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第四章 無計画なプロポーズ
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その日、ヨーゼフは遅めに城に向かい、オールディーでの外交について兄であり国王であるエアハルトに報告した。
「そうか、ついにデジレ王女、いや元王女が問題をおこしたか。キャサリン夫人は災難であったな。」
「…はい。」
「しかし、これでオールディーから確実に三国同盟への支援を引き出せるだろう。その点はブルテンの策の内かもしれん。」
「まさか。」
わざと王女にトラブルを起こさせたとでも言うのか?ありえないだろう。
「ポートレット帝国による進軍だが、今年はすでに撤退し、明日にはヒューゲン軍の代表であるザイフリート中将が王都に戻ってくる。」
「本当ですか。思っていたよりも早いですね。」
ポートレット帝国は北方の国であるため、冬が近づくと撤退するのが毎年のことらしい。今は秋半ばであるため、撤退したのは夏の終わり、ヨーゼフがオールディーへと出発したころであろう。想定していたよりも早い。
「ああ。今のところヒューゲン軍は大した武功を挙げられていない。来年の侵攻ではむしろブルテンとエスパルに恩を売るようなことになってはならない。」
ヨーゼフがオールディーへと向かう前に聞いていた戦況では、ヒューゲン軍が最も被害が大きいということであった。後半戦からは前線ではなく後方支援に回るだろう、と。
「詳しくはザイフリート中将の報告を待つ必要がある。明日はお前も同席してくれ。」
「かしこまりました。」
ーーーー
翌日、ヒューゲン軍を率いていたガブリエル・ザイフリート中将が疲れた様子で登城した。ガブリエルはまだ20代半ばの青年で一年目の戦果を見ると彼がヒューゲン代表として適任だったのか疑問が残る。
「よく無事に戻った、ザイフリート中将。挨拶はいいから細かい戦況を報告してくれ。」
ガブリエルの報告では、ブルテンが温存していた秘密兵器を初戦から繰り出し、完膚なきまでに帝国軍をつぶし、さらに逃げる軍に執拗な追撃を繰り出したらしい。
「おそらく、来年になれば秘密兵器に対して対策を練られるという懸念があったのでしょう。今年で片をつけるような勢いでありました。」
ブルテン海軍を率いる若き総大将に実はヨーゼフは会ったことがある。ヨーゼフよりも一つ年下の、理知的な青年だったはずだ。戦死した将軍と同じ真っ赤な髪をしていた。
赤い髪、といえばヨーゼフと同じである。そういえば将軍が戦死していなければ、彼はキャサリンの義理の息子になっていたわけだ…。
「エスパル軍も負けじと並び追撃し、例年よりも早くの撤退となりました。帝国軍船の半数以上を沈めた、または捕船したと思われます。」
「そうか。」
エアハルトは腕を組む。
「して、その秘密兵器がどんなものなのかわかったのか?」
「どうやら大陸から来た魔法使いらしいです。」
「魔法使い。」
エアハルトは顎に手をやり考え込む。
「ヨーゼフ、次のブルテンとの外交は小さいものであってもお前が行ってくれ。」
「かしこまりました。」
ブルテンに突如現れた魔法使い、国王であるエアハルトが接触し、その相手を見極めたいと思うのは当然である。ブルテンはキャサリンの故郷でもある。連れて行けば喜んでくれるだろうか。
「ザイフリート中将はブルテン海軍についてヨーゼフに情報共有を。」
「かしこまりました。」
ーーーー
帰宅すると、マリアがまた騒いでいるらしく、離れに呼び出された。
「ヨーゼフ様!これは何なの!?」
そう言ってマリアが見せてくるのは、また例のゴシップ記事だ。そこには『美貌の大公、異国から来た妻を溺愛する』と書かれている。そして、真っ赤なドレスを着た妻を伴い、オールディーのいたるところに現れた大公の話が続く。最後には、帰りの旅路で妻を片時も離さず、お疲れ気味の妻と屋敷へ帰って行ったという下世話なニュアンスの話もあった。
「あの女に赤いドレスを贈ったの!?それに、彼女と夜も一緒だったの!?私にはもう手を出さないのに!?」
「マリア、こんな大衆紙を信じてはいけないってあれほど言っただろう?」
「じゃあ全部嘘だって言うの?」
正直者のヨーゼフは思わず黙ってしまう。長い付き合いのマリアにはお見通しだ。
「あの女とは白い結婚じゃなかったの!?」
「それは誓って白い結婚だ!彼女に手をだしてはいない!」
「でも、赤いドレスは贈ったのね!」
「それは仕方ないだろう!?彼女はヒューゲンを代表して私の妻として参加しているんだ!赤いドレスを着ないわけにはいかない!」
珍しくヨーゼフはマリアに対して声を荒げてしまった。その様子が愛する妻を守ろうとしているようにマリアには見えて、さらに気持ちを荒立たせてしまう。
「本当はあの女と寝たんでしょう!?だって、あの女、昨日から寝込んでいるっていうじゃない!記事の通りだわ!あなただって昔はあんなに激しかったもの!」
「そんなことはしていない!」
「私のこと愛しているのよね?ヨーゼフ様、だったら態度で示して!」
「それは…。」
「やっぱりあの女のところに行くんでしょう!」
「い、いや…。」
「ヨーゼフ様!」
その晩、約二年ぶりにヨーゼフはマリアとの閨に挑んだ。結果、二人の関係はさらに冷え切ることになる。
