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第一章 無計画な婚約破棄
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ダミアンの小言から逃げ、マリアに必要最低限の教育が終わったところで卒業式の日となった。マリアの教育は驚くほどすんなりと進んだため、ヨーゼフはマリアの言う”クラウディア妨害説”を半ば信じるようになっていた。
マリアは一度教えればすぐに『わかりました』と言ってくれる。こんなに物覚えのいいマリアがあそこまで貴族教育に苦戦した理由がヨーゼフには他に思いつかなかった。
貴族学園の卒業式の後には卒業記念のパーティーが開かれる。参加できるのは卒業生と在校生、教員のみだが、エスコート役として学外の婚約者や親族を呼ぶこともできる。マリアが貴族教育を終えた今、満を持したとばかりにヨーゼフはマリアをエスコートした。
この日のドレスは、あの『眠れる森の姫』をイメージした美しい花をあしらった水色のドレスだった。マリアの可愛らしさを引き立てる逸品だったが、ふとヨーゼフは思った。
絵本の最後で王子と水色のドレスで踊る姫は、もっと高貴な美しさではなかったか、と。
「ヨーゼフ様?どうかされました?」
「いや、何でもない。行こうか。」
「はい!」
ヨーゼフがマリアをエスコートして会場に入ると、その場がざわめいた。噂は本当だったのか、と。続いてクラウディアがクラウスにエスコートされて入場するとその場はさらにざわめいた。クラウディアは今日、美しい紫色のドレスを着ていて、とてもよく似合っていた。しかし、いつもは王族の婚約者として赤をとりいれたドレスを着ていたのだから、周囲が困惑するのもわかる。
開会の挨拶は最も高位であるヨーゼフの役目だ。
「みんな、卒業おめでとう!この日を迎えられて嬉しく思う!」
学生たちはヨーゼフが何を話すのかと固唾をのんで見守っている。
「今日は皆に紹介したい人がいる。私の”運命の姫”であるマリア・タウラー男爵令嬢だ。」
ヨーゼフが招き寄せるとマリアは嬉しそうに速足で壇上のヨーゼフのところへとやってきた。彼女の腰を抱き、笑顔を向けてから向き直る。
「私は将来的に臣下に降り、ここにいるマリアを結婚するつもりだ。…クラウディア、前に来てくれるか?」
ざわつく群衆の中からクラウスにエスコートされたクラウディアが出てきた。特に焦った様子もなく通常通りの落ち着いた顔だ。
「クラウディア、君とは結婚はできない。君との婚約は、破棄することとする!」
婚約破棄、の言葉が出たことでその場はさらにざわついた。クラウディアに責がないならば、この場でヨーゼフが宣言するべきは、『婚約解消』である。そこをわざわざ『破棄』と言ったということは、クラウディアが悪いと言ったようなものである。
「何か申し開きはあるか?」
「婚約破棄、ですか…。なぜ、破棄というお話になるのでしょう?」
クラウディアは扇子で口元を隠しながら問いかける。なんて白々しい。
「クラウディア、お前はマリアの貴族教育を妨害していたな。マリアはお前に教育を受けていた時は全く覚えられないと言っていたが、私が教育を担当するようになってからはこの通り、見事に必要な教育をおさめてくれた!」
「つまり、私がタウラー男爵令嬢を虐げていたので、婚約を破棄したいと仰るのですね?」
「他にもお前がマリアをいじめていた話は聞いているぞ!」
「さようですか。それでこの件は国王陛下もご存じのことで?」
「いや。だが、陛下には明日マリアと共に謁見することになっている。マリアが十分な貴族教育を終えていることが条件であり、お前に責がある今、私の言い分を理解してくださるだろう!」
クラウディアはちらりとマリアを見てため息をついた。
「婚約破棄は受け入れかねます。」
「なっ…!」
「代わりに、こちらから、殿下が有責での婚約破棄を宣言させていただきます!どうぞ、末永く、タウラー男爵令嬢とお幸せに。」
