夜に駆ける乙女は今日も明日も明後日も仕事です

ぺきぺき

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大東京で爆走編

4 常磐卯の、休暇を邪魔するものには天誅です。

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5月2日朝。

「作り置きのおかずとご飯、いっぱい冷凍してあるから、今日はそれを解凍するのよ?」

「わかってる。」

「デートに着ていく服はちゃんとわかってる?」

「わかってるって!ちゃんと晴のコーディネートで行くから!」

「日焼け止めも忘れちゃだめだからね!」

「はいはい!晴は青木くんに会えるのを楽しみに今日の研究を頑張って!」

晴はスーツケースをひいて愛しの彼氏との休暇へと旅立っていった。


5月2日午後6時。

「常磐卯の、ただいま到着しました。」

「今日は早いな。」

「昼の仕事は有休をもらいました。室長、重ねてになりますが…。」

「わかってる。明日の仕事は休みだろう?」

「よろしくお願いします。」

卯のは今日の仕事をしに奥多摩へ向かった。


5月2日午後11時。

「ではお先に失礼します。」

「ああ、お疲れ。」

「室長、お願いですから明日は…。」

「わかってる!そんなに何度も念を押すな!」

九条室長はげんなりとした顔で卯のを追い払うように手を振った。


5月3日午前8時。

「昨日は何時まで仕事?」

「11時頃まで…。でも午後からだったので。」

「眠かったら寝ていてもいいから。」

「だ、大丈夫!」

柚子以外とドライブに行くのなんて何年ぶりだろう…!心躍らせながらデートがスタートした。


5月3日午後6時。

卯のはドライブデートを楽しみ、花を愛で、ご当地ランチを楽しみ、高校以来の水族館に行った。ドライブを楽しんだ後は都内に戻ってきた。レンタカーを返却しにきた。この後はディナーだ。

ちらりと社用のスマホを見る。社用というのはもちろん夜の仕事用だ。

そこには何の通知もない。

「じゃあディナーに行こうか。」

「はい。」

安心してスマホをしまい、佳明に続く。さりげなく手をつないでときめく。どうかこのまま何も起きませんように…!


5月3日午後9時。

「すごい美味しかった!」

「ああ、お気に入りなんだ。でも、お酒は結局飲まなかったね。」

「うん…。やっぱり呼び出されるかもしれないから…。」

佳明は苦笑する。

「卯のさんの真面目なところ、俺は結構好きだよ。」

「あ、ありがとう。」

「どうかな…。」

佳明が何かを言いかけたと同時に卯ののカバンから着信音が響いた。二人はぎくりと固まり、ぎぎぎぎと卯ののバッグの方を見る。

「…出てくれていいよ。」

「あ、うん。」

慌てて社用のスマホを出すと、電話の前にもメッセージが大量に着ていたようだ。とりあえず電話に出る。ちなみにこの社用スマホには外で怪異の話をしてもいい感じに仕事の話に聞こえるように認識阻害の術がかかっている。

「はい、常磐です。」

『常磐、すまん。』

九条室長の固い声。後ろからは阿鼻叫喚な叫び声が聞こえてくる。

『東京駅に東北新幹線に乗って祟り神が来た。』

「え!?」

『俺も現場に出ているが、複数体いる。』

「そんな。」

『どうやら仙台で祟り神が大量に出たらしい。』

「な、なぜそのようなことに?」

『わからん。わからんが、俺たちは東京の怪異をどうにかするしかない。俺一人では間に合わない。神に対処できるのは…。』

「一級戦闘師だけ…。わかってます。」

卯のはちらりと佳明を見る。穏やかなスマイルを浮かべている。…行きたくない。でも…、電話越しには一般市民たちの慌てる声が聞こえてくる。中には子供のものと思われる甲高い叫び声も聞こえる。

「すぐに行きます。今、銀座ですから…東京駅でいいですか?」

『ああ。来ればわかるはずだ。すでに柚子と胡椒には伝達済みだ。』

「わかりました。」

そこで電話を切って佳明の下へ戻る。

「あの…すみません。仕事に戻らなければいけなくなってしまって…。」

「どれぐらいかかりそう?」

「え?」

「その辺のバーで待ってるよ。昨日の感じだと11時ぐらい?」

「…うん!た、多分…!」

「今日は朝まで一緒にいるつもりだったから。」

「あっ…!?うん!急いで戻ってきます!」

卯のは顔を赤らめてから店を出た。


店を飛び出すと〈待ちくたびれたよ!〉と三毛猫がにゃっと卯のの肩に飛び乗った。

〈一時間ぐらい待機してたんだ!〉

「そんなに?」

〈室長、ぎりぎりまで卯のには連絡しなかったんだ。〉

室長の配慮が胸に響く。大変なことになっているだろうに。荷物から目くらましの札を取り出し、身に着ける。これで周囲からは認識されなくなったはずだ。

「状況を教えて。」

〈何が起きたのかわからないが、仙台あたりで祟り神が確認されただけで5体ほど出た。その内の3体が新幹線に乗ったっていう報告が来た。〉

怪異というのは様々だが人が多いところを好むものもいる。祟り神とは恨みの感情をもとに生まれるものであるから、人に対しての恨みを募らせた結果なのだとしたら人の多い東京を目指してしまうのもわかる。