「そうか、ついにデジレ王女、いや元王女が問題をおこしたか。キャサリン夫人は災難であったな。」
「…はい。」
「しかし、これでオールディーから確実に三国同盟への支援を引き出せるだろう。その点はブルテンの策の内かもしれん。」
「まさか。」
わざと王女にトラブルを起こさせたとでも言うのか?ありえないだろう。
「ポートレット帝国による進軍だが、今年はすでに撤退し、明日にはヒューゲン軍の代表であるザイフリート中将が王都に戻ってくる。」
「本当ですか。思っていたよりも早いですね。」
ポートレット帝国は北方の国であるため、冬が近づくと撤退するのが毎年のことらしい。今は秋半ばであるため、撤退したのは夏の終わり、ヨーゼフがオールディーへと出発したころであろう。想定していたよりも早い。
「ああ。今のところヒューゲン軍は大した武功を挙げられていない。来年の侵攻ではむしろブルテンとエスパルに恩を売るようなことになってはならない。」
ヨーゼフがオールディーへと向かう前に聞いていた戦況では、ヒューゲン軍が最も被害が大きいということであった。後半戦からは前線ではなく後方支援に回るだろう、と。
「詳しくはザイフリート中将の報告を待つ必要がある。明日はお前も同席してくれ。」
「かしこまりました。」
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翌日、ヒューゲン軍を率いていたガブリエル・ザイフリート中将が疲れた様子で登城した。ガブリエルはまだ20代半ばの青年で一年目の戦果を見ると彼がヒューゲン代表として適任だったのか疑問が残る。
「よく無事に戻った、ザイフリート中将。挨拶はいいから細かい戦況を報告してくれ。」
ガブリエルの報告では、ブルテンが温存していた秘密兵器を初戦から繰り出し、完膚なきまでに帝国軍をつぶし、さらに逃げる軍に執拗な追撃を繰り出したらしい。
「おそらく、来年になれば秘密兵器に対して対策を練られるという懸念があったのでしょう。今年で片をつけるような勢いでありました。」
ブルテン海軍を率いる若き総大将に実はヨーゼフは会ったことがある。ヨーゼフよりも一つ年下の、理知的な青年だったはずだ。戦死した将軍と同じ真っ赤な髪をしていた。
赤い髪、といえばヨーゼフと同じである。そういえば将軍が戦死していなければ、彼はキャサリンの義理の息子になっていたわけだ…。
「エスパル軍も負けじと並び追撃し、例年よりも早くの撤退となりました。帝国軍船の半数以上を沈めた、または捕船したと思われます。」
「そうか。」
エアハルトは腕を組む。
「して、その秘密兵器がどんなものなのかわかったのか?」
「どうやら大陸から来た魔法使いらしいです。」
「魔法使い。」
エアハルトは顎に手をやり考え込む。
「ヨーゼフ、次のブルテンとの外交は小さいものであってもお前が行ってくれ。」
「かしこまりました。」
ブルテンに突如現れた魔法使い、国王であるエアハルトが接触し、その相手を見極めたいと思うのは当然である。ブルテンはキャサリンの故郷でもある。連れて行けば喜んでくれるだろうか。
「ザイフリート中将はブルテン海軍についてヨーゼフに情報共有を。」
「かしこまりました。」
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帰宅すると、マリアがまた騒いでいるらしく、離れに呼び出された。
「ヨーゼフ様!これは何なの!?」
そう言ってマリアが見せてくるのは、また例のゴシップ記事だ。そこには『美貌の大公、異国から来た妻を溺愛する』と書かれている。そして、真っ赤なドレスを着た妻を伴い、オールディーのいたるところに現れた大公の話が続く。最後には、帰りの旅路で妻を片時も離さず、お疲れ気味の妻と屋敷へ帰って行ったという下世話なニュアンスの話もあった。
「あの女に赤いドレスを贈ったの!?それに、彼女と夜も一緒だったの!?私にはもう手を出さないのに!?」
「マリア、こんな大衆紙を信じてはいけないってあれほど言っただろう?」
「じゃあ全部嘘だって言うの?」
正直者のヨーゼフは思わず黙ってしまう。長い付き合いのマリアにはお見通しだ。
「あの女とは白い結婚じゃなかったの!?」
「それは誓って白い結婚だ!彼女に手をだしてはいない!」
「でも、赤いドレスは贈ったのね!」
「それは仕方ないだろう!?彼女はヒューゲンを代表して私の妻として参加しているんだ!赤いドレスを着ないわけにはいかない!」
珍しくヨーゼフはマリアに対して声を荒げてしまった。その様子が愛する妻を守ろうとしているようにマリアには見えて、さらに気持ちを荒立たせてしまう。
「本当はあの女と寝たんでしょう!?だって、あの女、昨日から寝込んでいるっていうじゃない!記事の通りだわ!あなただって昔はあんなに激しかったもの!」
「そんなことはしていない!」
「私のこと愛しているのよね?ヨーゼフ様、だったら態度で示して!」
「それは…。」
「やっぱりあの女のところに行くんでしょう!」
「い、いや…。」
「ヨーゼフ様!」
その晩、約二年ぶりにヨーゼフはマリアとの閨に挑んだ。結果、二人の関係はさらに冷え切ることになる。
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