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白馬の騎士に脅されてその手を取ってしまいました
しおりを挟む私は両親をエンゲルの奇計によって攻め込まれて殺されて国を失った。
そして、婚約者の王太子に婚約破棄された。
その王太子はあろうことか、両親を殺してくれたエンゲルに売ろうとしてくれたのだ。
そのまま売られたら、明るい未来なんて無くて、小説通り弄ばれて処刑されただろう。
そこに現れたのが、幼馴染のルヴィだった。ルヴィはなんと絵本通りに白馬の騎士に乗って現れてくれたのだ。
それから何度も私をすくってくれた。
私はそんな資格なんて無いのに、行く宛など無くて出来たら帝国に行ってルヴィと一緒に生活できたら良いなと、夢を持ってしまったのだ。
でも、小説の悪役令嬢が夢なんて持ってはいけなかったのだ。
ルヴィはなんと帝国の第一皇子殿下だったのだから……
私は前世も浮いた話はなく、この世界では婚約者に裏切られて、せっかく幼馴染にはかない夢を見たのに、それが叶わなくなってしまったのだ。
私はベッドに突っ伏して泣いていた。
そしてそのまま、寝てしまったのだ。
私は夢を見た。
子供の頃だ。そこには9歳のルヴィがいた。ルヴィは9歳でも見目麗しくて、イケメンだった。
「俺が格好いいのなら、いつかリナのお婿さんにしてくれるかい?」
ルヴィが聞いてきたのだ。
「うーん、リナのお婿さんは世界一の騎士さんが良い」
でも、私はその時は私はお姫様だった。この国では一番尊き存在なのだ。そんじょそこらのイケメンに嫁ぐつもりはなかった。女心に夢を持っていたのだ。私のよく読んでいた本の中の物語に世界一の騎士になって幼馴染を向かえに来てくれる話があった。
「えっ、世界一の騎士?」
何故かルヴィは露骨に嫌な顔をした。
「ルヴィは世界一の騎士になって白いお馬さんに乗って私を向かえに来て。そうしたらお嫁さんになって上げる」
私の言葉にルヴィはしばらく考えていたが、なにか決心したみたいだった。
「判った。頑張るよ」
頷いてくれたのだった。
そう言えば、ルヴィは私を助けてくれる時に白馬に乗ってきてくれたんだった。
私は思い出していた。ルヴィなりに少しは考えてくれたのかもしれない。
でも彼は大国、帝国の第一皇子だ……
その夢が叶うわけはない。
最悪の気分で、私がまどろみから目を覚ました時だ。
ドンドンドンドン
とノックの音がしているのに気付いた。
でも、私の顔は泣いた後で悲惨な状況になっていたし、出たくなかった。
ほっておけばならなくなるだろう。
そう思ってほっておくと、しばらくして音はならなくなった。
私はホッとした。
「でも、これから帝国に行ってどうしよう?」
船はいつの間にか出港したみたいで、開いている窓からは満月に照らされる海原が見えた。
夜の海の航海は始めてだった。
私は窓辺に立って、外を見た時だ。
いきなり、人影が上から落ちてきたのだ。
「えっ」
あまりのことに私は声を上げられなかった。
私は飛んできた影に抱き抱えられてベッドに押し倒されたのだ。
「良かった、生きていたんだ」
そこにはホッとしたルヴィがいたんだけど……
「な、何なのよ。いきなり空から落ちてきて」
「いや、ノックしても出ないから心配になって」
慌てて立ち上がって私を起こしながらルヴィは言い訳した。
「だからって、外から入って来ることないじゃない! ルヴィ、落ちたらどうするつもりだったのよ」
私は怒って言った。
「仕方がないだろう。リナが心配だったんだ。俺を部屋に入れてくれないし」
ルヴィがすねて言ってくれた。
「だって、だって、ルヴィが帝国の第一皇子だっていきなり聞かされた身になってよ」
「ごめん、リナが知らなかったなんて知らなかったんだ。てっきり君の両親から聞いているものだと思っていた」
「えっ、両親はやっぱり知っていたんだ」
「それは知っているでしょ。元々、俺の両親と君の両親は学園の友人だったらしいから」
「えっ、そうなんだ」
私は聞いていなかった。
「エンゲルの国王もメンロスの国王も君の両親と同じ学年にいたそうだよ」
「そうなんだ」
私はそれも初耳だった。
「男たちは皆君の母さんを狙っていたそうだから。今回のエンゲルの侵攻も昔、君の母上をハウゼン国王に取られた腹いせというのもあるし。だから、エンゲルの国王は君に執着しているという話もある。俺は絶対に君は離さないけれど」
ルヴィが言ってくれた。
離さないというのは、帝国で守ってくれるということよね?
