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第一章 無計画な婚約破棄
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ヒューゲンはその時代、三強と呼ばれていた一国であった。陸・海ともに優れた戦力を持ち、豊かな土地を持っていた。当時、ヒューゲン国王には二人の王子がいた。ともに王家の色である赤毛と赤にも見える赤褐色の目を引き継いでいた。
長男である第一王子は王太子となるべく、未来の国王としての教育を終え、学園の卒業とともに立太子することが決まっていた。とても優秀な王子であり、ヒューゲンの未来は明るいと言われていた。
一方の第二王子も優秀な王子であった。第一王子の三つ年下の第二王子は将来は王太子を支える臣下となるべく、幼い頃から勉学と鍛錬に励み、彼を王太子にとの声が上がるほどの優秀さだった。
しかし、彼、第二王子ヨーゼフ・ヒューゲンには困ったことがあった。
ヨーゼフがそれと出会ったのは5歳の時のこと。ヨーゼフは『眠れる森の姫』という童話が大好きで、毎晩のように乳母に呼んでくれるようにせがんでいた。
その物語のお姫様は大層可愛らしかったが、魔女を怒らせてしまったために錘の先で指をついて100年の眠りについてしまうという魔女の呪いを受けてしまう。
国王は国中の錘を焼いたが、お転婆なお姫様はある日それを見つけ、好奇心から指先をついてしまうのだ。そして、100年の眠りについてしまう。
しかし、100年後、茨で覆われた城に姫を助けに王子様が現れる。そして二人は幸せに暮らすのだ。
あまりにもその童話が好きなヨーゼフのために、彼の母である王妃は美しい挿絵の入った『眠れる森の姫』の絵本を作らせ、彼の5歳の誕生日にプレゼントしたのだ。
そこに登場するお姫様はウェーブを描く明るい金髪に、淡い青い瞳をした可愛らしいと美しいが絶妙な配分で混ざった女性だった。
これがヨーゼフの初恋の女性となる。
始めの内は、王妃も周りもヨーゼフが『運命の姫と結婚する!』といって絵本を掲げているのを微笑ましく見ていた。問題があると気づいたのはヨーゼフが7歳の時だ。
7歳になるとヨーゼフには婚約者ができた。ヘルムフート公爵家の令嬢で名をクラウディアと言った。ヨーゼフと同い年で大人びた可愛らしい令嬢であったが、ヨーゼフにとってはその容姿が大変不満だった。
「ヨーゼフ、クラウディア嬢はどうだった?」
「母上、僕は金髪の令嬢がよかったです。」
クラウディアは美しいブルネットの髪の持ち主だった。
「…でも、かわいらしいご令嬢だったでしょう?」
「全然かわいくないです!」
「ヨーゼフ!!」
「せめて金髪じゃないとかわいくないです!!」
そう言ってヨーゼフは『眠れる森の姫』の絵本を掲げて見せる。そこにはお姫様の挿絵があった。
王妃は絵本を作ったことを心の底から後悔した。同時に、成長すれば絵本の女性から隣にいる美しい少女に興味も移るだろうと問題を棚上げにした。
思えば、この時にしっかりとした再教育を行うべきだったのかもしれない。
ともかく、婚約が成立した二人は定期的に交流のためのお茶会を行った。
「最近はオールディ語の勉強をしていますの。」
「そうか!私もオールディ語とブルテン語、そしてエスパル語を勉強しているよ。」
「まあ。ヨーゼフ様は三か国語もお話しできるのですか?」
「まだ勉強しているだけで話せるレベルではないが、将来的には兄上の補佐として、しっかり話せるようになりたいと思う。それに…。」
ヨーゼフは優秀な少年だった。後に有言実行で三か国語をマスターし、最終的には自国語を入れれば五か国語を流ちょうに操るようになる。
「先日見学させていただきました、鍛錬の様子、とても素敵でしたわ。」
「ああ。騎士団の者たちは強いから、励みになるよ。」
「ヨーゼフ様も十分お強いように見えましたわ。」
「いや、まだまだだ、将来的には魔物の討伐もできるようになりたい。そして…。」
ヨーゼフは運動もできた。実際に数年後には騎士団に所属してその実力を国内外に示すようになる。
「まあ!もう王太子殿下と一緒に政治の授業を?」
「ああ。兄上が一緒に受けようと誘ってくれたのだ。将来に必要になるからと。」
「素晴らしいですわ!王太子殿下もヨーゼフ様を認めてくださっているのですね!」
「そうなのだろうか…。そうだったら嬉しい…。それに…。」
実際に王太子である兄とヨーゼフの関係は死が二人を分かつまで友好的であった。王太子にとってヨーゼフは軍事のみならず、外交や政治においても頼りになる存在だった。
しかし、会話の最後にクラウディアは常に遠い目をしていた。
「それに、私の運命の姫がどこの国の言語を話すかわからないからな!たくさん異国語を学びたいんだ!」
「そして、姫がとらわれているいばらの城に助けに行くんだ!道中にどんな魔物が出てもおかしくないからな!」
