34 / 56
第四章 無計画なプロポーズ
3
しおりを挟む
翌朝、ほとんど眠れなかったヨーゼフはいつもより少し早い時間に朝食にやってきた。
あの後、どうにかこうにかマリアと関係を持とうとしたが、疲れもあったのか何もできなかった。マリアはさらにへそを曲げて泣きながらヨーゼフを部屋から追い出した。
情けない姿で本邸へもどってくることになったわけである。こんなこと、キャサリンには知られたくない。
ヨーゼフよりもやや遅れてキャサリンはいつもの様子で食堂へやってきた。
「あら、旦那様。今日はお早いですね。」
「ああ。君は、体調は大丈夫なのか?」
「おかげさまですっかり元気になりました。お花もありがとうございます。」
いつもと変わらない美しい所作で朝食を口に運ぶキャサリンに、なぜかヨーゼフは心身が癒されるのを感じた。
「旦那様こそ、大層お疲れの様ですね。」
「あ、いや、昨晩寝られなくてだな。」
「そうですか。お元気なのは喜ばしいですが、お仕事に支障がないようにほどほどになさってください。」
「いや!ち、違うんだ!」
キャサリンは優雅に退席していく。反応せずに情けなく閨から追い出されたと思われたくはないが、一晩中マリアと共にいたとも思われたくはない。複雑な男心である。
ーーーー
その日はガブリエルからブルテン海軍に関する情報共有を受ける日であった。一通りの情報共有を受けたあと、思わず聞いてしまう。
「戦死された将軍について、ですか?」
「ああ。どんな人物だったんだい?」
「それは勇猛果敢な大将軍でありましたが…、その勇猛さ故に戦死された様です。」
「どんな見た目だった?」
「見た目…?真っ赤な髪の大男でしたよ。」
「私の髪とどちらが赤い?」
「…将軍の方が赤が強かったとおもいますが。どうされました?」
年下なのに理知的なガブリエルに怪訝な顔をされるとすべて話してしまいそうになる。
「その、亡くなられた将軍は妻の前の婚約者だからな。どのような人か気になってな。」
「はあ、随分と仲がよいのですね。安心しました。」
別に仲は良くはない。話すのは朝食の時だけだし、夫婦として過ごすのは社交の時だけ。もちろん子作りもしていないし、ただでさえ自分のあれは…。
ヨーゼフの肩はずんと重くなった。
ーーーー
その日からしばらく、マリアは大人しかった。精神的な打撃を受けていたヨーゼフはそっとしておいてもらえることがありがたかった。
「本当にそうでしょうか?」
「どうした、ペーター?」
「あちら様のことです。別にヨーゼフ様をそっとしておくために、大人しくしているのではないと思います。」
「ではなんだと言うのだ?」
「あちら様も傷ついておられるのです。愛し愛されているはずのヨーゼフ様に閨ごとを拒絶され、若く美しい妻を迎えられ、あげくようやくと思えば…あんな…。」
「黙れ。」
「申し訳ございません。ですが、ヨーゼフ様は今後のあちら様も面倒を見ていくつもりなのでしょう?だとしたら今の状態はあまりにも残酷です。愛人でなくなるのならば、屋敷から出し、しかるべきところに預けるべきでは。」
マリアを愛人でなくす?そんなことができるとは考えもしなかった。
「しかるべきところとはどういうところだ?」
「この屋敷でのことをべらべらと話されても困りますから、十分な金を渡して田舎に住まわせるのが妥当でしょうか。それか修道院などもあります。」
「な!それではマリアが可哀そうだろう!」
「どうして可哀そうなのです?」
「どうしてって…。」
マリアはおしゃれ好きだし、甘いものも好きだ。そんな娯楽のない地方の田舎にやるのは可哀そうだ。
「普通、平民は自分たちで金を稼ぎ、その稼ぎの中でつつましく生活するものです。」
「しかし、マリアは私と出会わなければ貴族だったはずなんだ!」
「仮に貴族夫人であったとしても、社交をし、家の管理をし、夫と家のために働いているものです。それを全くしていないあちら様が暮らすに困らないお金を与えられて、住む場所も与えられるのです。可哀そうでしょうか?」
ヨーゼフには反論することができなかった。
あの後、どうにかこうにかマリアと関係を持とうとしたが、疲れもあったのか何もできなかった。マリアはさらにへそを曲げて泣きながらヨーゼフを部屋から追い出した。
情けない姿で本邸へもどってくることになったわけである。こんなこと、キャサリンには知られたくない。
ヨーゼフよりもやや遅れてキャサリンはいつもの様子で食堂へやってきた。
「あら、旦那様。今日はお早いですね。」
「ああ。君は、体調は大丈夫なのか?」
「おかげさまですっかり元気になりました。お花もありがとうございます。」
いつもと変わらない美しい所作で朝食を口に運ぶキャサリンに、なぜかヨーゼフは心身が癒されるのを感じた。
「旦那様こそ、大層お疲れの様ですね。」
