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おデブ姫・チェラム解放を宣言する

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「うーん。おいしい」
朝日の中、ケーキを前に至福の顔をして食べているハルがいた。

その横では疲れ切ったチンが地面に座り込んでいた。
投影術を使ってハルの体を大きく投影したのだが、
さすがになれないことをやると神と言えども疲れるのだ。

火を吐く映像に合わせて火をつけさせたり、
木を切り倒したり(これはチン自体がやった)
堰を切らせたりチンは本当に疲れた。

帝国軍の捕虜は武装解除して一か所に集めたが5万人のうち大半はチェラムの人間だった。

「それでは姫様。そろそろチェラムの兵士たちに声掛けを」
チンが言う。
「えええっ。まだ食べてる」
姫がごねる。

「何を言っているんですか。もう20個目ですよね。」
「えっまだ20個よ」
そう言う姫の前のケーキを取り上げる。

「チンっ」
姫が声を上げるがその前に紙を差し出す。
「何これ」
姫は読みだす。

「この通りお話し頂ければ大丈夫です。」
チンがすまして言う。

「でもこれ嘘じゃない」
「仕方がないです。嘘も方便です。」
「そんな王族として嘘をつくのは良くないわ」
「姫様はもうケーキが食べたくないのですか。」
チンがケーキをハルの前に出して言う。

姫が取ろうとしたのを後ろにぱっと隠す。

「チン」
「今まで帝国に勝てたのは本当に奇跡です。でもこのまま続くとでもお思いですか。」
「私は不敗の将軍よ。当然でしょ。チンがそうしてくれたのよ」
姫は言い切った。

「私も努力はします。でも帝国軍は総勢100万人です。
さすがにすべてに勝てるかどうか自信はないんです。今皇帝の仇討に必死になっているはずです。
みんな姫様の御命狙ってるんですよ。」

「えっそうなの」
流石ハル姫は能天気だった。
食べ物さえ食べられたら幸せだった。
でも、100万人が狙っていると言われるとさすがにのほほんとはしてられなかった。
野蛮王が怒り狂って蛮刀で切り付けてきたことを思い出していた。
皆が切り付けて来たら、おちおちおいしいものも食べられないではないか。

「それにそこに書いてあるのは本来ならば姫様がやらねばならなかったことです。
チェムラから徴兵された兵士たちは帝国軍に虐待され、いじめられてきました。
ここで姫様から温かい言葉をかけて頂ければ姫様の味方に付くこと確実です。」
「判ったわよ。やればいいんでしょ」
いやいやながらハルは席を立った。


チェラムの降伏兵たちが集められた広場でハルは鎧姿でチンとマナ、ラタナポン将軍を後ろに侍らせて壇上に立った。
「私はハル・ハレルヤ。皆さんがご存知のように私の母はラットリー。
皆さんの母国チェラムの王女でした。」
「えっ」
「やはり」
「でも月の女神とは似ても似つかないぞ」
「・・・・」
チェラムの兵士たちがざわめく

「私は10年前までは痩せていました。
でも、母の母国チェラムが帝国に蹂躙されてからは
帝国の野獣王スラバ14世を倒す為に日々、死ぬような鍛錬を続けました。
後ろにいる侍従のチンと侍女長のマナ、将軍のラタナポンによって日々訓練されました。
野獣王に対抗するには体を大きくしろと。たくさんのものを無理やり食べさせられました。」
えっと驚いた顔でマナとラタナポンは姫を凝視するが姫はお構いなしだ。

「皆さんこの体格見れば母の娘とは思えませんよね。」
前の兵士たちに声をかける。
兵士たちは何も言えなかった。
ただただ首を振る。
「でも、母は最期までチェラムの人々の事を心配していました」
シーンとした兵士たちの顔を見て回る。
「でも、その努力の甲斐あって先日悪逆非道の行いをしてきた帝国の野獣王をこの手でやっと倒せたのです。チェラムを蹂躙したハッパも先日の王城戦で倒しました。
死ぬような努力が実ったのです。」
「ハル姫様」「姫様」
所々で声が上がる。
「そして皆さんにもお願いがあります。
帝国と対抗するために皆さんの力も是非とも貸していただけないでしょうか。」

「殿下。チェラムで将軍を拝命しておりましたククリット・ナコンルアンと申します。
ここに殿下への終生の忠誠を誓います。」
「私もです。」
「私も」
兵士たちが一斉に叫びだした。

「みんな有難う。」
ハルは涙目に言った。心の中ではこれでケーキをまた腹いっぱいに食べられると思っていたのだが…

「姫様。臣下にしていただいて早速の事では存じ上げますが、1つお願いがあります。」
ナコンルアンが叫んだ。

「なんですか」
なんか面倒くさそうと思いながらハルは許す。

「今帝国のチェラム駐留軍は敗走。ここにチェラム軍4万人が殿下の配下に付きました。
今こそ、チェラム解放をお願いしたい。」
「しかし、残敵は強力な戦力を持っていますが。」
チンが横から反論する。
「戦は勢いが肝心かと。それは今回の作戦を考えられた姫様方も良くご存じのはず。
皇帝討伐。討伐軍撃破の勢いでチェラムへ攻め込めば勝利は確実。
王家の血筋をひいていらっしゃる姫様がいかれれば我がチェラム軍は殿下の配下になること確実。
全人民の蜂起も確実かと。
ハル姫様をお迎えすること確実です。
何卒お願いいたします。」
ナコンルアンは土下座してお願いした。
「姫様お願いします。もう飢えで子供たちが死んでしまいます。」
「このままではみんな食べるもの無いんです。」
「姫様」
「姫」
兵士たちが口々に言ってくる。

ハル姫は逡巡した。
こんなことは想定していなかった。
チンもあわてている。
ラタナポン将軍は止めたそうにしている。
母様も最後に言っていた。
「あなたは姫なのよ。
本来は自分の事よりも人の事を第一に考えるのが基本です。
でも、あなたは私の姫。自分の幸せを考えて」

だから自分の好きに生きてきた。
でも、やっぱり姫なんだと。
人民から姫と呼ばれたい。
そのためにはやるべき時にはやらないといけない。
「判りました。全軍出撃用意」
そして大きく息を吸い込んだ。

「チェラムを解放します」
その声は全軍に響き渡った。
大歓声が姫を包み込んでいた。
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