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魔王の恐怖よりも筆頭魔導師の恐怖

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翌日魔導学園は魔王復活の噂が駆け巡り騒然としていた。

緊急事態に招集された生徒のいたところは空いており、それが更に不安を煽った。

「正義の騎士様が負けられたって」
「あの無敵のジャスティンが」

ボフミエ魔導国の誇る世界最強騎士である正義の騎士ジャスティン・ギンズバーグが負傷したとの噂でその不安は更に強くなったようだった。
皆不安そうにしていた。


その不安を見越してか急遽全員が講堂に集められた。

「何で講堂に集められるんだろう」
「対魔王戦のために総動員令がかけられるそうよ。私達も戦場に行かされるんだって」
途中でで会った隣室のケチャが訳知り顔で教えてくれた。

「えっ、そんな」
それを聞いて某伯爵令嬢が真っ青になっていた。

そらあそうだろう。剣さえ持った事のない貴族令嬢が戦場に動員されるなんて聞いたら青くなるのも仕方がないだろう。

最近剣術等で鍛えられている私でさえ戦場に送られると聞けばどうしようと不安になるのだ。

「はい。皆さん。おはようございます」
舞台の中央にアメリア学園長が上がって話しだした。

「返事がない。もう一度、おはようございます」
「おはようございます」
一同ボソボソと返事する。

「どうしました。その元気のない様子は」
学園長は皆を見渡した。

「学園長。魔王が攻撃してきたって本当ですか」
不安そうに一人の生徒が叫んでいた。

「魔王かどうかは判らないけれどモルロイの暴虐王カーンがカロエの街を攻撃してきたのは事実です。この魔導学園を受験しようとしていた100名もの生徒がその襲撃で殺されたのも事実です。そして、そのカーンは正義の騎士ジャスティンが追い払ってくれました」
学園長は淡々と実際に起こったことを教えてくれた。

「ジャスティン様がやられたと聞いのですが」
別の生徒が叫んだ。

「やられたと言うか、カーンとの戦いで追い払ったものの傷をおったのは事実です。でも命に別状はありません」

「やっぱり」
「このままじゃまずいんじゃ」
皆てんで別々に話しだした。

「静かにしなさい」
学園長が叫んでいた。その威圧に満ちた姿に一同静まる。
さすが大国テレーゼの皇太子だ。

「今回の件について魔導省から大賢者のジャルカ様にお越し頂きました。ジャルカ様から詳しい状況について説明頂きます」

学園長の紹介とともに老魔道士が現われた。

「ジャルカ先生」
私は思わず声を出していた。それはクリスと一緒に魔術を教えてくれたジャルカだった。

「紹介に預かった。ジャルカです。みなさんが魔王を怖れて騒いでいらっしゃると聞きまして出て来た次第です」


「魔王どうこう言う前に、世界では怒らせてはいけない人物が3人いると噂されていたのをご存知ですか。先程答えられた方。どうぞ」
ジャルカ先生は最初に学園長に質問した生徒を指差した。

「えっと、怒らせてはいけない人ですが、赤いいえ、アレクサンドル皇太子殿下ですか」
女生徒は慌てて言い直した。

「そう一人は赤い死神ですな。彼によって滅ぼされた国は片手では収まらないでしょう。それと」
「マーマレードの皇太子殿下です」
その横の生徒が答えた。

「そう、暴風王女ですな。それともうひとりは今回カーンに遅れをとった正義の騎士、ジャスティンです」
そう言うとジャルカ先生は皆を見回した。

「赤い死神を怒らせるとどうなりましたか、タール・トリポリ皇太子殿下」
「はい。王宮の屋根が吹き飛ばされました」
あてられた皇太子殿下は青くなって応えていた。

「そう。彼を怒らせると何をしでかすかわからないんです。そこの伯爵家のあなた。あなたの父上が彼を怒らせるとどうなるか判りますか」
「邸宅が吹き飛ばされるんですか?」
「それで済めばいいですが。とある国は国全体が火の海になったと聞いています」
皆シーンとした。

「この3人に対しては、ノルディンの皇帝陛下もドラフォードの国王陛下も一目置いているのです。皆さん理解していますか。その3人が今、どの国にいるのかを」
「このボフミエ魔導国です」