〈南下する間に力を強めた一体が到着ホームで暴れだして阿鼻叫喚の地獄絵図だ。東北新幹線は停止して駅構内から人を出したところだよ。暴れる一体は室長が対応しているが、その間にもう一体が逃げ出した。〉

「それで私が呼ばれたというわけね。」

卯のは報告を受けながらも人とは思えないスピードで銀座を駆け抜けあっという間に東京駅を視界に捉えた。八重洲口には黒い靄のようなものをまとう巨大な狼のようなものが視えた。周囲は人払いがされているのか人気は少ないが、遠目からスマホを構えている人々もいた。

一般の人からは狼のようなものが新幹線口で暴れているように見えるだろう。禍々しい祟り神特有のオーラは視えないはずだ。

「一級戦闘師、常磐卯の、ただいま参りました!」

「常磐殿!お待ちしておりました!」

祟り神の周囲で包囲網を作っていたのは都職員に変装した超自然現象対策室の式神たちだ。

「状況は!?」

「室長が結界師の手を借りて抑え込んだ一体を鎮魂しているところですが、その隙に抑え込まれていた内の一体が逃げ出し、神田の方に!その際に結界師が負傷したので出せる人手がなく…!」

「一人でやるしかないわけね…!」

ちらりと二体の祟り神と、それを囲む結界師たち、負傷している結界師と治癒術者、大きい方の鎮魂にあたる九条室長を見る。みなこちらに構っている余裕はなさそうだ。

〈胡椒から、祟り神が山手線沿いを爆走して、今神田のあたりだって!〉

「飛ばすしかないわね。」

〈あ、えーっと、うん、わかったよ…。〉

「行くわ。」

「お願いします!」

卯のは強く地面を踏みしめる。一級戦闘師はもれなく全員、高速の空中移動術を持っている。銀座からここまでも人ならざるスピードで走ってきたが、陸路は何かと進行を妨げるものが多いからだ。
卯ののそれは先祖伝来の術で、ちょっと恥ずかしいが卯のはこれ以外の飛行術は覚えられなかった。なぜ中国の仙術を先祖は子孫に受け継いでしまったのか…。

「き、筋斗雲きんとうん!」

〈もう、呼ぶたびに照れないでよ…。〉



ーーーー



祟り神、と聞けば黒っぽいうにょうにょがたくさん生えた巨大な猪を思い浮かべる人も多いだろうが、そんなことはない。神の持つ負の感情が何かのきっかけに増大し、生物に乗り移ったものである。怨念から生まれることがほとんどだ。

何があったかはわからないが、荒ぶる御霊を鎮魂する必要がある。

鎮魂の術が使えるかどうかは、一級戦闘師への昇格のための必須条件だ。神の鎮魂には、神の言葉を理解し、神が言葉を聞くに値すると判断する霊力の高さが必要である。

「見つけた!」

逃げた祟り神は上空から見て狼のような姿をしていた。

〈結界師がいないなら、どうやって動きを止めるんだ?〉

「そんなの、簡単よ。」

卯のは地上に雲を下ろしながら右手を振って杖を握る。そして一振りすると祟り神の登場で曇ってきていた空がピカッと光り稲妻が走る祟り神に直撃した。

足元からは大きな音。近くに雷が落ちたと下界は大騒ぎである。


〈う、卯の…?い、今のはまずいんじゃない…?〉

天候を操る妖術の使用は許可がない限り許されない。そもそも祟り神とはいえ、神に危害を加えることはご法度である。

「大丈夫よ、柚子。だって、休暇中の職員を呼び戻すぐらいの非常事態なんだから。」

〈いや、でも…。〉

地上に降り立つと、そこには黒焦げで瀕死の巨大な狼がピクピクしている。

「神殺ししなきゃ問題ないわ。」

〈ほ、本当に殺してないの?〉

「動いてる。」

〈う、卯の!〉

「私、怒ってるの。」

卯のは杖を地面に突き刺す。

「さっさと鎮魂して、佳明さんのところに戻る!」


その時、柚子が見た卯のの顔は激務で三徹させられていたときよりも据わっていた。

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