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大勢の人が見ている前で寝間着姿の第一王子殿下から結婚の申し込みを受けました

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そんな大変なことになっているとは知らずに、私はカートの腕の中にいた。

カートを思いっきり堪能していた。

何しろ、もう会えないと思っていたのだから。

カートの厚い胸板の上で、幸せを堪能していたのだ。


「リア!」
突然、扉がオーガストによって開けられるまでは。


「えっ」
抱き合っているところをオーガストに踏み込まれて私達はびっくりした。

慌てて離れる。


「何してんだよ」
真っ赤になってオーガストらが突っ立っていた。


「えっ、終わったの?」
私は真っ赤になって聞いた。

「ああ、大貴族共は王子殿下の婚約者を平民リアで納得したぞ」
「必死にリアに念話で呼びかけても来ないから、ベッキーが切れて俺らを派遣してきたんだ」
「ごめん、ちょっと私達の世界に入っていた」
「俺らが苦労している間にイチャイチャしやがって」
「最低!」
なんか言葉が聞こえて行きたが、焦った私にはよく聞こえていなかった。

「すぐに来いってベッキーがお冠だぞ」
「判った」
イチャイチャしていた所にオーガストらに踏み込まれて私は焦りに焦っていた。
そして、そのまま何も考えずに、謁見の間に転移したのだ。

「えっ、ちょっとリア」
カートが寝間着のままなのに。
カートは慌てたが、もう遅かった。

私達は謁見の間の真ん中に転移していた。

もうこうなったらやるしか無い。
カートは唖然としていたが、もうやるしか無いのだ。

「これはこれは皇女殿下、いや、オーレリア嬢と、カーティス、なんだその格好は」
国王は目ざとくカートが寝間着なのを咎めた。

「時間がありませんでしたので」
カートはその寝間着のまま礼をしてくれる。寝間着でも、優雅な姿に私は思わず見とれていた。
そして、私も慌てて横で同じく礼をする。

「カーティス。顔に口紅がついているぞ」
「えっ」
カートは慌てて顔に手をやる。
「なにもついてないわよ」
私が注意するとカートはきっとしてし陛下を見る。

「ふんっ、冗談だ」
陛下は笑って言った。

「リア、何してるのよ。私が必死にあんたの希望を入れてあげたのに」
ベッキーがブツブツ言っているのが聞こえた。

「オーレリア様」
「薬を」
「助けてくれ」
私はベッキーの横にいて腹を抱えて呻いている重臣達にすがられて驚いた。
カートがその手を無慈悲にもはたき落としてくれたが。

「えっ、どうしたの。大貴族様方は」
「アリシア様のポーションを自ら進んで口にされたのよ」
「えええ? 騎士の皆に悪かったと、遅まきながら反省されたの?」
私はベッキーが上手いこと誘導して飲ませたのは知らなかったのだ。

「そうよ」
「さすが上に立つ人は違うのね」
私は感心して言った。

「ベッキー嬢」
「話が違うぞ」
「オーレリア様が是非とも飲んでほしいと言われたと聞いたのに」

「えっ、ベッキー、私はそんな事い・・・・・」
「良いから黙っていなさい」
ベッキーが私の口を塞いだ。

国王は胡散臭そうに私達を見ている。

「オーレリア嬢。平民で嫁ぐならポーションを作って頂けるとのことだったが」
「えっ、良いですよ。それはどちらでも、隠れて・・・・」
「ちょっと黙っていなさい」
私は陛下に答えている途中でまたベッキーに口をふさがれて黙らされた。

「陛下のおっしゃられるとおりです」
取り繕って笑ってベッキーが言う。

「そうですよね」
「はい」
ベッキーが怖い顔で私を睨んだのできたので、思わず私は頷いた。

「陛下。並びに臣民の諸君。この度は私と平民のオーレリアの婚約を認めてくれてありがとう」
カートが突然、寝間着のまま話しだした。

「まあ、この格好は許してくれ。私も今までアリシア殿のポーションで苦しんでいたのだ。自分が直接体験して初めて騎士諸君の苦しみが判った。重臣諸氏も骨身にしみただろう。それで此度のことは許してほしい」
場はシーンと静まった。まあ、殿下にそう言われれば何も言えないわよね。普通は。


