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第四章 無計画なプロポーズ
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こうして、二か月ぶりにヨーゼフはキャサリンと共にバッツドルフ邸へと帰ってきた。
「おかえりなさいませ。」
「ああ。変わりはないか。」
「はい。」
家令のペーターの顔を見るのも二カ月ぶりである。
「「「おかえりなさいませ、奥様。」」」
隣ではキャサリンがより熱烈に出迎えられている。
「湯あみの準備ができておりますが、どうされますか?」
「そうね。湯あみをしてから軽い食事を用意してもらえるかしら。あまり夕食を食べられなかったの。」
「かしこまりました。」
そのような会話が聞こえてきて慌てる。
「ま、待ってくれ。それなら一緒に軽食とワインでもどうだ?」
「いえ、結構です。」
「しかし、君は湯あみの後は私と会ってくれないだろう?」
「ええ。また明日の朝に。旦那様は早くかわいらしい方のところへ行かれては?」
キャサリンは気だるそうに侍女たちを引き連れて部屋へと行ってしまう。その場にはペーターとヨーゼフだけが残された。
「旦那様、その、離れであちら様がお待ちです。」
「あ、ああ。」
長期の出張の後はたくさんの土産を持ってマリアの下を訪れる。そうしないと彼女の機嫌が悪くなるからだ。
「しまった!」
「どうされました?」
「マリアへの土産を買ってくるのを忘れていた!」
「…それは珍しいですね。」
普段は帰りの旅路で土産を買うが、以前の素っ気なさに戻ってしまったキャサリンが気になり、それどころではなかったのだ。
しかし、土産を買う時間はあっても、観光する時間はない。オールディーで培ったと思っていた多少の親しみを取り戻すことができないまま、ヨーゼフたちは帰ってきた。
「困ったな…。今日は逢いに行くのはやめようか。」
それがいい気がする。
「いえ、それは逆効果かと。土産もない、会いにも来ない、ではあちら様はまたヒステリーをおこされますよ。」
「そ、そうか。」
ヨーゼフは渋々といった様子で離れへと足を運んだ。
ーーーー
「ヨーゼフ様!おかえりなさい!ずっとずっと待っていたわ!」
「ああ、ただいま、マリア。」
マリアが胸に飛び込んでくるが、二カ月間キャサリンと過ごした後だとどうしても粗が目立つ。ただの、平民にしか見えない。
「オールデイーはどうだったの?お土産は?」
「すまない、マリア。今回は土産は買えていないんだ。」
マリアは目を見開いた。そして怒りの表情になる。
「あの女に言われたの!?」
「な!?違う!本当に、ただ忙しかっただけなんだ。」
「嘘よ!今まではどんなに忙しくともお土産を欠かさなかったわ!」
「それは…。」
たしかに、キャサリンを気にかけ、マリアを忘れていたのは事実である。答えられない様子にマリアの鋭い女の勘は騙されなかった。
「やっぱりあの女なのね!」
そしていつものヒステリーが始まった。いつもは優しくなだめるヨーゼフも、この日は耐えることができなかった。
結果、マリアの呼ぶ声を背中に、彼女を放置して本邸に帰ってしまった。
ーーーー
翌日、少し遅れて朝食に行くと、そこにキャサリンはいなかった。
「キャサリンはどうした?」
ペーターは驚いた顔をヨーゼフに向けてくる。
「奥様は体調を崩されたようで、今朝は部屋でお休みされています。」
「な!大丈夫なのか?」
「少し熱がある程度だと。婚儀から一年ほど、体調を崩されることもなかったので疲れが出たのではないでしょうか。」
「見舞いにいかなければ。医者は呼んだのか?」
「…確認しておきます。」
戻ってきたヨーゼフは案の定、見舞いは不要である旨を伝えてきた。
「そ、そうか…。なら、何か見舞いの品を届けさせよう。」
「何にしましょうか?」
「そうだな…。」
思えば過去にヨーゼフは見舞いなどしたことがない。元婚約者のクラウディアが風邪をひいたと聞いたことはあるが、見舞いに行こうとも、見舞いの品を贈ろうとも思わなかった。もしや侍従が勝手に送ってくれていたかもしれないが。
「こういう時には何を贈るんだ?」
「無難に花でしょうか。」
「花か…。」
ヨーゼフはキャサリンの好きな花などもちろん知らない。
「…適当に見繕ってくれるか。」
「かしこまりました。」
