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第五章 無計画な真実の愛
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「君は…、私と子作りするのは嫌かい?もし、私が不能じゃなかったとして…。」
「嫌ですわ。」
「そ、そうか。なぜなんだ?」
「初夜を嫌がったのはあなたです。」
「それはそうだが…、今はマリアもいないし、ダメか?私の容姿は嫌いかい?」
「容姿にこだわりはないですが、政略結婚の相手に対して初夜は嫌だと言うような貴族男性は私の好みから最も外れています。」
「そ、そうか。」
キャサリンは寝る前のリラックス時間を邪魔されて不機嫌だった。いつものような遠回しの嫌味ではなく、言葉がダイレクトにグサグサとヨーゼフに刺さる。
「そもそも、旦那様のお仕事は素晴らしいし、優秀な方と思っています。しかし、私は旦那様に心許すほど大事にされた覚えはありません。」
「…は?」
いやいやいや、外交に伴ったし、ドレスも送ったし、ほどよい信頼関係を築けているはずだ。
「まず、白い結婚を政略結婚の相手に宣言すること、これは大きなマイナスです。しかも王族のくせに。」
「それは…、すまなかった。」
「また、ブルテンから来た私を気遣うことはありません。ブルテン語を理解する使用人を用意してくれるわけでもないし、私にもつねにヒューゲン語で話すことを強いています。」
「別に強いてなど…。」
「私と二人で話すときに、ブルテン語を使われたことなどないでしょう。異国語が堪能なら、母国語で話す機会が少ないことがストレスになるとは思わないのですか?」
「それは…。」
「また、私が旦那様に尽くすことを当然だと思っていらっしゃるでしょう?旦那様に恥をかかせないように動くと。」
「そんなことは…。」
「当然赤いドレスを着てくると、思われていたでしょう?最初の社交の時、『なぜ赤いドレスを着ない?』と尋ねられましたよね?」
「そ、それは…。」
「妻である私の立場を慮ることはないのに、自分の立場は慮れと言う。初夜を済まされない貴族夫人や赤いドレスを着れない王族の妻がどういう扱いを受けるか…、考えられたことはないのに。」
キャサリンは蔑むような目をヨーゼフに向けてくる。そしてため息を吐いて控えていたペーターを呼ぶ。
「ペーター、それじゃあ王族所縁の一族から10歳以下の優秀な男の子と女の子をリストアップしてくれる?」
「かしこまりました。」
「待ってくれ!」
ヨーゼフはブルテン語で声を上げた。キャサリンは怪訝な顔でこちらを見る。
「まだ何か?」
キャサリンの返事はヒューゲン語であったが、ヨーゼフはブルテン語で続ける。
「私は変わる!これからは君に尽くしたい!だから養子は待ってくれないか?一年たっても無理だと言うなら養子を迎えよう!」
キャサリンは驚いた顔をして、次いで呆れたような顔をした。
「お好きになさってください。私は、養子はどちらでもいいので。」
ーーーー
「お、おはよう。」
「おはようございます。旦那様。」
ブルテン語で話しながら、ヨーゼフはそわそわしていた。キャサリンは怪訝な顔だ。
「よかったら今度、一緒に出掛けないか?ブルテンでの社交で使うアクセサリーを買いに行こう。」
「そちらでしたら、商人に見繕って持ってくるように依頼していますが…。」
「たまには店に見に行くのもいいだろう?聞けば王都の観光はほとんどしていないそうじゃないか。」
「お仕事が忙しいのでは?」
「私にだって休みの日はある!特に休みなしに帝国との外交をしていたんだ。希望通りに休みが取れるよ。いつがいい?」
キャサリンは面倒くさそうな顔をしていたが、渋々予定のない日を教えてくれた。
「わかった!楽しみにしててくれ!」
ペーターに早速その日に宝飾店とレストランの予約、そして馬車の手配を頼んだ。
「私のお気に入りのレストランに連れて行くよ。私も10年以上行っていないんだが。」
「10年ですか?」
「母のお気に入りだった店の一つで、何度かダミアンやクラウス、クラウディアと行っていたんだ。まだ、学生だった頃に…。」
第二王子時代も大公時代も、外交の旅路で外食をすることはあったが、屋敷や城にいる時は友がいなければ外食はしなかった。マリアと、デートらしいデートはしたことがない。父と母から徹底的に二人で外に出ることを禁じられ、それがマリアを愛人として囲うことの条件だった。
行ったのは、正体を隠せる仮面舞踏会ぐらいだ。
「あと、カフェにも行こう。よくケーキを買いに行かせる美味しい店があるんだ。そこにも10年以上行けていなくて…。」
「わかりました、旦那様。」