「私の母は皆が知っているように、男爵家出身だった。でも、王宮の多くの心無いものに、下賤の者と蔑まれて、いじめられて、最後は王妃に毒殺された」
そう言うとカートは皆をぐるりと見渡した。痛みでのたうち回っていた重臣達も止まる。上位貴族はきまりの悪そうに目をそらし、下位貴族はこころなしか同情したようにカートを見た。

「でも、よく考えてほしい。男爵家はブライトン王国の貴族の過半以上を占めており、貴族の大半は男爵家なのだ。それを下賎のものとはおかしくはないか。そう思うだろう。男爵家の皆は」
カートが聞いた。

「はい。そう思います」
誰も返事しないのでベッキーが返事した。

「ほかはそう思わないのか?」
「いえ、思います」
やっと三々五々ポツポツと男爵の人々が答えた。

「まあ、我が母は、王妃の座を掠め取られた侯爵家出身の嫉妬に狂った王妃に毒殺されたみたいだが。今回リアは皇帝の娘でもあるのだが、平民リアとして私に嫁いでくれることとなった。まあ、実の母は王弟と結婚するみたいだから王弟妃となるし、実の父は帝国の皇帝だ。彼女を平民と呼んでも良いのかとも思うが。
平民が私に嫁ぐということは色々とこれからも軋轢はあるだろう。まあ、リアならばその全てを学園でやったように弾き飛ばしていくと思うけれど」
そう言ってカートが、いやカーティス殿下が私を見た。

えええ! ここで私の話するんだ。別に私はお貴族様を弾き飛ばしてはいないわよ。確かにオリエンとかで、第二王子殿下とかは弾き飛ばしはしたけど・・・・

「私が物心ついた時には母はもういなかった。それに対して弟のアリスターの母は王妃で侯爵家出身だった。弟は周りからちやほやされており、一方私は当時、いらない王子として王宮内でいじめられていた。やけになった私は近くのダンジョンに潜り込んだ。こんな小さなダンジョンなら私一人で十分だろうと無謀にも思ったのだ。ムシャクシャしていたというのもあるが。

しかし、ダンジョンは9歳の王子では手に負え無かった。私はまたたく間に、魔物に囲まれて、半死半生になり、もう魔物たちに殺されるだけになっていた。

その時だ。リアに出会ったのは。

驚いたことに当時7歳と私よりも小さかった彼女は一瞬で魔物共を弾き飛ばしてくれたのだ。剣に少し自信のあった俺が全く刃が立たなかった魔物たちをだ。

そして、唖然として虫の息の私にアリシア殿の作ったポーションを私に飲ませてくれたのだ。私はアリシア殿のポーションの威力をこの身で体験した。半死半生だった体は一瞬でもとに戻った。

私は7歳のリアに助けられたのだ。

そして、『こんな危険な所に何も出来ない子供が一人で来てはいけないでしょ』
と当時9歳だった私が、7歳のリアに説教されたのだ」
カートが私を見て微笑んだ。

止めて!私の黒歴史話さないで。王子だって知らなかったんだって。なんかもっと酷いこと言ったような気もする。私は真っ赤になって悶た。こんな、皆の前で言うな!


「私は7歳のお子様にも馬鹿にされる身なのかと呆然とした。
私は自分の無力さを痛感したのだ。

なんと7歳のリアはアリシア殿に言われて薬草を1人で採りに来ていたのだ。ゴブリンとかオークとかうようよいるダンジョンにだ。『騎士達にぬくぬくと守られているお貴族様と違って平民は生きていくためにはこれが普通なのよ』と言われて世間知らずの俺は平民とはこのように強いものなのかと驚いたのだ。

もっとも後でこんな事が出来るのはリアだけだと判ったが」
カートが笑ってまた私を見た。

もう止めて、その時は7歳だったんだって・・・・不敬も何も関係ない。ジルおじさんに怒られるまでは平民の子供は小さい時から母の手伝いでダンジョンに入って薬草採って来るのが普通だって思っていたんだって。母もそうしてたって言っていたから。


