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筆頭魔導師は王女の侍女に両親の仇を討たせようとしてくれました

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爆発の後残された兵士達は呆然としていた。一瞬で本陣が消滅したのだ。
そして指揮官の第一王子がいなくなったのだ。

「失礼いました。クリス様。残りの兵士達も殲滅いたしましょうか」
薄ら笑いをしてアレク様が言った。

本当に赤い死神そのものだった。

兵士達の顔がひきつるのがよく見えた。絶対に赤い死神だけは敵に回したくなかった。

「アレク様。将がいなくなったのですから、兵士達は降伏させれば宜しいかと」
クリスが嗜めるように言った。クリスは凄い。あの赤い死神を嗜めるなんて。

「判りました」
アレク様はうやうやしくクリス様に頭を下げると

「生き残った兵士共へ。喜べ。筆頭魔導師様のお慈悲が示された。直ちに武器を投げ出し、降伏せよ」

アレクの言葉とともに、兵士達は我先にと武器を投げ出して平伏した。


「アレクサンドル様。本当になんとお礼を言ったら良いのやら」
リーナ様がアレク様に頭を下げた。

「礼を言うならば筆頭魔導師様にするが良い。それとそこのドジっ子娘にな」
アレク様がすげなく言う。

「クリス様本当にありがとうございました」
リーナ様が頭を下げる。

「ソニアもありがとう」
私にも頭を下げてくれた。

「リーナ、何を言っている。まだお前らの恨み晴らしてはいないぞ」
横からジャンヌが言った。

「そうだ。まだ、巨悪が残っているな」
アレク様も頷く。

「巨悪とは?」
リーナ様が首を傾げる。

「今回の件。元々ソニアの願いを叶えてやるという約束だ」
ジャンヌが私を見た。

「巨悪ってマエッセンの国王のことですか?」
驚いて私は聞いた。

「そうだ。調べた所マエッセン国王なるもの、淫乱悪逆国王と呼ぶにふさわしく、気に入った人妻を次々さらい、酒池肉林を楽しんでおやるとか。国民からも愛想をつかされておると言うではないか」
ジャンヌは嫌悪感を出してつばを地面に吐いた。
えっ、王族の方がそんなはしたない真似するなんて、と私は思ったが、ジャンヌの言う通りだ。

「人の上に立つものがそのようなことをするなど許されません」
クリス様が冷たい声で言った。

「リーナ様。あなたの母上もあの国王の欲望のために襲われて命を落とされたとか。ソニアのご両親もその王妃殿下を守って命を落とされたと聞いています。淫乱国王の欲望の為に親を殺されたお二方の無念の程、如何程のものか。そのような悪逆非道な施政者を許しておくわけには参りません。ここは戦神シャラザールにお願いして・・・・」

「お、おやめ下さい」
クリスの言葉を途中で慌ててアレク様が遮った。ゼイゼイ息をしている。
どうしたのだろう?そこはそんなに必死になるところだろうか?
私はよく判らなかった。

「どうされたのですか。アレク様。私は言葉の綾で言ったまでですが」
クリス様も不思議そうに聞いてきた。

「いえいえ、クリス様。戦神シャラザール様のお力を借りるまでもなく、そのような悪逆非道な王は、私が退治いたします」

「いえ、アレク様。ここは両親を国王に殺されたリーナ王女とソニアに仇を討たせるべきだと私は思うのですが」
えっ、私達が仇を討つって事?でも、か弱い私達があの欲望にまみれた国王を退治できるのだろうか。


「クリス様。お心は嬉しいのですが、私達の力ではマエッセン国王を弑することは難しいのでは」
「そう言う心配は不要です。アレク様とジャンヌお姉さまがお膳立てをしていただけるでしょう。あなた方は、最後に悪逆非道な王に鉄槌を下されるのが良いかと思いますが、如何ですか」
クリス様はリーナ様と私を見た。
「なんでしたら最後のトドメはあなた達に代わってあなたの騎士とアルバートにさせても良いのですから」

「しかし、クリス様。アルバート様は関係のない第三者ではありませんか。そのような方に手伝ってもらうわけには」
クリスの言うことはもっともだったが、何の恨みもないアルバートに仇を討ってもらうわけにいはいかなかった。

「いや、ソニアに手を出そうとした段階で、私は許せない。ぜひとも手伝わせてもらいたい」
アルバートがきっとして言い切った。

「そうだぞ。ソニア。そもそもお前に負けたのはアルバートなのだから、当然アルバートにも責任はある」
横からジャンヌが言ってきた。
「そうよ。ソニア、ここはアルバートに後ろに控えてもらうのが良いと思うわ」。
はるか別次元にいらっしゃるお二人に言われては私はただ従うしか無かった。

父と母を夢の中で殺したごろつき共に命じた大本のマエッセン国王。今までリーナ王女に圧力をかけて側室にしようとしたマエッセン国王。強大な国力を背景にして圧力をかけてきたマエッセン国王にまさか仕返しが出来るとは思ってもいなかった。
小国インダルなんてマエッセンの前には吹けば飛ぶような国力でいつ蹂躙されるかといつも不安だった。一昨日まではマエッセン出身の王妃に鞭打たれ、もう二度とクリスらとは会えないと思っていた。こんな幸運な状況になるなんて夢にも思っていなかった。


「では宜しいですね」
クリス様はリーナ様と私の顔を見た。
私とリーナ様が頷いた。果たして本当にそんなにうまくいくのだろうか。
私はあまりにもうまく行き過ぎて返って心配だった。
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