「そう、彼らはすべてこのボフミエ魔導国にいるのです。その事は言い換えれば世界最強国家がボフミエ魔導国ということです」
そうなのだ。その3人が揃えば基本は世界最強のはずだった。

「でも、カーンに、正義の騎士が負けてしまったと皆さんはショックを受けていらっしゃるのでしょう。でも、我々にはあと赤い死神と暴風王女がいるんです。カーンもすたこらと逃げ出したのはその二人を相手にするのはまずいと思ったからでしょう」

確かにジャルカ先生の言うとおりだった。魔王が自信があればその地を占拠し続ければよいし、もっと自信があればこの地ナッツァに直接来ればよいのだ。

「そして、皆さん。判っていますか。お三方上にどなたがいらっしゃるか」
ジャルカが皆を見渡す。
「はい。そこの貴方」
「当然筆頭魔導師様です」
「そう。筆頭魔導師様です」

そう言うとジャルカが合図した。目の前に巨大な映像が現れる。それは地肌が黒く焦げた爆発か何かの跡のようだった。それもとてつもなくだだっ広い。

「皆さん。これが何か判りますか」
ジャルカ先生はみんなを見渡した。

「これは元々マーマレードにあったシャラザール山の跡です」
言うやジャルカ先生が画面を変える。

そこには大きな山塊があった。周りは緑の木々が豊かに生い茂っていた。

「マーマレードの王弟反逆時に1個大隊の反逆者に囲まれた筆頭魔導師様は衝撃波を放たれたのです。その結果がこちらの画像です」
前の画像に戻す。緑に満ちた山々は生命の何も無い荒涼とした廃墟と化した爆発跡になっていた。

「その大隊の全員が即座に降伏、筆頭魔導師様は1人も殺すことなく、王弟反逆を抑えられたのです。そして、この前皆さんを餓死させようと画策した4大悪徳商会がどうなったか、皆さんご存知ですよね」

皆頷いた。

「そう、筆頭魔導師様の御不況をかった4大商会は雷撃一閃で殲滅させられたのです」
皆シーンとした。そう、筆頭魔導師様は世界最強なのだ。

「クリスティーナ様は見た目は華奢で弱そうに見えますが、そのお怒りを買うとこの様になってしまうのです。そう、我が国の3大凶器の上には筆頭魔導師様がいらっしゃるのです。魔王ですら恐怖を感じてしまうほどの」

「筆頭魔導師様は普段は温厚、人の死を極端に嫌われます。今回も暴風王女と赤い死神が逆侵攻を提案しましたが、却下されました。筆頭魔導師様は兵士の命でさえ危険にさらされるのを忌避されるのです。しかし、ある一線を超えるとこのようになります」

ジャルカ先生の指す大地は荒涼とした焼け爛れた大地だった。

「愚かな魔王は絶対に怒らせてはいけない筆頭魔導師様に楯突いたのです。魔王の未来もこうなるるのは間違いありません。みなさんもお父さんお母さんにはくれぐれも軽挙は慎むようにお伝え下さい。筆頭魔導師様の下には沸点のとても低い暴風王女と赤い死神が控えておることをお忘れ起きなきように」
ジャルカ先生はそれだけ言うと帰っていかれた。

その話の後には魔王の恐怖はどこかに飛んでいってしまった。国の中にはまだ、2大凶器といわれた暴風王女と赤い死神が残っており、その後ろには地上最強の筆頭魔導師様がいらっしゃるのだから。

それよりもそのお三方を怒らせた方が怖かった。

私としてもそんなに怖い方に助けてほしいなどと口が裂けても言えなかった。



アルバートが助けてもいいと言ったのは冗談に決まっていた。私に賭けで負けた形になっているからそう言わざるを得なかったのだ。

そして、そんな方に仕えているアルバートは凄いと思った。

そんなに沸点の低い方ならば、少し間違えただけて゜首が飛びそうで、おっちょこちょいの私は絶対に仕えられそうにないと私は思った。
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ソニアの友だちが聞いたら涙目になりそう・・・・???

というかそれよりもソニアは既に凄いことをやらかしています・・・

知らぬが仏・・・・
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