私は一人で納得したときだ。
「リナ、君は子供の頃約束したことを覚えているよな?」
「えっ、何の話?」
「『世界一の騎士になって白いお馬さんに乗って私を向かえに来て。そうしたらお嫁さんになって上げる』っていうやつさ」
「えっ、そんなの覚えていたの?」
私は呆れて言った。
「そんなのってなんだよ。俺は嫌だったのに必死に剣聖の大叔父について剣術を習ったんだ。それも、君と結婚するためにだ! なのに、剣聖になったら、君は勝手に婚約していたし」
「えっ、いや、そんな子供の頃の話、殆ど忘れていたし、あれからほとんど連絡もくれなかったじゃない」
私が文句を言うと
「仕方ないだろう。剣聖になる特訓は本当に大変だったんだ。やっとなれたと思ったら君は婚約しているし、本当に最悪だった」
むっとしてルヴィは言ってくれたんだけど。
そう言われると、なんとも言えなかった。
「俺は君との約束を守って剣聖になって白馬に乗って君を向かえに来たんだ。なにか言うことがあるだろう」
「そんな事言われたって、あなたは帝国の第一皇子だし、私は亡国の王女よ。全然釣り合わないわ」
「はああああ! 違うだろう。約束を守ってくれて有難うだろ」
何かルヴィが怒り出したんだけど。
「でも」
「でもは禁止」
「だって」
「立っても禁止」
「えっ、そんな……」
私は言葉が無くなった。
「俺は幼馴染の女の子との約束を守って迎えに来たんだ。約束は約束だろう。俺も君も独身なのは変わらない」
ルヴィは言ってくれたんだけど……
その上でいきなり私の前に跪いてくれたのだ。
ええええ! なにする気なの?
「アデリナ・ハウゼン。俺、エルヴィン・バイエルンは子供の時に君と約束した事を成し遂げて、今、ここに君を向かえに来た。どうか、俺と結婚して欲しい」
ルヴィは手を差し出してきたのだ。
「えっ、でも、あなたは帝国の第一皇子で」
「それは関係ない。皇子だろうが、王女だろうが、その時の約束の中には無かった。
約束の中にあったのは、君が俺に世界一の騎士になって白馬に乗って迎えに来い。そうしたらあなたのお嫁さんになってあげるとしか、君は約束していない。だから、俺がたとえ、乞食だろうが、悪魔だろうが、魔王になっていても俺を拒否できない。俺は世界一の騎士になってそれも白馬に乗って君を向かえに来たんだから。約束を守った俺が要求したら君は拒否できないんだ。確か指切りしたはずだぞ。嘘ついたら針千本飲ますって」
「それは、そうだけど……」
「君が出来ることは俺の手を取ることしか出来ないんだ」
ルヴィは言ってくれた。
「さあ」
なにかおかしい。
「でないと針を千本飲ますぞ。飲まされたいのか?」
そう言ってルヴィが手を差し出してきたのだ。
針千本飲まされるわけには行かない。私は勢いに飲まれてその手を取ってしまったのだった。
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