よね?みんな同期の星だわ。」
そう。ショーンは立太子の儀の縁で魔法騎士団の推薦を受けて、入団試験に合格した。魔法騎士団に入団した同期はショーンを含め、今年は7人だ。そこにはなんとザラも含まれる。
魔法騎士団には諜報部がある。そこへの参加が求められているのだ。こうしてウォー家の新当主として国への贖罪を果たしていくそうだ。
そこにハリーが帰ってきてがちゃりと玄関で音がした。
「ただいま。あ、リア、いらっしゃい。」
「お邪魔してます、ハロルド。今日は早いお帰りなのね。」
ハリーは今日、偉い人も交えた外部での会議だったらしく、朝からスーツを着せて出かけた。このチャコールグレーのスーツもハリーが作るときにお義母さんに呼ばれて、ノエルが選んだものだ。
ちなみにノエルもおそろいでチャコールグレーのワンピースを作った。
「うん。今日は外で会議だったから、そのまま帰ってきたんだよ。」
「じゃあ、私はそろそろ帰らなきゃね。」
リアは席を立つ。
「もっとゆっくりしていけばいいのに。」
「この後、ロバート商会に寄らないといけないから。新婚さんの邪魔もできないし。」
リアもバリバリ働いて、初恋の人と恋愛して、十二分に楽しそうだが。そうしてリアを玄関で見送った後、唐突にハリーがきいてくる。
「ところで、今日もノエルは僕のこと、好き?」
「…結婚してもまだそれきく?」
ハリーはノエルが昔はザラを好きだったけど、今は好きじゃないと言ったことで、ノエルが心変わりしていないか確かめないと不安になるのだそうだ。
『不安なんて感情、初めて知ったよ。僕を人間にしてくれてありがとう、ノエル。』とはハリーの言葉だ。
ノエルはちょっと考えた後、ハリーを見上げて満面の笑みを浮かべた。
「大好き。愛してる。」
その後、初めての愛してるにハリーが大興奮して大変だったのは言うまでもない。
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