「おかえりなさいませ。」
「ああ。変わりはないか。」
「はい。」
家令のペーターの顔を見るのも二カ月ぶりである。
「「「おかえりなさいませ、奥様。」」」
隣ではキャサリンがより熱烈に出迎えられている。
「湯あみの準備ができておりますが、どうされますか?」
「そうね。湯あみをしてから軽い食事を用意してもらえるかしら。あまり夕食を食べられなかったの。」
「かしこまりました。」
そのような会話が聞こえてきて慌てる。
「ま、待ってくれ。それなら一緒に軽食とワインでもどうだ?」
「いえ、結構です。」
「しかし、君は湯あみの後は私と会ってくれないだろう?」
「ええ。また明日の朝に。旦那様は早くかわいらしい方のところへ行かれては?」
キャサリンは気だるそうに侍女たちを引き連れて部屋へと行ってしまう。その場にはペーターとヨーゼフだけが残された。
「旦那様、その、離れであちら様がお待ちです。」
「あ、ああ。」
長期の出張の後はたくさんの土産を持ってマリアの下を訪れる。そうしないと彼女の機嫌が悪くなるからだ。
「しまった!」
「どうされました?」
「マリアへの土産を買ってくるのを忘れていた!」
「…それは珍しいですね。」
普段は帰りの旅路で土産を買うが、以前の素っ気なさに戻ってしまったキャサリンが気になり、それどころではなかったのだ。
しかし、土産を買う時間はあっても、観光する時間はない。オールディーで培ったと思っていた多少の親しみを取り戻すことができないまま、ヨーゼフたちは帰ってきた。
「困ったな…。今日は逢いに行くのはやめようか。」
それがいい気がする。
「いえ、それは逆効果かと。土産もない、会いにも来ない、ではあちら様はまたヒステリーをおこされますよ。」
「そ、そうか。」
ヨーゼフは渋々といった様子で離れへと足を運んだ。
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「ヨーゼフ様!おかえりなさい!ずっとずっと待っていたわ!」
「ああ、ただいま、マリア。」
マリアが胸に飛び込んでくるが、二カ月間キャサリンと過ごした後だとどうしても粗が目立つ。ただの、平民にしか見えない。
「オールデイーはどうだったの?お土産は?」
「すまない、マリア。今回は土産は買えていないんだ。」
マリアは目を見開いた。そして怒りの表情になる。
「あの女に言われたの!?」
「な!?違う!本当に、ただ忙しかっただけなんだ。」
「嘘よ!今まではどんなに忙しくともお土産を欠かさなかったわ!」
「それは…。」
たしかに、キャサリンを気にかけ、マリアを忘れていたのは事実である。答えられない様子にマリアの鋭い女の勘は騙されなかった。
「やっぱりあの女なのね!」
そしていつものヒステリーが始まった。いつもは優しくなだめるヨーゼフも、この日は耐えることができなかった。
結果、マリアの呼ぶ声を背中に、彼女を放置して本邸に帰ってしまった。
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翌日、少し遅れて朝食に行くと、そこにキャサリンはいなかった。
「キャサリンはどうした?」
ペーターは驚いた顔をヨーゼフに向けてくる。
「奥様は体調を崩されたようで、今朝は部屋でお休みされています。」
「な!大丈夫なのか?」
「少し熱がある程度だと。婚儀から一年ほど、体調を崩されることもなかったので疲れが出たのではないでしょうか。」
「見舞いにいかなければ。医者は呼んだのか?」
「…確認しておきます。」
戻ってきたヨーゼフは案の定、見舞いは不要である旨を伝えてきた。
「そ、そうか…。なら、何か見舞いの品を届けさせよう。」
「何にしましょうか?」
「そうだな…。」
思えば過去にヨーゼフは見舞いなどしたことがない。元婚約者のクラウディアが風邪をひいたと聞いたことはあるが、見舞いに行こうとも、見舞いの品を贈ろうとも思わなかった。もしや侍従が勝手に送ってくれていたかもしれないが。
「こういう時には何を贈るんだ?」
「無難に花でしょうか。」
「花か…。」
ヨーゼフはキャサリンの好きな花などもちろん知らない。
「…適当に見繕ってくれるか。」
「かしこまりました。」
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