推しは未来の魔王様!?

柴傘

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それから

閑話43.5:ヒロインと目覚め

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あの騒動から約1週間後、私とリオの元へ嬉しい知らせが入る。
レオ様が、意識を取り戻したと。


今は、宮廷医師2名による診察を受けているらしい。


嬉しかった、彼が無事で。
あの日レオ様が目の前で倒れて、私の呼吸が止まったのを覚えている。
もしかしてこのまま、彼は帰らぬ人になるのではないか。


…お腹の子と共に、居なくなってしまうんじゃないかと。


クロムウェル殿下の腕で目を閉じている彼を揺さぶってしまったのは記憶に新しい。
レオ様が眠っている1週間、毎日毎日リオと一緒にお見舞いに行った。
私も勿論心配してたけど、それ以上にどんどんリオの顔色が悪くなっていく。


「…レオ、居なくならないでくれ」


そう呟いたリオの顔は、切実で。
見ているこっちが泣きそうになって来るほど痛ましくて…見ていられなかった。


レオが目覚めた知らせを受けた私たちは、診察が終わるまで扉の外で待機している。


私以上にそわそわ、うろうろしているリオ。
中から僅かに聞こえる医師の声と、クロムウェル殿下の声…時折聞こえる、掠れたレオの声も。


その声は、私たちを安心させるのには最高の薬だった。


生きてる、彼は生きている。
運命に抗い、今この時間に息をしている…。
私達と同じ空間に、居る。


力が抜けてしまいヘナヘナとその場に座り込む。


ふと隣を見ると、さっきから周辺を歩いていたリオも同じように脱力して座り込んで居た。
そんな彼を見て、思わず笑ってしまったのは許して欲しい。




数時間後、漸く面会を許可されて勢いよく扉を開ける。


大きな音に驚いたレオが、此方を思いっきり振り返った。
僅かに痩せた頬に、眠っている時より全然良くなった顔色…生きているレオが、そこにいた。


レオに駆け寄り、思いっきり抱きしめる。
リオも同じように抱きしめていて、腕の中から小さく苦しそうな声が聞こえた。
この1週間の私達の思いの丈を、ぶちまける。


レオが死んだら、後を追おうと考えていたとも。


「…バカ、でしょ。そんな事したって嬉しくない」


馬鹿と言われると思ってなかったから、つい反論しそうになる。
その言葉を心に留められたのは、レオの表情だった。


静かに、頬を伝う涙。


泣いてる自覚がないのか、レオは涙も拭わずに私達を説得する。
そんな事されても、罪悪感で一杯になるだけ。絶対にやるんじゃない、これは命令だと。


私とリオに、初めて下された主人からの命令。


今まで家族同然に過ごしてきたから、レオは命令なんて一度もして来なかった。
するとしても、お茶の準備とか…簡単なものばかり。
面と向かって命じられた事は一度もなかった。


その命令は、彼なりの愛情表現なのだと思う。


レオはまだ13歳で、護られるべき年齢だ。
大人の指示を仰いで遵守する…そんな、歳だ。
それでも、自分の考えであの場に赴いたのは彼なりの覚悟だったんだろう。


怒りで目の前が見えなかった、ごめんと。


そう謝罪する姿は、とても小さく見えて。
あぁ、私はこれから先も彼を守ってあげたいと…そう、思った。
あの時私が止めていれば、レオは考えを改めたのかもしれない。


今更な話だが、私もリオも…リリアンヌ妃への怒りで頭に血が昇っていたのだと思う。


大人しく大人を頼っていれば、誰も傷付かなかった筈だ。
今となっては後の祭りだけど。


もう一度、私とリオはレオを抱きしめる。
今度は抱きしめ返してくれた…温かい、体温がじんわりと広がる。
小さく聞こえるリオの嗚咽には、気付かないふりをして。


小さな声で聞こえたレオの謝罪に、私は首を横に振った。
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