そして、「手続きがありますので。」と言ってクラウディアはクラウスとともに退場していった。王族が貴族家から婚約破棄されるという前代未聞の事態であった。
マリアは一度教えればすぐに『わかりました』と言ってくれる。こんなに物覚えのいいマリアがあそこまで貴族教育に苦戦した理由がヨーゼフには他に思いつかなかった。
貴族学園の卒業式の後には卒業記念のパーティーが開かれる。参加できるのは卒業生と在校生、教員のみだが、エスコート役として学外の婚約者や親族を呼ぶこともできる。マリアが貴族教育を終えた今、満を持したとばかりにヨーゼフはマリアをエスコートした。
この日のドレスは、あの『眠れる森の姫』をイメージした美しい花をあしらった水色のドレスだった。マリアの可愛らしさを引き立てる逸品だったが、ふとヨーゼフは思った。
絵本の最後で王子と水色のドレスで踊る姫は、もっと高貴な美しさではなかったか、と。
「ヨーゼフ様?どうかされました?」
「いや、何でもない。行こうか。」
「はい!」
ヨーゼフがマリアをエスコートして会場に入ると、その場がざわめいた。噂は本当だったのか、と。続いてクラウディアがクラウスにエスコートされて入場するとその場はさらにざわめいた。クラウディアは今日、美しい紫色のドレスを着ていて、とてもよく似合っていた。しかし、いつもは王族の婚約者として赤をとりいれたドレスを着ていたのだから、周囲が困惑するのもわかる。
開会の挨拶は最も高位であるヨーゼフの役目だ。
「みんな、卒業おめでとう!この日を迎えられて嬉しく思う!」
学生たちはヨーゼフが何を話すのかと固唾をのんで見守っている。
「今日は皆に紹介したい人がいる。私の”運命の姫”であるマリア・タウラー男爵令嬢だ。」
ヨーゼフが招き寄せるとマリアは嬉しそうに速足で壇上のヨーゼフのところへとやってきた。彼女の腰を抱き、笑顔を向けてから向き直る。
「私は将来的に臣下に降り、ここにいるマリアを結婚するつもりだ。…クラウディア、前に来てくれるか?」
ざわつく群衆の中からクラウスにエスコートされたクラウディアが出てきた。特に焦った様子もなく通常通りの落ち着いた顔だ。
「クラウディア、君とは結婚はできない。君との婚約は、破棄することとする!」
婚約破棄、の言葉が出たことでその場はさらにざわついた。クラウディアに責がないならば、この場でヨーゼフが宣言するべきは、『婚約解消』である。そこをわざわざ『破棄』と言ったということは、クラウディアが悪いと言ったようなものである。
「何か申し開きはあるか?」
「婚約破棄、ですか…。なぜ、破棄というお話になるのでしょう?」
クラウディアは扇子で口元を隠しながら問いかける。なんて白々しい。
「クラウディア、お前はマリアの貴族教育を妨害していたな。マリアはお前に教育を受けていた時は全く覚えられないと言っていたが、私が教育を担当するようになってからはこの通り、見事に必要な教育をおさめてくれた!」
「つまり、私がタウラー男爵令嬢を虐げていたので、婚約を破棄したいと仰るのですね?」
「他にもお前がマリアをいじめていた話は聞いているぞ!」
「さようですか。それでこの件は国王陛下もご存じのことで?」
「いや。だが、陛下には明日マリアと共に謁見することになっている。マリアが十分な貴族教育を終えていることが条件であり、お前に責がある今、私の言い分を理解してくださるだろう!」
クラウディアはちらりとマリアを見てため息をついた。
「婚約破棄は受け入れかねます。」
「なっ…!」
「代わりに、こちらから、殿下が有責での婚約破棄を宣言させていただきます!どうぞ、末永く、タウラー男爵令嬢とお幸せに。」
そして、「手続きがありますので。」と言ってクラウディアはクラウスとともに退場していった。王族が貴族家から婚約破棄されるという前代未聞の事態であった。
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