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王女の侍女の怒りを引き継ぎ筆頭魔導師がマエッセン王もろとも王宮を殲滅しました

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「アレク様。マエッセン国王に最後通牒を」
「はっ、直ちに」
クリス様の言葉にアレク様が頭を下げて答える。いつ見てもシュールな場面だ。何故傲岸無比な赤い死神がクリス様に頭を下げるんだろうと私は不思議に思った。

アレク様が手を振ると目の前に大きな画面が現れた。

「わっはっはっはっ」
その大画面に馬鹿笑いする巨大な豚が映った。私は見るに堪えない醜い肉塊を見て驚いた。

アレク様が舌打ちするのが聞こえた。

「これでリーナもわしのものじゃ。その美しい肢体を隅々までじっくりと味わってやるわ」
汗でテカっている脂ぎった欲望にまみれた顔が映った。
この豚は私のリーナ様になんてこと言うんだ。

リーナ様は恥辱のあまり青くなり、クリス様の顔は怒りに震えた。

「アレク様。これは」
「マエッセン国王のようですな。気色の悪い」
二人は汚いものを見るように画面を見つめた。


「ん、何じゃ貴様らは」
画面を見て驚いた肉塊が言った。この男がマエッセン国王なのか。私の父母はこの豚の欲望の為に殺されたのか。私は怒りが湧いてきた。こんな豚のために両親は殺されたのだ。


「汚らしい豚じゃな」
馬鹿にしたようにアレク様が見下した。さすがアレク様。良く言って頂けた。さすが傍若無人の赤い死神。絶対に声には出来ないが、私はアレク様を絶賛した。

「貴様何奴じゃ。余がマエッセン国王と知っての狼藉か」
醜い肉塊はやはりマエッセン国王だったようだ。怒り狂った顔もまた醜い。

「豚は礼儀も知らぬと見える」
アレク様は吐き捨てるように言ってくれた。

「何を申しておる。貴様も殺されたいのか」
豚が大口を吐いた。これで処刑は確実だろう。私が手を下すまでもなく、アレク様が処断していただけるかも知れない。
画面の横の男が青くなって固まっているのが見えた。その男はアレク様の正体を知っているのだろう。

「減らず口の減らぬ豚じゃな。このまま私が爆炎魔術で城諸共、火の海に変えてやろうか」
アレク様は冷たい目で豚を見下した。

「何じゃと、黙って聞いておれば好きなことを言いおって、貴様こそ、男娼にしてその美しい顔をヒイヒイ言わせて・・・・何じゃ」
その大口を開けている豚に隣の男が慌てて手を引いて何か言った。

「何じゃと赤い死神じゃと・・・・・アレクサンドル・ノルディン皇太子殿下」
豚の顔は驚愕に歪んだ。

「どうした、マエッセン国王。私を男娼にして喜ばしてくれるのか」
絶対0度の冷たい視線でアレク様は豚を見た。

「いえ、その様な滅相もない。あなた様が名乗られもせずにいきなり酷いことをおっしゃられるのでつい口が滑ってしまいました」
マエッセン国王は下手な言い訳をした。トリポリ国王のようになりふり構わず平伏しておけば良いものを。私はこの豚が詰んだことを知った。

「フンッ口数の減らぬ豚じゃな」
「人のことをブタブタ豚、うるさいですぞ。私はマエッセン国王ハマーじゃ。せめてそう呼んでもらおう」
豚が怒った。こいつはアレク様の前でも気概があるようだ。絶対に通用しない下手なプライドが。


「ふん、どうしよもないプライドだけはあるのか。良かろう、ハマーよ。私はボフミエ魔導国外務卿アレクサンドル・ボロゾフだ」
「何故一国の外務卿風情が他国の国王を呼び捨てにするのだ」
豚が言った。本当に豚だ。アレク様にそんな事を言うなんて。世間の評判を聞いたことがないのか。こいつは。

「私に対してそのように言うとはトリポリ国王並みじゃの」
アレク様が笑って言った。

「メッ、滅相もござまいせん。マエッセン国王などと比べてくださいますな」
慌てて後ろからトリポリ国王が叫ぶ。

「そうか、私がボフミエ魔導国の外務卿として最初に訪問した時はけんもほろろの対応だったが・・・・」

「その時の事は事務官の連絡不足でして、私めがアレクサンドル様を蔑ろにするなどありえないではありませんか」
今にも平伏しそうな状態でトリポリ国王は必死に頭を下げた。

「これはこれはトリポリ国王ではないか。いつから貴様の国はボフミエ魔導国の属国になったのだ」
馬鹿にしてマエッセン国王が言った。こいつは本当に馬鹿だ。

「ふん、お前は本当に馬鹿だな。手違いでアレクサンドル様のご機嫌を損じただけで我が宮殿は破壊されて大変だったのだぞ」
「トリポリ国王」
その言葉にアレク様が氷の視線をトリポリ国王に向けた。