「それに、姫の国は姫と共に100年の眠りについているのだから、復興とともに政治的手腕が必要になるだろう!」
ヨーゼフは残念な男のまま12歳を迎え、将来の側近に出会う。
長男である第一王子は王太子となるべく、未来の国王としての教育を終え、学園の卒業とともに立太子することが決まっていた。とても優秀な王子であり、ヒューゲンの未来は明るいと言われていた。
一方の第二王子も優秀な王子であった。第一王子の三つ年下の第二王子は将来は王太子を支える臣下となるべく、幼い頃から勉学と鍛錬に励み、彼を王太子にとの声が上がるほどの優秀さだった。
しかし、彼、第二王子ヨーゼフ・ヒューゲンには困ったことがあった。
ヨーゼフがそれと出会ったのは5歳の時のこと。ヨーゼフは『眠れる森の姫』という童話が大好きで、毎晩のように乳母に呼んでくれるようにせがんでいた。
その物語のお姫様は大層可愛らしかったが、魔女を怒らせてしまったために錘の先で指をついて100年の眠りについてしまうという魔女の呪いを受けてしまう。
国王は国中の錘を焼いたが、お転婆なお姫様はある日それを見つけ、好奇心から指先をついてしまうのだ。そして、100年の眠りについてしまう。
しかし、100年後、茨で覆われた城に姫を助けに王子様が現れる。そして二人は幸せに暮らすのだ。
あまりにもその童話が好きなヨーゼフのために、彼の母である王妃は美しい挿絵の入った『眠れる森の姫』の絵本を作らせ、彼の5歳の誕生日にプレゼントしたのだ。
そこに登場するお姫様はウェーブを描く明るい金髪に、淡い青い瞳をした可愛らしいと美しいが絶妙な配分で混ざった女性だった。
これがヨーゼフの初恋の女性となる。
始めの内は、王妃も周りもヨーゼフが『運命の姫と結婚する!』といって絵本を掲げているのを微笑ましく見ていた。問題があると気づいたのはヨーゼフが7歳の時だ。
7歳になるとヨーゼフには婚約者ができた。ヘルムフート公爵家の令嬢で名をクラウディアと言った。ヨーゼフと同い年で大人びた可愛らしい令嬢であったが、ヨーゼフにとってはその容姿が大変不満だった。
「ヨーゼフ、クラウディア嬢はどうだった?」
「母上、僕は金髪の令嬢がよかったです。」
クラウディアは美しいブルネットの髪の持ち主だった。
「…でも、かわいらしいご令嬢だったでしょう?」
「全然かわいくないです!」
「ヨーゼフ!!」
「せめて金髪じゃないとかわいくないです!!」
そう言ってヨーゼフは『眠れる森の姫』の絵本を掲げて見せる。そこにはお姫様の挿絵があった。
王妃は絵本を作ったことを心の底から後悔した。同時に、成長すれば絵本の女性から隣にいる美しい少女に興味も移るだろうと問題を棚上げにした。
思えば、この時にしっかりとした再教育を行うべきだったのかもしれない。
ともかく、婚約が成立した二人は定期的に交流のためのお茶会を行った。
「最近はオールディ語の勉強をしていますの。」
「そうか!私もオールディ語とブルテン語、そしてエスパル語を勉強しているよ。」
「まあ。ヨーゼフ様は三か国語もお話しできるのですか?」
「まだ勉強しているだけで話せるレベルではないが、将来的には兄上の補佐として、しっかり話せるようになりたいと思う。それに…。」
ヨーゼフは優秀な少年だった。後に有言実行で三か国語をマスターし、最終的には自国語を入れれば五か国語を流ちょうに操るようになる。
「先日見学させていただきました、鍛錬の様子、とても素敵でしたわ。」
「ああ。騎士団の者たちは強いから、励みになるよ。」
「ヨーゼフ様も十分お強いように見えましたわ。」
「いや、まだまだだ、将来的には魔物の討伐もできるようになりたい。そして…。」
ヨーゼフは運動もできた。実際に数年後には騎士団に所属してその実力を国内外に示すようになる。
「まあ!もう王太子殿下と一緒に政治の授業を?」
「ああ。兄上が一緒に受けようと誘ってくれたのだ。将来に必要になるからと。」
「素晴らしいですわ!王太子殿下もヨーゼフ様を認めてくださっているのですね!」
「そうなのだろうか…。そうだったら嬉しい…。それに…。」
実際に王太子である兄とヨーゼフの関係は死が二人を分かつまで友好的であった。王太子にとってヨーゼフは軍事のみならず、外交や政治においても頼りになる存在だった。
しかし、会話の最後にクラウディアは常に遠い目をしていた。
「それに、私の運命の姫がどこの国の言語を話すかわからないからな!たくさん異国語を学びたいんだ!」
「そして、姫がとらわれているいばらの城に助けに行くんだ!道中にどんな魔物が出てもおかしくないからな!」
「それに、姫の国は姫と共に100年の眠りについているのだから、復興とともに政治的手腕が必要になるだろう!」
ヨーゼフは残念な男のまま12歳を迎え、将来の側近に出会う。
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