群青の緋

竜田彦十郎

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或いは夢のようなはじまり

61 忍び寄る足音

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「手が!?」

 鵺との戦闘を経験した直樹であっても、その光景には背筋に薄ら寒いものを感じた。
 地面から生えた無数の白い手首が、直樹の腕と言わず身体全体を握り締めている。
 握力こそ感じないが、引き剥がそうとする力をものともしないこの手こそが、直樹を地面に縛り付けている正体だったのだ。

「くそ、放しやがれっ!!」

 叫んでみるも、それに応じる手はひとつもない。

「その気持ちは分からないでもないけど、自力で抗うのは無理だと思うな~」

 諦めの悪い直樹に諭すように、ドッペル直樹は鷹揚に首を振った。

「この世界は、何度も死んでいながら同じ数だけ生を繰り返している君を異物と認識している。
 そしてその手は、この世界の『排斥力』が顕現した姿なのさ。
 排斥力――言葉の通り、この世界から君を排除しようという力の流れさ。
 例えば、マンホールに落とそうとしたり。例えば、異形の怪物を差し向けてみたり。例えば、居住施設に謎の爆発を起こさせてみたり――
 身に覚えがあるだろう? 発生までに時間差があったりで、難を逃れてはいたようだけどね」

 突きつけられた言葉はどれも記憶に新しく、直樹は息を呑んだ。

(それじゃあ、もしかして…)

 香月は直樹の側にいたが故に、巻き込まれただけではないか。
 ドッペル直樹の言を状況にこじつけただけの妄言だと切り捨てるには、多くの事柄が合致しすぎている。
 特に、香月を危険に晒したのが他ならぬ直樹自身の存在であるならば、他のどんな事よりも堪える事実だ。

「ちなみに、だ。排斥力とは言ってみたものの、実は人間を直接的に殺傷するほどの強制力を有している訳でもないんだな。そういった意味での歯痒さは、僕らと大差ないってのが実情だ」

 しかしながら――と言葉を繋ぐ。


「こうして一時的にでも縛り付けたりするのは、君を殺してくれる存在が近くに居るという事に他ならない」


 その言葉を証明するかのように、街灯が照らしきれない暗闇の奥から、なにか引き摺るような音が聞こえてきた。

「嘘だろ、おい……」

 やがて街灯の下に照らされたのは、首だけとなった鵺だった。
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