「何しろ私から見て恐ろしい魔物たちがリアの姿を見るなり逃げていくのだ。7歳のガキに助けられた私は実力差に唖然とした。それにリアは7歳なのに、飯を作るのも洗濯も皆一人てやっているのだ。私は、私をいじめてくれていた侍女達に生意気だと思いながら、全てやってもらっていたのに、私より2つも小さいリアは全部一人でやっているのだ。

私はそれまで、アリスターと比べて与えられる教師も最低、侍女たちも碌なのがいないと全て他人のせいにしていた。出来ないのは環境が悪いのだと。

でも、リアは一人でダンジョンに潜って一人で簡単なポーションを作り、ご飯に洗濯に全て一人で出来るのだ。私はほとんど何も手伝えなかった。

私は自分の力のなさを痛感したのだ。いかに自分が努力していなかったかもよく判った。
いらない王子と言われて当然だった。こんな小さな7歳の女の子に馬鹿にされるくらい何も出来ないのだから。

私はそれから死にもの狂いで努力した。全てはリアの隣に立てるためにやってきたんだ。
私が今あるのは全てリアのおかげだ。リアの足手まといにならないように、必死に剣技も政治もがんばってきたんだ。

最もリアはさらにパワーアップしていたが。大貴族の子息令嬢がたくさん闊歩している王立学園でも、決して名前負けせずに、いつの間にか私やアリスターを押しのけて、今や学園の中心人物になっている。
成績も優秀で、学年で一番だ。
もっとも、礼儀作法はまだまだだと礼儀作法のアビゲイル先生には言われているが、別に王妃の仕事が礼儀作法ではあるまい。もっと大切なことがあるはずだ。

ポーションでも超特級ポーションまで作れるようになって薬師としての腕も世界トツプクラスになっていて、いつの間にか大半の騎士を傘下に収めているのは周りで警護してもらっている騎士諸君はよく知っているはずだ。私もとある方の怒りのポーションで七転八倒していたのを、リアのポーションで一瞬でこのように治ってしまった。それだけでもリアが王国の宝であるのは言うまでもなかろう」

私はもう真っ赤になって何も言えなかった。カートも何もこんな皆の目の前で、そんなに褒めることないのに・・・・。私そんなに褒められることしていないし、ベッキーとかプリシラとか周りの友達が私をもり立ててくれただけだから。もう止めて。学園の主みたいに言うのは!


「私は9歳の時からそんなオーレリア嬢の横に立つことだけを目標にしてきたのだ。
皆にも見届けてもらいたい」

真っ赤になって悶え苦しむ私を見るとカートが微笑んだ。いや、これは王子の嫌な笑いだ。絶対に。そう思って私は警戒しようとした。
そのカートがいきなり私の前に来て跪いたのだ。

えっ、なになに何! 私は驚いて固まってしまった。


「オーレリア嬢。初めて会った時からあなたが好きでした。まだまだ足りない部分もありますが、一緒にこの国ブライトンを盛り上げていって頂けませんか」
カートはそう言って手を差し出してきた。

えっ、今、あんな恥ずかしいことを言ってくれた後に、み、皆の前でやるの?

「は、はい」
パニックになっていた私はそう言って辛うじてカートの手を取ることしか出来なかった。

その瞬間それを見ていた周りの人たちから大歓声が上がった。

でも私はそれどころではなくて、もう恥辱にまみれて何も見えなかった。

「リア」
固まっていた私はカートに思いっきり抱かれていた。

「ヒューヒュー」
「ブラボー」
「リア、ばんざい」
「カーティスやったな」
口笛が鳴り響き、大声援と拍手が謁見の間を満たしたのだ。


もうどうにでもなって!

私はやけになって私を抱きしめるカートの胸の中でカートにしがみついていた。

私を抱きしめるカートの体が暖かかったのは覚えている。
声援と拍手がいつまでも続く中、私はそのカートの胸の中で涙目でカートにしがみついていたのだった・・・・

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ここまで読んでいただいてありがとうございました。
明朝完結予定です。
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