下がりかけていた視線をふと上にあげると、呆れたような困ったような顔のキャサリンと目が合った。
「旦那様の行きたいお店に連れて行ってくださいませ。」
「嫌ですわ。」
「そ、そうか。なぜなんだ?」
「初夜を嫌がったのはあなたです。」
「それはそうだが…、今はマリアもいないし、ダメか?私の容姿は嫌いかい?」
「容姿にこだわりはないですが、政略結婚の相手に対して初夜は嫌だと言うような貴族男性は私の好みから最も外れています。」
「そ、そうか。」
キャサリンは寝る前のリラックス時間を邪魔されて不機嫌だった。いつものような遠回しの嫌味ではなく、言葉がダイレクトにグサグサとヨーゼフに刺さる。
「そもそも、旦那様のお仕事は素晴らしいし、優秀な方と思っています。しかし、私は旦那様に心許すほど大事にされた覚えはありません。」
「…は?」
いやいやいや、外交に伴ったし、ドレスも送ったし、ほどよい信頼関係を築けているはずだ。
「まず、白い結婚を政略結婚の相手に宣言すること、これは大きなマイナスです。しかも王族のくせに。」
「それは…、すまなかった。」
「また、ブルテンから来た私を気遣うことはありません。ブルテン語を理解する使用人を用意してくれるわけでもないし、私にもつねにヒューゲン語で話すことを強いています。」
「別に強いてなど…。」
「私と二人で話すときに、ブルテン語を使われたことなどないでしょう。異国語が堪能なら、母国語で話す機会が少ないことがストレスになるとは思わないのですか?」
「それは…。」
「また、私が旦那様に尽くすことを当然だと思っていらっしゃるでしょう?旦那様に恥をかかせないように動くと。」
「そんなことは…。」
「当然赤いドレスを着てくると、思われていたでしょう?最初の社交の時、『なぜ赤いドレスを着ない?』と尋ねられましたよね?」
「そ、それは…。」
「妻である私の立場を慮ることはないのに、自分の立場は慮れと言う。初夜を済まされない貴族夫人や赤いドレスを着れない王族の妻がどういう扱いを受けるか…、考えられたことはないのに。」
キャサリンは蔑むような目をヨーゼフに向けてくる。そしてため息を吐いて控えていたペーターを呼ぶ。
「ペーター、それじゃあ王族所縁の一族から10歳以下の優秀な男の子と女の子をリストアップしてくれる?」
「かしこまりました。」
「待ってくれ!」
ヨーゼフはブルテン語で声を上げた。キャサリンは怪訝な顔でこちらを見る。
「まだ何か?」
キャサリンの返事はヒューゲン語であったが、ヨーゼフはブルテン語で続ける。
「私は変わる!これからは君に尽くしたい!だから養子は待ってくれないか?一年たっても無理だと言うなら養子を迎えよう!」
キャサリンは驚いた顔をして、次いで呆れたような顔をした。
「お好きになさってください。私は、養子はどちらでもいいので。」
ーーーー
「お、おはよう。」
「おはようございます。旦那様。」
ブルテン語で話しながら、ヨーゼフはそわそわしていた。キャサリンは怪訝な顔だ。
「よかったら今度、一緒に出掛けないか?ブルテンでの社交で使うアクセサリーを買いに行こう。」
「そちらでしたら、商人に見繕って持ってくるように依頼していますが…。」
「たまには店に見に行くのもいいだろう?聞けば王都の観光はほとんどしていないそうじゃないか。」
「お仕事が忙しいのでは?」
「私にだって休みの日はある!特に休みなしに帝国との外交をしていたんだ。希望通りに休みが取れるよ。いつがいい?」
キャサリンは面倒くさそうな顔をしていたが、渋々予定のない日を教えてくれた。
「わかった!楽しみにしててくれ!」
ペーターに早速その日に宝飾店とレストランの予約、そして馬車の手配を頼んだ。
「私のお気に入りのレストランに連れて行くよ。私も10年以上行っていないんだが。」
「10年ですか?」
「母のお気に入りだった店の一つで、何度かダミアンやクラウス、クラウディアと行っていたんだ。まだ、学生だった頃に…。」
第二王子時代も大公時代も、外交の旅路で外食をすることはあったが、屋敷や城にいる時は友がいなければ外食はしなかった。マリアと、デートらしいデートはしたことがない。父と母から徹底的に二人で外に出ることを禁じられ、それがマリアを愛人として囲うことの条件だった。
行ったのは、正体を隠せる仮面舞踏会ぐらいだ。
「あと、カフェにも行こう。よくケーキを買いに行かせる美味しい店があるんだ。そこにも10年以上行けていなくて…。」
「わかりました、旦那様。」
下がりかけていた視線をふと上にあげると、呆れたような困ったような顔のキャサリンと目が合った。
「旦那様の行きたいお店に連れて行ってくださいませ。」
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