「ヒィィィぃ。お許しを。つい口が滑ってしまいました」
前に出ていたトリポリ国王は慌てて平伏した。

「アレク様。どういうことですか。その様な事は私は聞いておりませんが」
冷えた声でクリス様が言う。

「いえ、これはその」
アレク様が慌てだした。私は信じられないものを見た。赤い死神が必死に言い訳している


「何をしておるのじゃ。仲間割れなら他でやってくれ」
それを見ていたマエッセン国王が言った。

「まあ、焦るなハマーよ。貴様の処分はもう決まっておるのだ」
アレク様が顔をもとに戻して言った。

「処分とは何じゃ。処分とは。我がマエッセン軍はボフミエと同じくらいの兵力がいるのじゃぞ。場合によっては一戦交えるが」
豚が怒って言った。

「あっはっはっはっ」
それを聞いてアレク様が笑った。

「何がおかしいのじゃ」
「貴様らの主力はもう我らに降伏したわ」
「何じゃと、その様な馬鹿な」
豚は焦っていった。

「嘘だと思うならばこれを見よ」
アレク様は画面を変えると緑の豚のマークを付けたトリポリ国王軍によって収監される魔エッセン国軍兵士が映し出された。

「な、何じゃとまさか。我が息子は」
「貴様の息子は我らに逆らったので処断した」
豚に対してアレク様が答える。

「そんな馬鹿な」
豚は唖然とした表情をしていた。

「我らボフミエ魔導国はインダルのリーナ王女にお味方することを決断した。その我軍に対して攻撃してきた貴様の息子を処断、残りの兵は速やかに降伏したのじゃ」
「な、何じゃと・・・・・」
豚は考えがまとまらないようだった。

「貴様にはインダル国前王妃の襲撃及び殺害容疑並びに国王殺害容疑、リーナ王女誘拐未遂、奴隷所持禁止法違反、麻薬取引禁止令違反により、処刑することが決まっておる」
アレク様が冷酷に言い渡す。

「何を言う。貴様らに決められることではないわ。インダルの前王妃アユーシか。余の前にあられもない姿を晒して余の一物でヒィヒィ泣かしてやったわ」

豚は脂ぎった顔でとんでもないことを言った。そんな訳はない。王妃様は夢の中で自決されたのだ。この豚の前にその姿を見せることも無かったのに、なんてこと言うんだ。それもお子様のリーナ様の前で。こいつがリーナ様を望んでいたことなど信じられなかった。そもそもきれいで美しい王妃様を侮辱するなど許せなかった。すべての事が頭の中を去来し、私は切れた。


「王妃様を汚すな」
そして、その場でマエッセンの豚めがけて何も考えずに、障壁で攻撃していた。

そう、それが画像であることをすっかり失念していた。

私の障壁は画像を素通りした。

その瞬間私はそれが単なる画像だったと理解した。

その障壁は前にいた降伏したマエッセンの兵士達を弾き飛ばしていた。

皆唖然として私を見ていた。

私は穴があったら入りたかった。

「そこな娘は何をしておる。そこからここまで攻撃が届くとでも思ったのか。本当に馬鹿じゃの」
マエッセン王は高笑いをした。

私は恥辱に震えていた。とんでもない事をしたのは事実だが、両親を殺した豚に笑われるのだけは許せなかった。

「大丈夫よ。ソニア」
よってきたクリス様が私を抱きしめてくれた。

「クリス!」
私はクリスの肩に顔をつけた。悔しくて涙を流すのを我慢しようとしたが、涙が後から後から漏れてきた。

「ソニア、あなたの怒り、私が引き受けます」
クリスは感情を抑えて言ってくれた。その姿は何か決断したような重々しいものがあった。


「なんじゃ。その方が赤い死神らの傀儡のクリスティーナとかいう筆頭魔導師か」
醜い豚は更に欲望に満ちた目で私達を見た。

「その方と先程愚かな魔術を使った女の二人を同時に愛でてやっても良いぞ。二人して余の一物でヒィヒィ言わして」
「ええい。黙れ下衆!」

クリスの怒りが直ぐ側にいるのでよく判った。
凄まじい怒りのオーラがクリスを中心に渦巻いていた。
クリスは男をにらみつけるや、手を空に伸ばした。

それは一瞬のことだった。


そして、クリスの手から光が空を切り裂いた。

周りが真っ白になり凄まじい光の奔流が空に吸い込まれた。

私は目の前で見て初めて何故アレク様がクリス様に従うのか理解した。
そう、この巨大な力の前に私達は絶対にかなわない。そう思わせるほど圧倒的な力だった。



「はっ、何度やってもそこからここには届かんわ」
豚が馬鹿にしきった顔で笑い飛ばした。

本当にこいつは馬鹿だ。私は豚を憐れみを持った目で見下した。

「えっ、そんな馬鹿な・・・」
そう言って馬鹿にしきった顔が一瞬で驚愕に歪んだ。

辺りが一瞬で白くなる。

驚愕に顔を歪めた豚も一瞬で光の炎に包まれた。

「ギャーーーーー」
悲鳴が聞こえたように思ったのは気のせいだったかも知れない。


凄まじい光の奔流の中、全てのものが一瞬にて燃やし尽くされたのだった。

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ここまで読んで頂いてありがとうございました。
最後はクリスの一撃でした。
まもなく物語も終わりです。

ソニアとアルバートの愛の行方はどうなるのか。
今夜更新予定です。

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