「あ、いや、昨晩寝られなくてだな。」
「そうですか。お元気なのは喜ばしいですが、お仕事に支障がないようにほどほどになさってください。」
「いや!ち、違うんだ!」
キャサリンは優雅に退席していく。反応せずに情けなく閨から追い出されたと思われたくはないが、一晩中マリアと共にいたとも思われたくはない。複雑な男心である。
ーーーー
その日はガブリエルからブルテン海軍に関する情報共有を受ける日であった。一通りの情報共有を受けたあと、思わず聞いてしまう。
「戦死された将軍について、ですか?」
「ああ。どんな人物だったんだい?」
「それは勇猛果敢な大将軍でありましたが…、その勇猛さ故に戦死された様です。」
「どんな見た目だった?」
「見た目…?真っ赤な髪の大男でしたよ。」
「私の髪とどちらが赤い?」
「…将軍の方が赤が強かったとおもいますが。どうされました?」
年下なのに理知的なガブリエルに怪訝な顔をされるとすべて話してしまいそうになる。
「その、亡くなられた将軍は妻の前の婚約者だからな。どのような人か気になってな。」
「はあ、随分と仲がよいのですね。安心しました。」
別に仲は良くはない。話すのは朝食の時だけだし、夫婦として過ごすのは社交の時だけ。もちろん子作りもしていないし、ただでさえ自分のあれは…。
ヨーゼフの肩はずんと重くなった。
ーーーー
その日からしばらく、マリアは大人しかった。精神的な打撃を受けていたヨーゼフはそっとしておいてもらえることがありがたかった。
「本当にそうでしょうか?」
「どうした、ペーター?」
「あちら様のことです。別にヨーゼフ様をそっとしておくために、大人しくしているのではないと思います。」
「ではなんだと言うのだ?」
「あちら様も傷ついておられるのです。愛し愛されているはずのヨーゼフ様に閨ごとを拒絶され、若く美しい妻を迎えられ、あげくようやくと思えば…あんな…。」
「黙れ。」
「申し訳ございません。ですが、ヨーゼフ様は今後のあちら様も面倒を見ていくつもりなのでしょう?だとしたら今の状態はあまりにも残酷です。愛人でなくなるのならば、屋敷から出し、しかるべきところに預けるべきでは。」
マリアを愛人でなくす?そんなことができるとは考えもしなかった。
「しかるべきところとはどういうところだ?」
「この屋敷でのことをべらべらと話されても困りますから、十分な金を渡して田舎に住まわせるのが妥当でしょうか。それか修道院などもあります。」
「な!それではマリアが可哀そうだろう!」
「どうして可哀そうなのです?」
「どうしてって…。」
マリアはおしゃれ好きだし、甘いものも好きだ。そんな娯楽のない地方の田舎にやるのは可哀そうだ。
「普通、平民は自分たちで金を稼ぎ、その稼ぎの中でつつましく生活するものです。」
「しかし、マリアは私と出会わなければ貴族だったはずなんだ!」
「仮に貴族夫人であったとしても、社交をし、家の管理をし、夫と家のために働いているものです。それを全くしていないあちら様が暮らすに困らないお金を与えられて、住む場所も与えられるのです。可哀そうでしょうか?」
ヨーゼフには反論することができなかった。
526
あなたにおすすめの小説
婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました
日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。
だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。
もしかして、婚約破棄⁉
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
酷いことをしたのはあなたの方です
風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。
あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。
ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。
聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。
※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。
※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。
※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。
妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました
放浪人
恋愛
侯爵令嬢イリスは美しく社交的な妹セレーナに全てを奪われて育った。
両親の愛情、社交界の評判、そして幼馴染であり婚約者だった公爵令息フレデリックまで。
妹の画策により婚約を破棄され絶望するイリスだが傷ついた心を抱えながらも自分を慕ってくれる使用人たちのために強く生きることを決意する。
そんな彼女の元に隣国の若き国王が訪れる。
彼はイリスの飾らない人柄と虐げられても折れない心に惹かれていく。
一方イリスを捨て妹を選んだフレデリックと全てを手に入れたと思った妹は国王に選ばれたイリスを見て初めて自らの過ちを後悔するがもう遅い。
これは妹と元婚約者への「ざまぁ」と新たな場所で真実の愛を見つける物語。
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」と蔑んだ元婚約者へ。今、私は氷帝陛下の隣で大陸一の幸せを掴んでいます。
椎名シナ
恋愛
「エリアーナ? ああ、あの穀潰しか」
ーーかつて私、エリアーナ・フォン・クライネルは、婚約者であったクラウヴェルト王国第一王子アルフォンスにそう蔑まれ、偽りの聖女マリアベルの奸計によって全てを奪われ、追放されましたわ。ええ、ええ、あの時の絶望と屈辱、今でも鮮明に覚えていますとも。
ですが、ご心配なく。そんな私を拾い上げ、その凍てつくような瞳の奥に熱い情熱を秘めた隣国ヴァルエンデ帝国の若き皇帝、カイザー陛下が「お前こそが、我が探し求めた唯一無二の宝だ」と、それはもう、息もできないほどの熱烈な求愛と、とろけるような溺愛で私を包み込んでくださっているのですもの。
今ではヴァルエンデ帝国の皇后として、かつて「無能」と罵られた私の知識と才能は大陸全土を驚かせ、帝国にかつてない繁栄をもたらしていますのよ。あら、風の噂では、私を捨てたクラウヴェルト王国は、偽聖女の力が消え失せ、今や滅亡寸前だとか? 「エリアーナさえいれば」ですって?
これは、どん底に突き落とされた令嬢が、絶対的な権力と愛を手に入れ、かつて自分を見下した愚か者たちに華麗なる鉄槌を下し、大陸一の幸せを掴み取る、痛快極まりない逆転ざまぁ&極甘溺愛ストーリー。
さあ、元婚約者のアルフォンス様? 私の「穀潰し」ぶりが、どれほどのものだったか、その目でとくとご覧にいれますわ。もっとも、今のあなたに、その資格があるのかしら?
――え? ヴァルエンデ帝国からの公式声明? 「エリアーナ皇女殿下のご生誕を祝福し、クラウヴェルト王国には『適切な対応』を求める」ですって……?
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
政略結婚だからと諦めていましたが、離縁を決めさせていただきました
あおくん
恋愛
父が決めた結婚。
顔を会わせたこともない相手との結婚を言い渡された私は、反論することもせず政略結婚を受け入れた。
これから私の家となるディオダ侯爵で働く使用人たちとの関係も良好で、旦那様となる義両親ともいい関係を築けた私は今後上手くいくことを悟った。
だが婚姻後、初めての初夜で旦那様から言い渡されたのは「白い結婚」だった。
政略結婚だから最悪愛を求めることは考えてはいなかったけれど、旦那様がそのつもりなら私にも考えがあります。
どうか最後まで、その強気な態度を変えることがないことを、祈っておりますわ。
※いつものゆるふわ設定です。拙い文章がちりばめられています。
最後はハッピーエンドで終えます。
婚約を解消してくれないと、毒を飲んで死ぬ? どうぞご自由に
柚木ゆず
恋愛
※7月25日、本編完結いたしました。後日、補完編と番外編の投稿を予定しております。
伯爵令嬢ソフィアの幼馴染である、ソフィアの婚約者イーサンと伯爵令嬢アヴリーヌ。二人はソフィアに内緒で恋仲となっており、最愛の人と結婚できるように今の関係を解消したいと考えていました。
ですがこの婚約は少々特殊な意味を持つものとなっており、解消するにはソフィアの協力が必要不可欠。ソフィアが関係の解消を快諾し、幼馴染三人で両家の当主に訴えなければ実現できないものでした。
そしてそんなソフィアは『家の都合』を優先するため、素直に力を貸してくれはしないと考えていました。
そこで二人は毒を用意し、一緒になれないなら飲んで死ぬとソフィアに宣言。大切な幼馴染が死ぬのは嫌だから、必ず言うことを聞く――。と二人はほくそ笑んでいましたが、そんなイーサンとアヴリーヌに返ってきたのは予想外の言葉でした。
「そう。どうぞご自由に」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる